ヒロイン手帖 × 香月真理子

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ヒロイン手帖 その15

香月真理子 

私を襲ったあの人は誰だったのか?

文/荒玉みちお 構成/うぶモード特ロリ班


—性犯罪の被害に遭った少女がライターになり
小児性愛者たちと向き合って1冊の本を出した。


香月さんの著書『欲望のゆくえ〜子どもを性の対象とする人たち』は、前書きにあたるところに「本書を書いた動機」とある。どうしてもこの本を書かねばならない理由があった。一部を紹介させていただこう。


《子どもを性の対象とする人たちがいる。私がそのような人物と初めて遭遇したのは、小学校に入学したばかりの春だった——》


彼女は知らないおじさんに道を聞かれ、強引に自転車の後ろに乗せられてビルの屋上に連れて行かれる。そこで異物を挿入された。


《この出来事はしばらくの間、記憶から消えていた。その記憶がぼんやり蘇ったのは、中学1年の終わり頃だった。同級生より初潮が遅れていることに焦りを憶え、原因として思い当たったのが、あの出来事だった。ほどなく初潮は訪れ、記憶は曖昧なまま封印された。次に思い出したのは20歳の夏だった。思いを寄せる男性から、自分は性同一障害だと告げられたことがきっかけだった。今度の蘇りは鮮明だった——》


《人生のうまくいかないことをすべて被害体験のせいにしたい気持ちと、そこへ逃げ込もうとする卑怯な自分を否定する気持ち。二つの間で揺れ動き、この堂々巡りから永遠に解放されそうもないことに絶望した。何でもないように振る舞い続けたが翌年、鬱病を発症した——》


精神科に5年間通院した。


《その間、男を恨む気持ちはまったく湧いてこなかった。代わりに湧いてきたのは「あれはいったい誰だったのか」という疑問だった。今となっては誰なのか、知る術もないことはわかっていた。ならばせめて「子どもを性的に見る」とはどういうことなのか知りたい。そう思うようになった——》


こうした「本書を書いた動機」の端々を読み上げ、確認すると香月さんはその都度頷いた。そして「今はもう全然問題ないんで。何でも聞いて下さいね」と微笑んだ。しかしそう言われても、いつもロリ系マニアを煽るようなことばかりしている我々は躊躇する。さて何から聞こう……しばらくお見合いが続くと、逆に香月さんが口を開いた。


「でも、こういう雑誌を買われる人って、私なんかが載ったら興醒めするんじゃないですか?」と心配してくださる。いや心配ご無用です。この企画のそもそものテーマは「児童ポルノ法について考える」ですから、と答える。香月さんは納得したのかどうか、とりあえず頷いてくれた。


過去の経験が動機ではあるが、すぐにルポルタージュに取りかかったわけではない。トラウマから解放されようと、最初は小説を書いた。体験をベースにしたいわゆる私小説の類のものも書いた。地元・福岡の文芸同人誌に所属して作品を発表した。


「その頃はまだ鬱病というのは一般に受け入れられていませんでした。だから仕事もアルバイトみたいなことしかできなくて。新聞社で契約社員として働きながら書いてました」


21歳で鬱病と診断されて、もう大丈夫と医者に言われたのが5年後だから、26歳のときだろうか。


「アルバイトしていた新聞社の契約が切れたので新しい仕事を探したんですけど、地元にはなくて。それで東京に来たんです」


27歳のときに上京。編集プロダクションに所属して、取材原稿を書く傍ら、漠然と本の構想を練っていた。そんなとき、奈良で小1女児誘拐殺害事件が起きた。2004年の11月に事件が発覚、暮れも押し迫った12月30日に犯人は逮捕された。


「あの事件が起き、犯人に女児への強制わいせつで前科があるとわかり、年明けから日本でもミーガン法が必要なんじゃないかと言い出す人が出てきた。性犯罪者にはGPSを着けろとか。でも私としては、それが賛成だったかというと、むしろアブナイなという考えで。社会的制裁を受ける、ざまーみろ、自業自得なんだというのは、どうなんだろう。それで何が解決するのだろうかと」


この手の事件に遭遇すると、否応なしに過去を思い出す。そして当たり前だが、マスコミを通して社会全体が怒りに満ちた方向で犯人を叩き続ける。ときにはその家族も。


「怒りばかりで犯人がなぜそうなったのか、詳しく書いた記事はないんです。ないなら自分で調べようと思いました」


何を知りたかったのか。


「普通、被害者は〝なんで私が〟〝なんで私の子供が〟となるんでしょうけど、私はそういうことにはまったく興味がなくて。自分が狙われたのもたまたまそこにいた、うろうろしていたからだろう、くらいしか思っていない。逆にあれは誰だったのだろう、可能ならその人に直接会って聞いてみたい。不可能なら、そういう嗜好のある人物に会って話を聞いてみたいと思ったんです」


すぐに話が集まったわけではない。


「どう取材していいか、何もわからなかったんです。裁判の傍聴の仕方も知らなかった」


それでも自力で取材を進め、サイト『ロリータ治療塔』を運営するサラリーマン、ロリ系漫画家、BL系女性漫画家、実際にわいせつ罪を繰り返して更生中の男性、ロリコン教師、ジュニアアイドル産業の芸能プロダクション、服役中のわいせつ犯……等々に話を聞いていった。


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