コイトゥス再考 荻上チキ

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コイトゥス再考 #13

荻上チキ 

セックスメディアの現在

文/辻陽介 写真/藤森洋介


現代のエロについて語ろうとするとき、アンビバレントな二つの眼差しがある。

一方は、かつての深く濃密であったと言われる性の有り様を懐古的に羨望し、供給量ばかりが過剰で、その実、内容が伽藍堂にも見えかねない現在のエロを悲観する眼差し。そしてもう一方は「いや、待てよ、たしかに昔はもっと濃厚なエロがあったのかもしれないし、今のエロは見方によっては即物的に過ぎるのかもしれないけど、現代の方がもっと自由に性を楽しめてるじゃん」と現状を楽観する眼差し。

筆者自身、ゆとり教育あがりのネット世代、現在のエロ文化の低迷(?)に批判的な振る舞いをしてみせても、どこかに「これって単なるアナクロなのかもしれない」という内省がつきまとう。市井に氾濫する「草食化」や「コミュニケーションの希薄な若者」という言辞に翻弄され、また自らもそれらを安易に口ずさみながらも、拭い切れない違和感がある。

先月、荻上チキ氏により上梓された新書『セックスメディア30年史?欲望の革命児たち』は、そのような違和感に見事に応えてくれる一冊であった。

そもそも、セックスをテーマとする語りにおいて、80年代生まれの論者による言論自体が少なくとも筆者にとっては初の体験。あるいは初めて等身大のまま読むことができたセックス評論とさえ言えるかもしれない。

果たして若者たちのエロは本当に貧しくなっているのか、そして話題の新書『セックスメディア30年史』について、著者である荻上チキ氏に話を聞いた。



(2011年5月/渋谷)


?本日は宜しくお願いします。荻上さんはメディア論をご専門とされているということで、今回は現代の性愛、ジェンダーについてを、それらが表現される容れ物としてのメディアの様態から再考察していければと考えているのですが、まずとっかかりとして先日発売された荻上さんの新書『セックスメディア30年史』についてお話を聞いていきたいと思います。そもそも、今このタイミングでセックスメディアについて書こうと思われた動機はなんだったんです?

荻上 執筆の動機は様々で一言で説明するのはなかなかに難しいのですが、これまでにエロが語られる上で、エロ系の先輩ライターさんの多くが、コンテンツを中心に語っているのについていけない、というのがひとつにはあったんですね。コンテンツというのは、AVやエロ雑誌、エロ小説、エロマンガ、あるいは最近だとギャルゲーとか。他のコンテンツにない魅力をいかに評価するか、コンテンツに対して、いかに物語を付与し、おもしろおかしく語っていくかというのが、エロを語る上での暗黙の文法だったわけです。

そして、このような方法論をとられている方たちの多くは、80年代や90年代からライターをされていた方たちで、00年代以降も基本的には同じ方法で書かれている。プレイヤーもあまり変わってない。でも、多くの利用者は、「あのサイトが、自分好み」とか「あのサイトが出会える」みたいな、メディアベースでの会話もしますよね。でもそういう目線の文章はあまりないし、エロサイトなどについての歴史をレビューなどもほとんどなかったわけです。そこで僕は、コンテンツ側からは語られないエロ、80年代や90年代からのライターの人達には語られていない部分を書こう、と。それがメディアとしてのエロだったんですね。


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セックスメディア30年史欲望の革命児たち (ちくま新書)




ーメディアとしてのエロ、つまりセックスメディアですね。しかしこれまでそれがほとんど語られてこなかったというのも意外ですね。

荻上 出会い系サイトやエロサイトっていうのは、それ自体としてはレビューのしようがないんですよ。たまにそういう記事が載ってても、PR記事だったり。あと、単純に、書き手があまり使ってないというのもあるんでしょうね。使ってても、そんな記事、あまりお金にならないでしょうし。これまでにもエロ雑誌などが衰退していく一つの原因としてエロサイトが語られることなんかはあったんですが、それがどのように誕生し、また盛り上がっていったのかという歴史として語られることはなかった。そもそも語り方、興味の範囲が違うんです。ところで辻さん(インタビュアー)って今年おいくつですか?

ー僕は今年28ですね。

荻上 僕が今29なので、同世代ってことになると思うんですが、僕らの世代というのは高校や大学にいた頃からエロサイトを見てヌくっていうのが至極当たり前の行為だったじゃないですか。

―むしろ雑誌でオナニーするより主流でしたね。

荻上 ですよね。にも関わらず、エロサイトに対する語りは少ない。そこに不足感があったんです。僕らより年長世代の書き手の観察ではしばしば、エロのここ20年から30年というのは失われた歴史、あるいは衰退の歴史として語られます。ただ一方、僕らの世代の人間からしたら「むしろどんどん便利になってるじゃん」という実感もある。ネットを開けば無料エロサイトが充実しているし、テンガなどの機能性の高いオナニーグッズもある。AV女優もどんどんキレイになってるし……、もう最高じゃんみたいな。比較的プラスで語れる状況なわけですよね。

―確かにオナネタの質は著しく向上しましたよね。

荻上 その部分の歴史を今書くっていうのが必要だなと思い、今まで語られていない部分に焦点を当てて書いたんです。だから、ロマンポルノやAVといった、すでに他の方が書いているコンテンツの歴史は割愛し、「メディア史」に特化しました。「僕には書けないから」というのもありますし、自分の強みはここかな、というのもありますね。僕はもちろんエロコンテンツも好きなんですけど、どちらかと言えば出会いの方に興味があったというのも大きいかもしれません。テレクラから出会い系サイトや、ライブチャットとかですね。表現よりも、コミュニケーションがどのように変質していったのか、あるいはメディアだけでなく、それを変えていった人たちの欲望を書きたかったんです。作り手側も、使い手側も。だからインタビューも多めに載せたりして。

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