ケロッピー前田展「ホルマリン・スケープ」への導入

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ケロッピー前田展「ホルマリン・スケープ」への導入

構成/辻陽介





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VOBOでは既にお馴染みの身体改造ジャーナリスト・ケロッピー前田氏の個展「ホルマリン・スケープ ~1万年後のためのスキン&ブレイドの風景~」が、3月15日より板橋にあるカフェ「百日紅(ひゃくじつこう)」で開催される。

これまで国内外を問わず勢力的な展示活動を行ってきた前田氏だが、この「ホルマリン・スケープ」で展示される写真作品は、いわゆる前田氏の写真作品の中核である「身体改造実践者」を対象とした写真作品群とは、やや趣を異にしている。まず、本展示がいかなるものなのか、プレスリリースより前田氏の言葉を引用したい。


「ホルマリン・スケープ」とは、作品化されたホルマリン標本に映し出される心象風景である。そこにはブレイド(医療用メスの刃)があり、スキン(生きた人間から剥がされた皮膚)があり、鮮血を拭い取ったペーパーがあり、高濃度のホルムアルデヒド溶液が充満されている。

 私、ケロッピー前田は、フォト・ジャーナリストとして、ピアス、タトゥー、身体改造などのドキュメンテーションを続けてきたが、その中でも「ホルマリン・スケープ」のシリーズは、特に抽象的な形で“身体を改造すること”を表現しようとしている。

 被写体となったホルマリン標本は、「CLONE L AND R」と題され、2005年にフランスの身体改造アーティスト、ルーカス・スピラとのコラボレーションによって生まれたものをホルムアルデヒド溶液に投入したものである。透明のアクリル板に挟まれた素材は私自身の額から剥がされた皮膚であり、そこから取られたDNAがクローン技術によって試され、“私”がいつの日か蘇生するかもしれない。そんなことが実現するのは、1万年後のことかもしれないが、常に未来的なヴィジョンを思い描きながら、ホルムアルデヒド溶液の気泡の向こう側に“未来”を探して欲しい。(ケロッピー前田)



なお、今回の展示においては、会期中の週末四回にわたって、それぞれ異なるゲストを迎えてのトークライブも行われる。僭越ながら筆者(VOBO編集代表・辻)も、第一週目[3月17日(土)午後7時~]のトークショーにおいて末席を汚させて頂くこととなった。

そこで本欄下部に、「ホルマリン・スケープ」展にむけてのケロッピー前田氏と筆者による対談を掲載する。「ホルマリン・スケープ」展および、毎週末に行われるトークショーを、より深く楽しむための手引きとなれば、幸いである。



ケロッピー前田展
ホルマリン・スケープ
~1万年後のためのスキン&ブレイドの風景~

Keroppy Maeda Exhibition
"Formalin Scape"

2012年3月15日(木)~4月9日(月)@カフェ百日紅
<http://medamadou.egoism.jp/hyakujitukou/>

東京都板橋区板橋1-8-7小森ビル101
03-3964-7547

※会期中毎週末に豪華ゲストを迎えてのトークライブあり。

3/17(土)19:00 - 鈴木孝(TH編集長)、辻陽介(VOBO編集長)、みーな(着ぐるみスト)、なまこ(イラストレーター)
3/24(土)19:00 - 徳野雅仁(イラストレーター、自然農法)、シギー吉田(写真家)、福田光睦(Modern Freaks主宰)
4/1(日)17:00 - ゴッホ今泉(イラストレーター、デパートメントH主宰)、Kid'O(ラバーショップKurage)、サエボーグ(インフララバーアーティスト)
4/7(土)19:00 - 釣崎清隆(死体写真家) and more...




 さて、まずは今回の展示『ホルマリン・スケープ ~1万年後のためのスキン&ブレイドの風景記~』について、あらためてご説明をお願いします。

前田 僕はずっと国内外の身体改造(ボディ・モディフィケーション)のシーンをドキュメントし、また、それらを作品として発表してきているけど、今回もそのシリーズの一つ。展示されている写真作品は、剥がした人間の皮膚をホルマリン漬けにした立体作品を撮影したものなんだけど、それらを一つの“心象風景”として提示しているのが今回の展示ですね。ちなみに、作品に使用している皮膚は僕の額の皮膚。辻君には、これらの作品はどう見えるかな?

 個人的な感想としては、一見すると、前田さんの他の作品群とはちょっと趣が異なるように思えますが、根っこにある思想は、まさしく身体改造の精神だな、と。展示作品は切り離された身体の一部分による作品なので、いわゆる直接的な身体改造の写真作品ではないですが、身体を対象化するという点において、非常に未来的で、身体から切り剥がされた作品であることから、身体改造の精神がより顕著に現れているように感じますね。

前田 なるほど。そういう視点もあるけど、もっとシンプルな部分で言うと、展示のタイトルにもあるようにこれは一つの「ランドスケープ(風景)」なんだよね。例えば、観る人によってはこれは宇宙の写真に見えるかもしれないし、あるいはもっと違うものかもしれない。これを見て連想するものはおそらく人によって違う。これは写真の面白いところだけど、写真になった時、その対象が凄く大きなものなのか、小さなものなのかがよく分からなくなる。あるいは、顕微鏡で見たミクロ的世界をイメージする人もいるかもしれない。僕はそういう風に楽しんでもらえたらと思ってる。

 そもそもこのシリーズはどのようなきっかけで始められたんです?

前田 最初は、2005年にヴァニラ画廊で個展をした時に、剥がした皮膚をアクリル板で挟んで作品として展示したんだよね。ルーカス・スピラとのコラボレーションによるもので「CLONE L AND R」というタイトルの作品。なぜクローンかと言うと、クローン人間を作るためには皮膚細胞のサンプルから遺伝子(DNA)を取り出すのが一番いいんだよ。だから、未来に蘇生するためにみんなも自分の皮膚を作品化して未来に残そうよという提案を作品を通じてしたわけ。それが作品として千年後、1万年後にも残っていたら、その皮膚から僕が蘇るかもしれないじゃない(笑)。瓶に手紙を入れて海に流したりするのって、あるじゃない? それみたいな感じなか。

 皮膚とホルマリンによるメッセージボトルですね(笑)

前田 1万年後にどこに辿り着くんだろうっていうね。今回の展示のサブタイトルが「1万年後のためのスキン&ブレイドの風景」というものになっているのはそういう意味があるんです。

 このランドスケープは、ひとつの「不死の夢」の表現でもある、と。

前田 そうとも言える。まぁ見方は幾つもあっていいんじゃないかな。

 最近ではips細胞なんかを筆頭に、様々な形で「不死」や「再生」の夢が探求されてますよね。

前田 実際、この皮膚をもとに僕のクローンを作れたら面白い。人間のクローンが倫理的に問題があるのなら、僕の遺伝子(DNA)が入った猫を作ってくれてもいいかな。

 前田さんの遺伝子(DNA)を持つ猫ですか(笑)。なんかどえらいですね。

前田 容れ物はなんでもいいんだよ(笑)

 ビジュアルイメージだけでも物凄いことになってますが(笑)

前田 この作品を見る人には是非そういうことを想像して欲しい。これを見て、「この作品は何で出来ている」みたいに物理的に考えるだけではなく、「なんでこんなことをしてるのか?」っていうことを少し考えながら見てもらえたらより奥行きが出ると思う。

 是非、各々のランドスケープを見出して欲しいですね。ではここで少しトークショーについてお聞きしたいんですが、今回は会期中、毎週末の計4回のトークショーが行われます。かく言う僕も3月17日のトークショーにおいて末席を汚させて頂くことになっているのですが。

前田 一回目(3月17日)のトークショーは『トーキング・ヘッズ』の鈴木編集長と『VOBO』からは辻君、後はこれから注目のアーティストとして、美少女着ぐるみ(ドーラー)のみーなちゃんとイラストレーターの及川ナマコちゃんに出てもらいます。みーなちゃんは5月に「ヴァニラマニア」でドーラーの作品展を予定、ナマコちゃんも近々、怪獣着ぐるみに挑戦するそうですよ。

 折角ですから、着ぐるみ論、ドーラー論を女性陣にお聞きしたいですね。身体を虚構化するという点においては身体改造とも親和性があると思いますし、先日VOBOの記事になったフェティッシュ座談会においてもデパートメントHのゴッホさんが日本を代表するフェティッシュとしてドーラーを挙げてましたから、是非、その実践者の方々に、ドーラーや着ぐるみの魅力、トータルエンクロージャー(ラバーや着ぐるみで全身を完全に覆い尽くすこと)の快楽について、お話をお聞きしたいです。

前田 そうだね。彼女達がやっていることを言語化することができたら面白いね。また第二週はイラストレーターで自然農法もやっていてる徳野雅仁さん、写真家のシギー吉田さん、Modern Freaksの福田君で、原発問題について話す予定です。

 第二週目は「フクシマ」がテーマになってくるわけですね。

前田 実は「ホルマリン・スケープ」のフライヤーに使った作品は、去年、桜坂アートギャラリーで「3.11それから、」というグループ展をやった時に「Radiation(放射能)」というタイトルで発表してるんだよ。だから、僕の心象風景としては、「ホルマリン・スケープ」は震災後の混沌と重なってるね。そういった視点からも作品を見てもらえたら嬉しいね。

第三週目はラバー軍団にご登場頂きます。この前、NHKの『東京カワイイTV』でも紹介されていたクラゲことKid'Oさん、サエボーグちゃん、あと「デパートメントH」オーガナイザーのゴッホちゃんを招いて、リアルな「アトムエイジ」について語ってみたいと思ってます。

第四週目は死体写真家の釣崎清隆。さらに、フランスから身体改造アーティストのルーカス・スピラが来日して特別参戦。折角なので4週ともに来て頂いて、それぞれの風景を見てもらえたら嬉しいですね。

 それぞれの人たちにとって、どのようなランドスケープが見えてくるのか、まったく未知数なところが楽しみですね。では3月17日、よろしくお願いします!

前田 折角だから、辻君のホルマリン標本も作らなくちゃね。

 ひーっ!!


ケロッピー前田
1965年生まれ。身体改造、サイボーグ、人類の未来をテーマに取材を続ける。主な著書に「スカーファクトリー」(CREATION BOOKS)、監修DVD「ボディ・モディフィケーション・フリークス」(ワイレア出版)など。
ツイッター「keroppymaeda」にて改造イベント情報など発信中。
keroppymaeda.com



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