コイトゥス再考 青山裕企 3

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?絶対領域の記号論


ーただフェティッシュな表現はそれこそ昔から連綿と行われてきたものですが、従来のものというのは露出度云々は別としても、もっと露骨な猥褻さがあったと思うんですよ。ただ、この絶対領域というのは、ある意味では非常に典型的なフェチなんですが、なんとも爽やかというか…、勃起的じゃないというか。

青山 このファッションは女性自身が好んでやってますからね。それを見た男性がグッときたりというのはありますけど、女性があえてこの領域を作っていく、主張していくという部分は面白いですよね。あと、『SGC2』の中に幾つか収録されてるんですが、「萌え袖」というものがあるんですね。


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SCHOOLGIRL COMPLEX 2』より



まぁ見た通りなんですけど、指しか見えてないんですよね(笑)。それがもの凄いグッとくる。ここまでくるとエロスはどこにあるのかっていうね。

―エロスというか、言葉通り「萌え」なんでしょうね。まぁこういったものも含め、今は過度に記号化されたフェティシズムが好まれる傾向があるんですかね?

青山 今はAKB48なんかがまさに世の中を席巻していると思うんですけど、彼女たちなんかはまさに記号的だなという気がしていますね。年齢問わず全員制服でプロモーションビデオや番組に出ている。また人数もあれだけいますから、正直もう、全然知らない女の子でも同じ制服を着てあそこにいたらAKBってなっちゃうわけですよね。これは一例ですけど、どこかしら記号的存在を愛でる時代になったのかなって気がしますね。同じアイドルでも、おニャン子クラブとかとはやっぱり在り方が違ったと思うんですよ。今はAKBという言葉が1人歩きしているというか。

ーファンの人達なんかは、それこそ一人一人のプロフィールまで詳しく知っているんでしょうけど、一方でファンでない人間は何も知らないという。AKBの知名度に比べて、AKBについて余りに無知な気はしますね。

青山 実態が分からないですよね。

―ただ青山さんはそういった記号的な対象をあえて撮られてるわけですよね?

青山 『ソラリーマン』にしても、『SGC』にしても、『絶対領域』にしてもそうですね。記号的な存在が気になる。撮りたいと思ってしまいますね。


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『ソラリーマン 働くって何なんだ?!』
(ピエ・ブックス)



―ことエロに関していえば、この記号化の傾向はどう進化していくと思います?

青山 傾向を見ていくと、もう露出なんて一切いらないんだろうなって気はしますよね。

―モロが見たければネットでエロ動画を拾えばいい的な?

青山 いや、それすらいらなくなってくるのかなって気がしますよね。絶対領域や萌え袖といったものを見ていくとそう感じます。例えばですけど、絶対領域も理想はゼロなのかもしれないんですよ。肌は不要だという。それって究極のフェティシズムではあると思うんです。実体のない完全なる記号的存在ですよね。

―浮遊する記号ですね。青山さんはそのような傾向をどういう感覚で眺められてます?

青山 そんなに喜ばしい状況ではない気がしてますよね。要するに、僕は思春期の頃に女の子と触れ合う機会を持っていなくて、その当時の幻想をこの『SGC』に表現したわけですが、現在の僕について言えば、すでに結婚もしていますし、仕事上でも女性と多く接していて、実体験を得ているわけですよね。『SGC』や『絶対領域』のような本だけを見てドキドキしているわけでは全くないんです。なので、そういう面から見ると、大人になっても『SGC』的なもの、いわゆる記号だけを愛でていく人達がいるというのは複雑な心境ではあります。出しといて言うのもなんですけど(笑)

―おそらく読者の一部と青山さんの感覚にはズレがあるんでしょうね。

青山 そうですねぇ、ただ基本的に当時からずっと僕の中には女性に対する恐怖心っていうのもあるんですよ。もちろん未知なるものへの不安というのもそうですが、やはり女性の嫌な部分というか、計算高さというか、媚びる感じとかですよね(笑)。そういう部分に対する恐怖心や不信感は思春期の頃から拭えずにいる部分もあって。そこを考えると、たとえば二次元の世界、アニメなどにどっぷり浸かっていて実際の女の子はいいよって言っている人の根底にはそういう不信があると思うんです。ゲームの女の子はコントロールできるから好きなんだ、みたいな。

―本当にそれ言うんですよね(笑)

青山 生身の女の子は裏切るし思い通りにいきっこないっていう諦めムードはあると思うんですよね。女性を口説けるマニュアル本とかを読んでなんとかして現実の女の子をおとそうってう作戦を立てることすらしないんだろうなっていう。キャラに対して「俺の嫁」とか言ってますよね。その気持ちは分かるんです。ただ僕も結婚して生身の女性と生活をしていて、時には女性の理不尽さを感じたりすることもありますけど、でもやっぱり非常に充足感があるんですよね。ゲームとかアニメみたいに予想された範疇のものしか返ってこないのではなく、予想外のものが返ってくるというのが人付き合いだと思うので。そういう喜びもいいものだよと思いますけどね。

―つまり青山さんの作品の読み方としては、その記号的な世界にどっぷり没入するっていうんじゃなく、時折ぱらっとめくって青さを懐かしむみたいなのが望ましいってこと?

青山 そうですね。一種のアルバムですよね。僕は自分の過去を思い出して浸るっていうのが好きなんですよね(笑)。決していいことばかりじゃなくて、むしろ良くないことばっかなんですけど。女の子に振られたこととかね。でもそういうことを思い出して酒のツマミにすると案外良かったりするんです。だからそこに深く没頭するのではなく、ノスタルジーに浸る感覚で眺めてもらえばいいんじゃないでしょうか。それに書籍という形態はそういった深い没入を起こしづらい気はするんです。ゲームとかは繰り返しプレイできたり、何ヶ月も継続的にプレイできたりっていうのがあるじゃないですか。ただ書籍はパラパラっとめくってジワッと感情を揺らして、また閉じてみたいな。すぐ読めるし、またすぐ現実に帰れるんです。いい装置だと思うんですよね。

―それはあると思います。写真は飽くまでもイメージ喚起の装置ですもんね。では最後に、青山さんにとってエロスとはどういうものか、簡単にお聞かせ願えますか?

青山 そうですね…、エロスっていうのは暴くものだと思います。どんどん剥き出していくんじゃなくて、ある程度隠された中から暴いていくものなのかな、と。膝裏にエロスを感じる人もいるし、感じない人もいる。あるいは制服に感じる人もいれば、感じない人もいる。ただ、感じ方によっては、例えば絶対領域のようなもの凄く狭い隙間からも想像を凄い広げていけると思うんです。言葉では簡単に言い表せないけれども、そういうところにエロスがあるのかな、と。そういう視点で考えると、街角にこそエロスはあると思うんですよね。

―普段は見落としがちではあるけれども。

青山 まぁいつもアンテナを立てっ放しでは犯罪者になってしまいますからね(笑)




INFORMATION


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スクールガール・コンプレックス──放課後── SCHOOLGIRL COMPLEX 2
(イースト・プレス)
貞本義行、高橋源一郎ほか多くの絶賛と反響を呼び、
ベストセラーとなった写真集『スクールガール・コンプレックス』から、満を持しての続編が登場。
2007年キヤノン写真新世紀優秀賞受賞写真家による、最新作品集。


青山裕企(あおやまゆうき)

写真家。1978年生まれ。東京都在住。代表作に『ソラリーマン 働くって何なんだ?!』(ピエ・ブックス)、『スクールガール・コンプレックス』(イースト・プレス)、『絶対領域』(一迅社)など。

青山裕企HP