君はマニア写真家・アリカワを知っているか?

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君はマニア写真家・アリカワを知っているか?

文/テロル中垣内 イラスト/邪魔堕



「マニア写真家っていっても、そもそもそういう言葉があったわけじゃないの。今でこそ、エロ本編集部がマニアや素人と会ってセックスや調教を行うって形が当たり前のように実践されてるけど、当時はそういうのは全くなかった。マニアインタビューという形で、編集部がマニアのプレイ現場を取材するというのはあったんだけど、ハメたりはしてない。そんな中、俺はカメラマンだったけど、絶倫だったし、セックスにも自信があったから、カメラやりながらハメてっていうことを始めたの。それがマニア撮影の始まり」


 口調は淡々と淀みがない。茶色い髪に、褐色に灼けた肌と、いかにも遊び人然とした風貌だが、漂う雰囲気は理知的である。首から下げられているのはかつての使用機PENTAX 645N、共に幾百のマニア達の実態を追ってきた戦友である。


「年数でいうと約17年。月に平均2組から3組だから、通算すると大体500組ぐらいのマニアを撮影してきたことになるね」


 察するに、今この記事をお読みの多くの方は、このアリカワなる男が何者かと戸惑っているのではないだろうか。


 紹介しよう。マニア写真家・アリカワ。老舗・素人投稿エロ本『ニャン2倶楽部』の看板企画「マニア撮影」のカメラマンとして、また姉妹誌『ニャン2倶楽部Z』の「素人カップル調教ドキュメント」の企画者及び撮影者として、マニア界においては知る人ぞ知る存在。一方で、その経歴については殆ど公表されておらず、知られていることとすれば、2500人を越えるとされる経験人数や、10代から70代までという幅広いセックス経験など、断片的でにわかには信じ難い逸話ばかり。性表現集団『スタヂオ・ブルー』を主催し、またかつて社会学者の宮台真司氏の指名を受け、性をテーマに対談した経験もある知性派。


 おそらく、すでにアリカワをご存知という人の中にも「誌面的に面白おかしくするための嘘の設定じゃないか」と穿った目線で読まれてきた方もいらっしゃるであろうし、実際、アリカワなる男が一体何者なのかといった問い合わせが、しばしば『ニャン2倶楽部』編集部にも寄せられてきた。いま初めてその名を聞いたという人達であれば、なおのことだろう。


 さて、それらの疑問に対する端的な回答を先に記しておけば、これまでアリカワについて『ニャン2倶楽部』あるいは『ニャン2倶楽部Z』で語られてきた数々の逸話には、一切の誇張も偽りも存在しない。いやそれどころか、それらはごく控え目に語られてきたのだとさえ言える。


「誌面では経験人数2500人とか書いてるけど、実際は3000人は越えてると思いますよ。ここまでくるとちゃんとは数えてないけど(笑)」


 マニア写真家・アリカワ。彼はほんの8年前まで、写真家であると同時に“竿師”でもあった。




—幸福の対価として金銭を受領していた竿師時代




「高校三年の時に病気をしちゃって、しばらく学校を休まなきゃいけなくなったの。それが原因でちょっと周囲からはドロップアウトしちゃって。そこからは毎晩のようにジャズ喫茶やバーに通ってたね」



 アリカワは福岡県の生まれである。少年時代はいわゆる優等生で、中学高校共に進学校に属し、決して遊んでいるタイプの少年ではなかった。童貞喪失は15歳とやや早めなものの、その後は経験人数を増やすわけでもなく、ごく真面目な学生生活を送っていたが、高校三年生の時に病気をしたことで生活が一変、毎夜のごとく好きだったジャズを聴きに街へと繰り出すようになる。そんなある時、行き着けのジャズバーで知り合ったのが、当時23歳の神戸出身の女だった。


「駆け落ちって言ったら大袈裟だけど、学校休んで一緒にその女と神戸行ってしばらく一緒に暮らしてて。まぁハメ三昧の日々だよね。で、その女にセックスがうまいって言われてね、そこで初めて自分がセックスうまいってことを知ったんです」



 その女はアリカワに金銭的な援助も行っていたという。


「まぁお小遣い程度だけどね。でも自分の中ではセックスをして女にお金貰えるってことがビックリで。上手にセックスをすれば女はお金をくれるもんなんだって思ったよね」



 一般に、女性との性交渉により金銭的援助を受ける男性のことを“竿師”と呼ぶが、当時のアリカワに竿師の自覚があったわけではない。ただ、この体験が若いアリカワの意識に決定的な印象を与えたことは言うまでもないだろう。その後、大学に進学したアリカワは、一挙に竿師としての才能を開花させることとなる。例えば、不埒であった大学生活を象徴的に示す、こんなエピソードもある。


「大学時代に講義を受けてた教授のブログをたまたま見たらさ、俺のことが書いてあったの。自分の昔の教え子でアリカワってのがいて、そいつはハメ撮りを発明したものすごい性豪で大学入学翌日に女と同棲を始めたとかって書いてあって。俺がハメ撮り発明したってのは間違いなんだけど、同棲したってのは本当。大学の時は教授がそれを知ってたくらいだから、性豪ってのは大袈裟にしても、俺のセックスが凄いってのは知ってる人は知ってたんだろうね」



 もちろん、ただ多くの女と寝たとか、潮を噴かせまくっただとか、そんな牧歌的な話にとどまるものじゃない。アリカワが女を抱く時、そこには必ずしも“金”があった。


「俺は仕送りもらってなかったから、自分でバイトとかもしてたんだけどお金が欲しくてさ。で、女にピンサロやスナックで働いてもらったりして。結構な額を貢いでくれましたね。とはいえ、そんなにモテたっていうわけじゃないの。ただセックスすると女がハマってくるんだよね。やっぱり俺ってうまいんだって思ってね。まず絶対にイカせるっていう信念があったから。クンニでイカせるまで挿入しないぞって(笑)」



 在学中の四年間に数人の女と同棲し、その内の一人と学生結婚、卒業後は大手出版社に就職した。とはいえ、それで稀代の放蕩児が落ち着くかと言えば、そんなわけもない。


「仕事で知り合った女流作家の人がいてね、俺は当時22歳でむこうは38歳だったんだけど。まぁ告白されたんだよね。んで、その人のマンション行ってハメたんだけど、そしたら彼女もやっぱりハマってくれて。その人には外車を買ってもらったのかな。ビュイック・リヴィエラ。結構なお小遣いも貰ったしね」



 その後も、貢いでくれる女達が跡を絶つことはなかった。アリカワの意思を受けてソープ嬢となった女も一人や二人では済まない。すでに出版社を退職していたアリカワは、まもなくマニア写真家としてのキャリアもスタートするのであるが、収入面からすると、竿師としての稼ぎの方が圧倒的に上回っていた。


「貢いでくれるお金をばんばん使ってたらアネックスからブラックカードが送られてきたくらい。税務関係はもう時効だから言うけど、合計すると2億とかはあったと思うよ」



 このように書くと、アリカワという男はなんて極悪非道な輩なんだと思われるかもしれない。だが、アリカワは一度たりとも女性に何かを無理強いしたことなどはないし、むろん暴力や脅しに訴えた試しもたえてない。それどころか、当時アリカワが常に意識していたのは、「いかに女の人を幸せにするか」ということであった。


「最初はセックスのうまさばかりが重要だと思ってたんだけど、セックスのテクニックがあるとかチンコの大きい男とかだったら他にもいるわけでしょ。本当に重要なのは女性その人自身が俺と付き合うことで幸せになれるかどうかなんだよね。みんな自己存在に不安があるんだよ。人の役に立ってるかなとか、自分は世の中にとって必要な存在なのかとか。大体にして自信がない。それぞれが自分の存在に何らかのコンプレックスを持ってる。だから俺は“あなたがいてくれて本当に良かった”ってことを言葉であったり態度で示すの。それによって女性は“わたし、この人のためなら頑張ろう”って思うんだよ」


 ソープで働かせた女の中には、月に300万以上稼ぐようになった子もいるという。その子はお世辞にも可愛いとは言えない容姿で、自分にも自信がなく控え目なタイプの女性であったが、アリカワの助言と応援により、やがて高級ソープ店で指名ナンバー1を獲得するに至った。「これで自分に自信がついた、これも全部あなたのおかげ」、その子はそうアリカワに感謝したという。


「だから必ずしもマンコをイカせることが全てじゃなくて、マンコもイカせるけど、もっとトータル的に“あなたは素晴らしいんですよ”って教えてあげるっていうね。そうすればみんな自信がつく。変な言い方をすれば、俺はそのコンサルティング費を貰ってたんです」


 竿師とは、女性に性的な快楽のみを提供する存在ではない、女性のコンプレックスを癒し、その精神をも幸福で満たしてこそ竿師である、少なくとも、8年前の時点まで、アリカワはそう信じていた。しかし、である。


「8年前にある事件があってね。それによって、竿師みたいなことは一切やめたんです」


 残念ながら、その事件の内容についてをアリカワが明かすことは遂になかった。唯一分かるのは、その事件がアリカワの哲学を曲げる程に重い意味をもったという一事である。


「まぁ結局、そういうことをしていても、女性が本当の意味で幸せになることはないんだなってことが分かっちゃって。それは自分自身についてもそうで、例えばお金が沢山あるとか、セックスした女の数が多いとか、すぐにでもハメさせてくれる女が何人もいるだとか、そういうのって確かにワクワクさせてくれることだけど、幸せとは違うんだなって。そういう風に悟ったんだよね」




—性豪の秘訣。それはエゴを否認する強烈なエゴ。




 竿師を卒業したとはいえ、セックス遊びを絶ったわけでないのは、ご存知の通り。女性からの金銭の受領こそせぬものの、現在に至っても、アリカワはエロ探求に余念がない。


「好奇心が強いから、色んなことを自分で経験してみたいんだよね。特にエロに関してはそう。これはマニア写真家だからとかじゃなく、もともとの趣味。変わった話でいうとさ、俺は18歳の時に新宿二丁目で働いたこともあるんだよ。ホモを相手にケツにチ○ポ入れられてね。まぁそこは一日で辞めちゃったけど。ホモ映画館でおじさんのチ○ポをシゴいたりとか、ホモサウナでおじさんのチンポしゃぶったりだとか幾らでもあるし、そういう怪しいなって思う所は行ってみないと気が済まない。今だってそうだよ。今は女装子にハマってるから(笑)」



 断っておくが、アリカワはホモではないし、おじさんのチンポが好きなわけでもない。それらはひとえに人並み外れた好奇心の所産である。経験という言葉が全ての免罪符になるとは言い難いが(事実、アリカワは性的好奇心が嵩じて逮捕されたこともある)、経験に裏打ちされているからこそ、アリカワの言葉には異様な重みが宿る。


「例えばSMにしても一通りはプレイしたし、年齢で言えば下は***歳から上は75歳までセックスしてるからね。あとは相手との関係性も様々。ちょっと公にはできないような禁断の関係の人ともかなりヤッてる。相手のこととかもあるから言えないけどね」


 仕事上でのセックスが大半を占めるとはいえ、経験人数3000人は伊達じゃないのだ。筆者のような凡夫には、一体どのように生きればそれだけの女性と関係をもてるのだか皆目見当もつかないのだが、アリカワに言わせれば「これが実は簡単なの」となる。


「ちゃんと女の人に“セックスさせて下さい”って言えばいいんだよ。“お願い、ヤラせて”って。俺は凄い不細工ってのじゃないと思うけど、別にイケメンじゃないし美形でもないから第一印象で女にモテるわけでは全くないの。だからこっちの方から“セックスさせて”って言うしかない。男は照れちゃいけないんだよ。恥ずかしそうに“ねぇヤラせてよぉ”なんて言っても“やだぁ、変態”ってなっちゃうから。そこは真剣な顔でさ、“本当にお願いがあるんだけどさ、一回でいいからセックスさせて下さい”って言わないと」


 笑い話のようだが、至って真剣な話なのだ。成功率については「2割から3割ってとこかな」。単純な方法ではあるが、それを実践するには相当の度胸が必要だ。また、より根本的な意識改革として、アリカワは「こだわりを捨てること」の重要性を説く。


「特にファッションに関してのこだわりを捨てること。要は女にモテるファッションをすればいいんだよ。男って基本的にこだわりを持ちたがるんだよね。個性であったりさ。こだわりのある男であればあるほど、自分のスタイルを表現したがる。たとえば俺は今着てる格好とか全然自分の趣味じゃなくてさ。そもそも若者文化とかこれっぽっちも興味ないもの。昔はむしろそういうのが大嫌いでチャラチャラした若い奴とか見たら絡んでたくらい。でも、それじゃギャル系にモテないと分かった瞬間からクラブに毎週通ってさ、サーフィンも初めてスケボーも初めてさ、パラパラが流行ってると知ったら自分より一回り以上も年下の男の子に“教えてください”って弟子入りしてね(笑)。でも、そうすることで途端にギャルの子達とセックスできるようになったからね」



 女に媚びて流行もので身を包むなんて聞けば、男らしくないだの、主体性がないだのと非難を浴びせたくなりそうなものであるが、ここまでされると逆に爽快。一周りして、むしろ雄々しさすら感じる。


「今の女の子たちがどんな男が好きなのか調べて、それを真似するだけ。自分のこだわりとか趣味とかはまったく除外。完全にゼロ。俺がその髪型をいいと思うかどうかなんてどうでもいいの。強いて言うなら、それが俺のこだわりだね」


 簡単に模倣できることでないのは自明である。エゴを否認するという、強烈なエゴ。その厳格さはあたかも仏道を志す修行僧のようで、仏道における煩悩は「こだわり」に、目指すべき涅槃はさしずめ「女淫」に相当しようか。


 尋常ならざるセックスへのモチベーション。その底にあるのは、純粋で熱狂的な、女性への愛なのだ。


「俺は基本的に女の人に優しいんだよ。それは相手がどんなブスでもデブでも頭のおかしい女でも変わらない。普通なら気持ち悪いって思われるような女性に対しても心から優しくできるし、キスだってセックスだってできる。これは別に無理をしているとかじゃなくて、喜んでくれている顔を見れるのが嬉しいんだよね」


 そう言われてみればアリカワはいつだってそうであった。竿師時代においても、金銭こそ得てはいたが、根底には「女性を喜ばせたい」という思いがあったし、例えばマニア撮影にしてみても、その基本理念は「素人マニアの願望実現」であったはずだ。


「なにより、女が好きなんだろうね。可愛い子が好きとか若い子が好きとかいうより、“女”そのものが好きなんだと思う」


 マニア写真家を名乗って17年、アリカワは今年で43歳になる。その半生は、世間一般の価値観からしたら、決して褒められたものではないかもしれないが、アリカワを非難しようとすれば、そこには必ず妬みや僻みが入り込むのも否めない。欲望に対して真っ直ぐに生きる人間を前にした時、我々はいつだって余りにも無力である。


 最後にアリカワは今後の展望を語った。


「実は今すごい興味を抱いてることがあって、それは変態性欲と金銭欲の関係。性欲って人間の本能とされてるけど、俺たちが今やってるようなセックスってのは本能じゃないんだよね。もはや生殖に結びつかないことばっかやってるわけだから。二穴同時挿入とか言っててもさ、本来は一つの穴でいいわけなんだよ。ぜんぜん本能とは関係ない。これは高度に人間的な行為なわけです。で、本能ではない人間の欲望として何があるかっていうと、変態性欲ともう一つ、お金への欲求だと思うんだよね。お金ってさ、あれば物が買えるからとかいった目的抜きに欲しいんだよ。資産増やしたいとか、貯金増やしたいとかさ。この二つの欲望ってよく似てるんだよね。共に際限がないし。で、俺がいま研究してるのは、いかに経済活動と変態セックスを結びつけるかってことなの」


 そのために最近はもっぱら経済学を学んでいるという。変態性欲に限界がないように、マニア写真家・アリカワの旅にもまた終点はないのである。




アリカワ

福岡県出身の43歳。マニア写真家。性表現集団『スタヂオブルー』代表。ニャン2シリーズの特別顧問相談役として、『マニア撮影』、『ムーンライト』、『公衆便所バッジ』、『羽目虎隊』など、センセーショナルな企画を多く生み出す。現在は脱毛に悩んでおり日々プロペシアを服用、その副作用からか、最近は性欲が減退しているとのこと。ジャズとクリームパンをこよなく愛する。最近の口癖は「バリダチ」。







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