アブ世界の女たち 荊子

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アブ世界の女たち 荊子 インタビュー

文/ANK 写真/五木武利


女流緊縛師、荊子さんにお会いするのは二度目である。以前にお会いしたのもマニアックス(コアマガジン刊)誌上の取材であり、そのときのウィットに富んだ会話や、同行した編集F女史を魔法のような手捌きで縛り上げた凛々しい姿は、今でも鮮明に目に焼き付いている。とは言っても七年も前のことである。立場の違いもあるし、きっと荊子さんはこちらのことなど覚えてないだろうと思っていたら、案の定、すっかり忘れられていた。


待ち合わせの新宿区役所前で「どうも、お久しぶりです」と声を掛けると、「えっ、えっ…」と驚きながら、一歩足を引く。きっとストーカーか何かと思われたのだろう。「マニアックスで以前、お世話になって…」と説明しても、今にも逃げ出しそうな雰囲気だ。予想していたとは言え、何となく哀しい気分になる筆者。トボトボと閑散とした真昼の歌舞伎町を歩き、インタビュー場所の喫茶店に到着すると、「以前の取材から現在まで、いったい何をしていたんですか」と、なんとも素っ気無い質問をしてしまっていた。


「えっ、あ、あのー、『新月』っていうビデオを作ってて、それで、確かシリーズで6作目まで作ったのかな、6作目は神田椿さんに出て貰ったりして。でも、何かと他の仕事が忙しくなったりして、それで休止することになって。それからまた、縛られるのが初めてっていう女の子を募集して、ビデオを撮ったりしてたんですけど、それもなかなかいい女の子いなくて…」


やはり心優しいお方だ。そんな大ざっぱな問掛けにも、必死で応じようとしてくれる。ちなみに荊子さんは、『新月』『新世界』などのタイトルで以前からビデオ作品を発表していた。それは大方のAVとは違い、緊縛プレイにのみ重点を置いた内容。カメラマン、共演者、出演者も、すべて女性だ。


「自分たちの世界観と合わないんですよ、男性は。画的にどうしても女王様モノっぽくなってしまうというか。例えば、男の人は縛って放っておくと、ひたすらダラーッとしてる感じ。受け取り方が直接的なので、次のプレイを完全に待ってるだけという体勢になってしまうんです。でも、女の子はウニュウニュ動いたり、ハァハァしてくれたりする。やっぱり、脳内で盛り上ってくれて、尚且つ見栄えも良いんですね。そういう条件を満たす男性となると、なかなかいないですからね」


しかし、そんな緊縛ビデオの制作も二、三年前から休止中という。やはり現在はフリーの緊縛師としての活動がメインなのか。


「まぁ、そうですね、やっぱり雪村イズムを伝えて行きたいとの想いは昔から変らないので。雪村というのは、私の師匠であるAV監督の雪村春樹のことなんですが、師匠が最近、また素人さんや女王様も含めて、『もう一度、教え直すぞ』みたいな感じでレッスンを始めたんですよ。それで、彼のやり方は、縛り方じゃなくてプレイを教えるんです。例えば、何でこの展開に持って行くのか、その為にはどうすればいいのか。そういう縄でのコミュニケーションの仕方みたいなことを教えてくれる。もちろん、縛り方のスキルも必要なんですけど、プロとしてやって行く上で大事なのは、相手のコを縛りたいという気持ち、どうそのコを手籠めにしたいかみたいな気持ちだと」


どんな相手にでもモチベーションを最高の状態に持って行かなければならない。なかなか大変なお仕事だ。


「でも、一回、縄を手にすると気持ちが切り替わります。雪村さんは、別に縄じゃなくても、ただ縛りたいと思えば何でもいいんだって言うんですけど、私はやっぱりずっと縄を持ってやって来たので、それが自分の一部になってるというか、スイッチ的な役割があって、ガラッと気持ちが切り替わるんです」


縛りの技術は折り紙付きだ。筆者も実際にF女史をするすると吊り上げる様を拝見し、よく非力な女性にそんなことが出来るものだと感心させられた。しかし、やはり、最も重要なのはコミュニケーション能力だと荊子さんも説く。


「相手と気持ちの部分で向き合うと、単に技術的なものばかりじゃなくて色々なものの質が向上してくる。例えば、相手が『痛い』と言う前に、ちょっとここを直しておこうかなって言ったら、『何で分かったんですか』と言われたこともある。身体のほんのちょっとした変化とか、反応とか、前よりは敏感に察知出来るようになった。だからと言って、“人の気持ちが分かる”なんてことは言えないんですけど。前よりは自分の心にも余裕が出てきて、全体的な状況を見ながら、縛れるようになった気がしますね」


そうやって磨き上げられた緊縛スキルは各方面で評価され、荊子さんは今や、映画やTVドラマの制作現場などにもお呼びが掛かる、すっかりメジャーな存在となった。だが、一方で、個人的にM男さんと緊縛プレイをして、収入を得るという地道な活動もずっと継続している。


「多分、以前のインタビューでは凄い拘ってて、『女王様と一緒にするな、私は女流緊縛師だ』みたいなことを主張してたと思うんですけど、別に大して変らないんですよ、やってることは(笑)。男性だと、縛る人は緊縛師と呼ばれ、女性だと一緒くたに女王様と呼ばれてしまう。そういうところがどうなのかなって思っただけで。私のところに来るM男さんは、やっぱり縛りが好きな方なので、基本的には、縛ったり解いたりの展開でプレイして行くんですけど。やっぱりその中で、『あっ、今、ムチ打ったら面白いな』って思う場面もあるので、そういうときは、迷わずムチを使ったり、ムチがない場合はスパンキングしたりとかもしますからね。ただ、アナルバイブとか浣腸とか針とか、そういう道具は持っていない。ほとんど縄だけでやってるので、その辺が一般的な女王様とは違うところだと思います」


活動的な荊子さんは、その他にも、一般AV制作会社にプロデューサーとして籍を置いたり、クラブ勤めなどもしていたそうだが、事前に調べ上げた中で気になるのは、現在のホームページ、『ibarako website』(個人調教などもここから受付けている)からリンクしている、第二のホームページ上で宣伝しているタロット占いとセラピーだ。これまでの活動とはまったく毛色が違うように思える両者。特にタロット占いとはなぜに?


「タロット占いの方は、今も昔も殆どやってないです(笑)。私、霊能力とかもぜんぜんないし。確か、二、三年前のことなんですけど、高校時代の友達のお母さんが霊能者みたいなことをやっていて、その方に、『あなた、タロットに興味ない? 興味あれば、きっと向いてるから、やってみれば』と唐突に言われたんです。で、『まぁ、向いてるならやってみるか』と思って、しばらく教えてもらってたんですけど、全然、意味が判んないですよね。結局、友達とかを占ってあげるときも、本を見ながらそのカードの解釈を言うだけ。何となく当ってる気もするけど…っていう程度ですね(笑)。それで、『何事も経験だ、いっぱい人を視て行こう』と思って、とりあえずホームページを作ったんですけど、誰からも依頼はないし、もっと詳しく話を聞きたいなぁと思っても、その方は亡くなってしまったので、もう、それ以上は何も判らず。だから現在、タロットは封印しています(笑)」


ではセラピーはどうか。


「セラピーはちゃんとやってますよ。このセラピーというのは基本、縛りのプレイと変らないんですけど。二年くらい前かな、いかにもキャリアウーマンといった感じの熟女さんから縛りの依頼が来たんです。『縛るという行為はなんとなく想像が付くけど、縛られる感覚が判らないのでお願いします』と。でも、『多分、自分はMではないので、あんまりプレイみたいな感じにはして欲しくない』とも。なので、私もちょっかいを出さずに、ただ縛っては解くという行為を繰り返してたんです。格好は長ズボンを穿いて、何ていうんだろう、スポーツジムにいくようなスタイル。なので、何をやっても、特に恥ずかしいとかエロいとかいう感じでもない。それなのに段々と顔つきが変ってくるんです。

最初は『なるほど、なるほど』と冷静に感覚を確かめている感じだったのが、ちょっとエロい気持ちになってるな…というのが分かるようになってくる。それで結局二時間ぐらいそんな縛りをやったんですが、感想を聞くと、『何だか凄い深いところに入って行けて、気持ちが落ち着くのと興奮する感覚を両方味わえて、凄いすっきりしました』って言ってくれたんですね。新たな感覚を味わいましたと。また、別の女の子は、ちょっと運動した後のような、サウナとかマッサージに行った後のようなスッキリ感があると、やっぱり言ってました。

それで思うに、タッチセラピーに似てるのかなと。タッチセラピーってトントンと手で優しく身体を触っていくだけなんですけど、安心感や癒しを相手に与えるらしいんですね。それと同じで、本来、縛りというものは、誰かに強く抱き締められている感覚と凄く似てるので、きっと縛られた方達の中には、他人に構ってもらったという満足感、精神的な充足感を得る人がいるのではないかと思うんです。だから、『虐められたい』とか、『エロい気分になりたい』という要望を満たすのとは、また別のところの縛りということで、セラピーと銘打って活動しています」

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