エロ年代の想像力 第十四回

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エロ年代の想像力

#14 『 旅館白鷺 』

アニメルカ出張版


 本作の第一話はその作画面において、おそらく南澤十八の全作品の中で最もクオリティの低い作品である。キャラクターの顔と表情は粗雑で、加えてとにかく動きがない。マジで動かない。


 それは平均的なエロアニメの水準をも下回っており、おそらく南澤はこのとき初めてコストなし、人手なしという劣悪なエロアニメ界の制作環境の現実に直面したのではないだろうか。


 しかしそのような劣悪な環境でも、いや暗所だからこそ、宝石は眩い光を発せずにはいられない。



『旅館白鷺』
(監督:南澤十八、製作:ディスカバリー、全2巻、2003-04年)




 本連載の野火止概論でも述べたように、エロアニメにおける性表現の良し悪しはメディアの性質上、どうしても「動作」に多くが担保される。


 これに対してその「動作」に依存せず、アングルやレイアウトの工夫とそれを切り取る止め絵の多用などによって巧みにエロスを演出してしまうのが南澤十八だが、しかしそんな新房メソッドも万能というわけではない。その演出を引き立たせるためにも最低限の動作は必要であり、そして困窮した制作環境がもたらしたと思われる本作一話の準作画崩壊状態は、その限界を逸脱しててしまっている。


 このような場合の対処法とは何か。


 南澤が選択したのはまず、止め絵として切り抜くシチュエーションそのもののエロス&インパクトの増大だった。


 本作はそのタイトル通り、とある旅館『白鷺』を舞台にしており、そしてそこで宿泊客に対してヒロインによる性的な接待が行われる。一話のハイライトはその性接待でヒロインが過酷な特訓によって会得した究極の性技、女体回転寿司を振舞うシーンだ。


 そこではヒロインが宿泊客の注文に応え、寿司ネタを膣内から自在に排出して提供する様子が描かれる。宿泊客たちはその寿司ネタに嬉々として箸を伸ばす。


 さらりと書いてしまったが、それは他に類を見ない異様な画である。そしてこの場面でのヒロインは括約筋に力を入れるだけなので、当然だがほとんど動いていない。しかし私たちはそのあまりにラディカルな光景に目を奪われてしまい、他のことなど忘却してしまう。


 そこでは絶対的に「動かせない」逆境によって立ち現れた逞しさ??ときに紙芝居と揶揄されながらも、「動かなくても強度があればいいじゃない」と開き直る新房システムの哲学が、非常に先鋭化した形で顕在化しているのだ。







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旅館白鷺 一泊目




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旅館白鷺 二泊目




 以上0721文字。


 本作にはもうひとつ、重要な注目点がある。それはヒロインに様々な性接待をされる宿泊客たちの姿だ。


 作中でこの宿泊客たちは非常に画一的な「影」としてしか描かれない。彼らは細長い、陰茎のような姿でゆらゆらと蠢き、ヒロインたちを取り囲む。そして彼女たちを貪り食らう。


 この光景に私たちは見覚えがある。


 そう、『魔法少女まどか☆マギカ』において最終回の世界改変後に出現し、暁美ほむらを取り囲んだ魔獣たちの姿だ。


 本作によって新房があの魔獣を、マッチョイズムの象徴として意図していたことが、暗に証明されているのである。



PROFILE
杉田u(@sugita_u
思想恥部シリーズ『エロ年代の想像力』企画協力。またアニメ批評同人誌『アニメルカ vol.1』に四コマ原作アニメ論を、『アニメルカ vol.3』に『けいおん!』論を寄稿。
『エロ年代の想像力』のほうは現在、ジュンク堂 新宿店、MARUZEN&ジュンク堂書店 渋谷店、COMIC ZIN、タコシェ、および通信販売で好評発売中。
ブログ:ばべのれ
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反=アニメ批評