エロ年代の想像力 第十三回

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エロ年代の想像力

#13 『 清純看護学院 』

アニメルカ出張版



 すでに本連載、南澤十八/新房昭之概論で論じられた通り、「今や、新房×シャフトとは、一つの固有名をもった作家ではなく、非人称的なシステム」に近い存在にある。


 そしてそのシステムには裏で運営を補佐する、いわゆる「新房チルドレン」と呼ばれるものたちが存在する。現在は宮本幸裕や尾石達也がその代表格だが、しかしその筆頭として挙げるべき存在は、新房が自身の演出技法を確立し、システム化してゆくその過程で右腕として働いていた大沼心だろう。


 ではその大沼心が、始めて新房昭之と組んだ作品が一体なにかご存知だろうか。『月詠 ?MOON PHASE』? 違う。では初めて演出を手掛けた作品をご存知だろうか。『ふたつのスピカ』? 違う。


 どちらも『清純看護学院』である。


 偶然かそれとも必然か、集結した数々の才能。そして作中に随所に散りばめられた、新房演出の原点とも言うべきマテリアルピース。新房×シャフト作品は、すべて本作の延長線上にあると言っても過言ではないのだ。



『清純看護学院』
(監督:南澤十八、製作:ディスカバリー、全3巻、2002-03年)





 エロアニメにおける新房昭之の仕事——「南澤十八」を手っ取り早く知りたいのなら、早い話、本作を見ればいい。
 他の南澤作品でもいわゆる新房演出は多々、指摘することはできる。しかしそれがより明確に、最も完全な形で前面化しているのが本作である。新房演出の代名詞の一つであるロングでの演劇的なキャラクター撮影、ステンドグラス演出の連発、そして今もシャフト作品で頻繁に使用される「顔面黒塗り」の登場。


 さらにその顔面黒塗りキャラにセピア色の画面と昭和風のテロップを乗せた、古い映画風のカットに至っては完全に『絶望先生』のプロトタイプだ。音楽を担当しているのは新房のTVアニメ復帰第一作となる『魔法少女リリカルなのは』の佐野広明である。


 当時のスタッフの証言によれば南澤はクレジットに表示されない影でコンテを切りまくり、さらにこう述べていたという。「エロが足りない。これではエロくない。もっとエロにしろ。エロだ、エロだ、エロエロエロ」。


 そこにはメソッドを確立し、システムと化す前の、剥き出しの新房昭之がいる。


 本作の最終巻で看護婦の先輩・河合主任は汚れ仕事を嫌うヒロイン・由美に言う。「夢を叶えたいのなら、現実から目をそらしては駄目。どんなに辛くても汚れても、誠心誠意、患者さんに尽くして始めて、誰からも愛されるナースへの道が開けるんじゃないかしら」。これはエロアニメ界という冥府魔道に落ちてもなお、その演出技法を磨き続けた新房の、まさに心の叫びではないだろうか。


 この一年後、新房は『魔法少女リリカルなのは』、『月詠 -MOON PHASE-』で再びTVアニメの世界に返り咲く。そしてその独特かつ個性的な演出技法によって、人気アニメ監督としての道を歩み始めるのである。



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清純看護学院 1時姦目




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清純看護学院 2時姦目




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清純看護学院 3時姦目


 以上0721文字。


 本文には入らなかったが、キャラクターデザイン・作画監督を務めたT☆ETUYA=竹内哲也を始め、雄谷将仁など、他にもそこそこ名の知られた(後に知られることになる)アニメ関係者がやけにたくさん関わっていたりする。ちなみに主題歌を歌っているのはまだ売れる前のKOTOKOである。まさに奇跡的な作品なのだ。


 というかエロアニメ教養主義的な文脈を廃してニュートラルな目で見ても普通に傑作の部類ですよ。

 ちなみに6月12日に大田区産業プラザPiOで開催される第12回文学フリマでは、思想系同人誌『エロ年代の想像力』編集の反=アニメ批評が責任編集をつとめる『アニメルカ vol.4』が姦行予定である。そこでは、南澤=新房の話題作『魔法少女まどか☆マギカ』に関わる論考をはじめ、杉田uによる『フラクタル』論も掲載予定となっている。エロアニメを凝視するような熱い視線で注目していて欲しい。



PROFILE
杉田u(@sugita_u
思想恥部シリーズ『エロ年代の想像力』企画協力。またアニメ批評同人誌『アニメルカ vol.1』に四コマ原作アニメ論を、『アニメルカ vol.3』に『けいおん!』論を寄稿。
『エロ年代の想像力』のほうは現在、ジュンク堂 新宿店、MARUZEN&ジュンク堂書店 渋谷店、COMIC ZIN、タコシェ、および通信販売で好評発売中。
ブログ:ばべのれ
『アニメルカ』オフィシャルサイト
反=アニメ批評



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