写真家・綾瀬凛インタビュー

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ホスト・ゴス・キャバ嬢・V系

写真家・綾瀬凛について

文/福田伸哉


歌舞伎町にホストの写真を撮る女王様がいる。そんな連絡を受け出向いてみた。
取材に応じてくれた写真家の名前は綾瀬りん。その風貌と被写体で注目を集める彼女だが、殊、ここに至る背景にはなにがあったのか。
日本が誇る人間ガラパゴス化の最先端を捉え続ける鋭い目。彼女に密着することで見えてきた普通生活では見られないごちゃごちゃに絡まったマン毛を解して魅せるプロフェッショナルの姿。

“おやくそく”の世界から逸脱したお姫様。

現在の多岐に渡る活動に繋がる原点を探ろうと生い立ちから聞いていく。



綾 瀬 凛 誕 生



「北海道で産まれたんですけど、学校ではすっごい大人しい子で、いつも教室の隅でホラー漫画と、ジャニーズがすごい好きだったんでジャニーズの雑誌を読んでるっていう感じですね。暗ーいオタクでした」


「それは小学校まで?」と聞くと自嘲気味に


「小学校、中学校…、高校もそうですね(笑)今で言う腐女子? ですかね。12年も」


週刊マンガ雑誌の発売日の為に生きていた、というマンガ家志望だった思春期。自作のホラー漫画を書き溜めていた。好きな作家は御茶漬海苔、まつざきあけみ、曽祢まさこ、と耽美作家の大御所が並ぶ。


バイトするところもない北海道の僻地の田舎、クラスのヤンキーが隣町まで出てバイトするところ、綾瀬少女は少ない親からのおこずかいを貯めて古本屋で少女漫画を買い漁っていたという。その後、漫画家への夢を両親に打ち明けるも猛反対を受け、落としどころとして美術系の学校を卒業することを条件に上京。女子美術短期大学へ。


「東京に来てサークルとかに入ったり、はじめて彼氏が出来たりして遊び呆けましたね」


意図しての大学デビューではなく、これまでの抑圧の反動だろう。しかし、遊びは充実しても学業の方はどっちつかずの根無し草。


「高校の時から何回か出版社に漫画は送ってたんですね。でも全然ダメで、割と早いうちに漫画家はあきらめてたんですよ。で、イラストレーターになろう、と思うんですけど、北海道の田舎ではそこそこ絵は描けてると思ってたんですけど、美大ではヘタな方で、完全に井の中の蛙でした」


そして、ストレートの就職を逃した綾瀬少女は専門学校に入り直しデザインを学んだという。その専門学校の卒業制作の写真連作が最優秀賞、朝日新聞に掲載される。感嘆する取材陣に


「今思うと、小娘に賞なんてあげて欲しくなかったですね。朝日新聞も恨んでます。それで調子乗ったおかげで今、大変ですよ」


受賞歴を引っさげて一流デザイン会社に就職するも写真がやりたい、と中途退社。ここらへんが分岐点だったと綾瀬は言う


あや01.jpg「これも今考えると、辞めなきゃよかったのに、って思いますよ。お給料も結構もらってたのに。でも、写真をやらなきゃとかって思い詰めてたんです。で、辞めてカメラを買おうにもお金がない。それでカメラ代を稼ぐ為にキャバクラに勤めたんです」


先の言葉は生い立ちから察するに、小さい頃から表現で身を立てることだけを考えていた少女の謙遜だろう。ともあれ発信法は写真、と決まる。そして夜の世界へ。


「はじめは池袋にタイニュウ(体験入店)行ったんです。そしたら超怖くて、はじめてついたお客さんがモロ、ヤクザさんみたいな人で、それで気にいられちゃって、場内指名でシャンパンとか入れてくれて。でも、オタク少女からしたら、店の雰囲気からなにからビビリまくって、その店一日で辞めたんですよ」


しかし金はいる。そこで池袋は敷居が高いと見て、再度奮起して選んだのは、ときわ台。東武東上線。


「そこは女の子もすごいアットホームで、地元のおじさん相手にやるような店でこれなら続けれるかな、と写真活動もしながらやってたんですよ。実は私もうひとつ名前があって、七色アリスっていうんですけど、それはホスト撮りはじめるより全然前からやってて、ゴスロリ系の世界観なんですね」


ここでもうひとりの人格が登場。七色アリスはロリータ少女、ヴィジュアル系バンド等を撮影し、自作の詩を配して物語作品として発表する際の名前。幻想写真家という肩書きだ。


「そのゴスロリちゃんの中でも、水商売の匂いが出てるのかいつも浮いちゃうんですよ。一緒にいるんだけど異端扱い」


しかし、その風貌のおかげで話題になりインターネット番組などの仕事が入ってくる。さらにそれと平行してキャバクラの人脈を活かしてホスト写真を撮り貯め、ネット上に発表する。昔ジャニオタだったイケメン好きの延長だと位置付け、名前は世界観を異にするとして綾瀬りんとした。




写真について



あや03.jpg「現役キャバ嬢が撮るホスト写真、てことでこっちも割と人気がでて雑誌でページもらったりできたんですよ。ちょうど小悪魔agehaが流行った時とも重なったり、女の人もバリバリ働くようになって、イケメン君を愛でる、やらしい意味じゃなく会って、お話して癒されるってことが普通になったっていうのもあると思います。それで大分写真で食べられるようになってきたって感じですね。でも、ギャルの中に混ざってもまたなんか、ちょっと違う、ってなるんです」


またも異端。しかし、その差異を楽しんでもいる。


「ほんとのはじめは、ばっつり分かれてたんで名前を2つ持ってやってたんですけど、たとえばホストで言うとVホスってヴィジュアル系に影響されたホストがいたり、最近は境界線が曖昧になってるところがあると思うんです」


義務教育、美大、ゴスロリ、水商売、歩んできた人生すべてで感じた疎外感がジャンルの垣根を超えて花開いたのが今だ。


「見た目関係なく、“悪”に憧れる少女、悪役でも美しければいいじゃん! みたいなものを生み出せてるのかなと思います。それでなんとなく思うのは、まんべんなく人に好かれようと思ったら、人って個性を消していくじゃないですか。でもそうなったら私じゃなくていいし、そんな人いっぱいいるし、逆にどこにも属してない方が、出れるんですよ」


スタンスが明確であるだけに辿り着いた真理にただ頷くしかない。では、写真家・綾瀬りんがフィルムに写しだそうとしているものは何なのか。


「ホストさん、バンドマンさんを撮ることが今は9割って感じなんですけど、女目線で“エロいな、これ”って思わせる写真を撮ることかな、と。腕があるわけじゃないし、高い機材でもないけど、性的な目線で対象と向き合って撮ってますね」


エロい写真を撮る為、フィールドワークでホスト遊びもしている。


「お金ないんで、初回荒らしですけどね(笑)歌舞伎町では半分くらいの人に知られるように今なってるんで、指名すると“綾瀬りんに気に入られた”って思ったホストくんが、営業メールを送ってくるんですけど、どっか商業的に見てるのか“そんな営業ばっかしてるとモデルとして使ってあげないよ”とか言ってあしらって、貢いじゃうとかハマるとかはないですね」


「というか、これまでホストにハマる女の子の気持ちが分からなかったんですね。でも、七色アリスちゃんで書いてる物語に共感してくれる女の子に、ホストにハマるタイプの子がかなり多くて、私としては“なりたくて目指してるんだけど永遠に辿り着けない理想の自分”を表現してるつもりなんですけど、その理想の姿に、モノにできないホストくんの姿を投影してるのかなと思うんです」


あや02.jpgでは、ちょっと脱線して、ホストのセックスはどうなのか? と素朴な疑問を投げると「友達から聞いた話なんですが」と前置きして


「やっぱり顔のいい男って顔だけでここまで来ちゃってるんで何もしないらしいんですよ。“顔がかっこいいからいいでしょ”と言わんばかりみたいな感じ、クンニとか無し。私はセックスって世界観の共有だと思うんです。だから、見た目よくても、それだけ、って人は全然いいと思えないですね。逆に顔がよくなくて、三枚目キャラとか、そういうホストくんの方がセックスうまかったりするみたいですよ」


確かに、結局、ホスト遊びは偶像追求でしかないという側面もあるだろう。深く関わればボロも出る。しかし、そう言ってしまえば、何かのコレクター、アイドルファン、セックス回数を数えるヤリチン男、ある種の快楽を伴うデータ集め全てに通ずるだろう。


「そういう私も、今の旦那が絵描きなんですけど、私の方が4倍くらい稼いでるんですよ。だから彼はスーパーホストなんじゃないか。私も同じように貢いでるんじゃないかな、と」


元々根底の気質は似たモノ同士だったが、見た目やジャンルで隔てられていた壁。それを壊すことで背負う責任も感じている。


「七色アリスちゃんのファンだったゴスロリちゃんが、私の別名義の仕事ってことですんなり受け入れちゃうじゃないですか。それでホストに行ってみた結果、ハマっちゃって、風俗に落ちちゃったって子もいるんですよね。私がその世界を紹介したからなのかなって思うこともあります」


問題を孕む故の逡巡もあるが、そのジレンマを抱えても表現すること自体には尚、意欲的だ。ここでひとつ編集部から質問をしてみた


「キャバ嬢もそうですけど、ホストって端からみたら多様性があまりないと思うんです。よくあるギンギラギンな格好を必ずしも皆好きなわけじゃないじゃないですか? そういうところから抜けた、新しい型って形成されてたりするんですか?」


その返答。


「正直そんなにないですね。海外から見た日本の6大不思議サブカルチャーってあるらしいんですよ。ヤンキー、デコトラ、ギャル、ゴスロリ、ヴィジュアル系、ホスト。そのひとつに数えられてるみたいなんですけど、ひとつの体系化しててカルチャーとして残りそうですね。それでいくと私ってその中の4つを仕事にしてて、ヤンキーとも馬が合うことが多いんで、後はデコトラだけですね(笑)」


では、なぜその独自の文化は日本にだけ形成されるのか?


「難しい質問ですね。私が思うに、カラコン入れたり髪染めたり、外国人に憧れて真似してみたんだと思うんです。そしたら行き過ぎてヘンな方に行っちゃったんじゃないかと」


コンプレックスを肥大化させた故の行き過ぎた自己装飾。いかにも日本人らしいかも知れない。


綾瀬りん曰く、自分が興味を持って撮るものは全て“はみだしもの”である。その因子同士を結びつけ、既存の枠が取り払われて生まれる、違うものなのに感じる既視感、対応していないのに生じる符合、ぴったりはまる凸と凹。


最後に、「そーいえば、綾瀬さんの見た目もデコトラっぽいと言えなくもないから6つ全部いってんじゃないですか」と聞くと


「こーいう女もいていいんじゃないかい。って言いたいですね」と結んでくれた。

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