香山哲のクーラー

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インディーズ出版レーベルを主催し、漫画家・ゲーム作家としてアンダーグラウンドで精力的に活躍する香山哲。スーパーファミコンに没頭し、コロコロを買い、ビックリマンシールを集め、バーコードバトラーにカードを差し込み続けた青春を贈り続けたVOBO編集部員と同じ80年代生まれの彼が、揺れつづける「原子力発電」に対して出した答えとは!?

ー香山さんは作品として、漫画とゲーム両方を並行して発表されてますよね。


香山哲 始めたのは先にゲームでしたね。中学の時にWindowsでゲームを作り始めて、PC雑誌によくある無料ソフト付録とかに載せてもらうようになって、本誌の挿し絵もやらせてもらうようになって…漫画は大学に入ってから、20代から本格的に描き始めました。


ーゲームが最初だったんですね。


香山哲 ゲームの仕事って一人だと中々できないので、ずっと本職にはできなかったんですけど、最近やらせてもらっています。


ー今日は「漫画少年ドグマ」※1持って来ちゃいました。大好きです。



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※1 香山哲が主催する「ドグマ出版」により創刊された漫画雑誌。80年代生まれ男子の心を揺さぶる作品多数収録。




香山哲 この雑誌で、「コロコロコミック」のメディアミックス的なノリをしてみたいという事になって、ゲームを作ってる人を呼んで、誌面で企画会議をしたかったんです。「ロックマン」や「半熟英雄」のボスキャラ募集! とかあったじゃないですか(笑)ああいうのをやって、ゲームを発注できたら面白いなと思って、携帯ゲームを作れる人を探して声をかけたんですけど、呼んだつもりが、流れで僕もゲーム作ることになったんです。


ーmixi、モバゲーでやりました(笑)。漫画雑誌製作とゲーム製作が繋がっていたんですね。本題に入りますが…最新作の「クー ラー(cooler)」と同じ時期に発表された電子書籍「原子力発電の基礎知識」について教えてください。製作時期はもちろん、地震後ですよね。


香山哲 地震が起こって……あれ、昼に起こったじゃないですか。街は混乱状態だったんですけど、夕方には「やり残したこと全部やろう」と思って…まず、寿司が食べたいと思って、スーパー全部回ってお寿司を探し求めていたんです。メガマートみたいな店が震災で全部閉まってる中、酒瓶が割れても営業している農協みたいなスーパーで買った寿司を食べて、次はチョコパイを食べ続けたり…半月ぐらいノイローゼみたいになって、「どうせ何やっても 100年で死ぬ」「1万年経ったら何も残らない」とか思うようになっちゃって(笑)


ー諸行無常を感じたんですね(笑)


香山哲 やっと立ち直り始めたのが3月の末で、それから「クーラー」と電子書籍「原子力発電の基礎知識」を二週間ぐらいかけて作ってました。 元々興味はあって、本は何冊か読んでいたんですが、改めて勉強して…。


ー電子書籍「原子力発電の基礎知識」、もの凄くフラットな思想で描かれてますよね。




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原子力発電の基礎知識

政府、東電から出ている資料参考に香山哲が製作した電子書籍。原子力発電についての基礎知識が、漫画によってもの凄くわかりやすく描かれている。原子力について最低限これくらいは知っておいてから議論しないと、賛成派だろうが反対派だろうが、本当に恥ずかしいことになるぞ。「放射能怖い!」と叫んでていた幼い子供がいる友人の主婦が福島県は日本海側にあると思ってた。というのはまた編集Hdaの別の話だけど。
冊子版は模索舎で購入可 こちら
右の欄でアンドロイド、iPhone版が無料DLできます。






香山哲 そうですね。まず世間の注目が高いのは判っていたんで、無駄に叩かれてはいけないと思っていたし、「けっ!」て思われて、せっかく原子力に興味もってくれた人を門前払いしたくなかったんで、なるべく門に招き寄せる内容にしました。チラシの入っていないティッシュ配りの心境で(笑)。


ーははは(笑) これを読んで感動したのは、漫画の中にはメッセージ性や皮肉が、ほとんどない。でもよく読み込むと薄らと入っている。というバランスが素晴らしいですね。


香山哲 「直ちに影響のないレベル」まで濃度を落としてます(笑)


ー変な話、東電の広告物として出版されていても通用するレベルになってるのが凄いです。


香山哲 それはおっしゃる通りで、最初に「これだけはクリアしなければならない」と決めた条件が、「政府と東電のデータしか使わない」ということと、「そこから導き出せる範囲のことしか描かない」ということでした。


ーかなりダウンロードされましたよね?


香山哲 電子書籍のランキングで、それまで多分「血液型占い」と「カイジ」がずーっと上位に居たんですけど(笑)。一瞬でもその上に原子力関連が入ったのは、良かったなぁ、と思いましたね。「血液型占い」なんて非科学の代表じゃないですか。初めて科学が非科学に勝った!(笑)


ーこの本は単純に、原子力についてもっと皆、知ってから議論するべきだと思って発表されたんですよね。


香山哲 普通の人は、テレビと新聞の情報がほとんどで、「電力不足」という言葉が一番念頭にあって…その、日常生活に無理矢理結びつけた言葉で考えが止まっているのを、前に進ませたかったんです。


ー大きな声で煽動していくんじゃなく、ジワジワと「普通の知識」を普及させていくのは凄く効果的ですよね。


香山哲 情報が全然入って来ない状態で、みんな毎日暮らしているんで、小石を一つ置くだけで脱線してしまう列車のような脆さですよね。だから小石で十分だと思い、それ以上の突っかかりは「原子力発電の基礎知識」には入れていません(笑)。


ーバランス感覚が秀逸だと思いました。


香山哲 でも、反原発、脱原発活動をやっている人からは文句が出るんです。「これじゃ甘い! ぬるい!」って言うんですね(笑)。だから「クーラー」はそっちの人たちに応えた作品かもしれないです。皮肉の方をメインに置いてます。



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クーラー(cooler)

香山哲によって製作されたPC&携帯用ゲーム。残念ながら大手SNSゲームサイトでは配信ない。無料で遊べる。

空想の電力会社「エレクトリックデュプリカーナ」の「えらい人」になって、人々の抗議活動熱と事故を起こした発電所の暴走熱、ふたつの熱を同時に冷ますために貴方は「会見」「広報」「調査」を決定しつつ本社前に集まるデモ、事故が起きた発電所に対処しなければならない。電力会社側の立場に立つことで見えてくる終らない(終れない)原子力発電事故の難しさ、徒労感を思う存分味わえるぞ。

本当に冷やさなければならないのは、熱に煽られて思考停止した自分の頭だということがよく分かるゲーム。




ーこのゲーム実際にプレイしたんですけど…本当に皮肉のみで構成されてて、逆に皮肉だということも判らない人がいるんじゃないか、と思うゲームですよね…。淡々と世間と原発に対して処理だけしていくしかない、という現実のようなリアルさが生々しいです。


香山哲 四回ぐらい作り直したんですけど、どうやっても面白くならないんですよね。負けるのが決定しているゲームなんで(笑)。


ー「クーラー」は、昔あった「バイトヘル」に象徴されるような、いわゆる「純・作業ゲー」だと思うんですが、今、現実が「作業ゲー」になっちゃってますよね。こんな言い方どうかと思いますが。


香山哲 水が下から抜けてるの判ってて、ずっと上から放水を続ける、とかそういう感じかもしれないですね(笑)


ー本当に作業ゲーですね…。


香山哲 このゲームを作った大きな目的、一つ主題があって…デモをやってる市民が「今すぐ原発を全部止めろー」とか言うじゃないですか。一方、電力会社の人は「申し訳ございません」の一点張りとか、「調査中です」とか言う。でもそれは、デモやってる人も、電力会社の人も一応、「立場上」言ってるのに、テレビを見ている人は「素」で運動家に対して「そんなのできるわけねーじゃん」とか、電力会社に対して「態度が悪い」 とか、「素の状態」で立ち向かうのは非常にフェアじゃない、と思うんです。3手先のことや発言効果を考えれば「この発言しかできない」ということは立場を見れば解るわけで。


ーなるほど。


香山哲 「人には立場っていうものがある!」ということを解ってもらえたらいいな、と(笑)電力会社の人になる、一種のロールプレイングです。なんら過激っていうわけじゃないんですけどね、大先輩に「シムシティ」※2 っていうゲームがありますし。あれは凄いです。


※2 シムシティ(スーパーファミコン版)。1991年に任天堂から発売された名作シュミレーションゲーム。市長となって財政を切り盛りしながら街を大きくしていくのが目的。天災をボタン一つで起こせる仕様が凄い。「発電所と工場建てまくって、公害で文句言う住民を娯楽施設建てて黙らせる」なんてことは小学生だって自然にやってたことを、この話聞いて思い出しました。音楽も最高にカッコいい。


ーSFC版やりました。


香山哲 原発設置は完全にギャンブルですからね。寿命は50年で、爆発するとリセットするしかなくなるという(笑)。


ー原子力発電所建てまくりましたよ、僕(笑)


香山哲 僕もそうです。でも最後は脱原発にしていくか…、もの凄い離れた土地に置くしかないという(笑)。


ー離れ小島があるマップを最初に選んだり。シムシティで考えると原発問題って判りやすいですね。


香山哲 クーラーは英語版も発表するつもりなんですが…アメリカや、ヨーロッパ、アジア、僕らが知らない国の人たちは、日本人たちが、なんで原発に対して作品で発表しないのか、って思ってるらしいんですね。なんでTシャツとかないのかって。


ーこんな大きなネタを与えられてるのに…(笑)。


香山哲 「ネタ」だし主張のチャンスなのに。ピュアに笑える「ネタ」しか「ネタ」として見ない日本の文化は、あんまりリッチとは言えないのかなとも思います。海外にはシンプソンズやモンティ・パイソンが遠慮なくふざけて体制批判するみたいな感じあるじゃないですか。政治=堅くないといけない、というのは政治を遠ざけすぎじゃないかと。


ー「余裕がありそうで全くない日本」というのが見えてきますね。それにしても…「クーラーcooler)」いいタイトルですよね。


香山哲 昭和の単語ですよね。エアコンじゃなくてクーラー(笑)


ー確かに!(笑) 今日はありがとうございました。家帰ってまた「クーラー」やります!!!



香山哲/漫画家・ゲーム作家

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