コイトゥス再考 志茂田景樹

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コイトゥス再考 #07

志茂田景樹

近親相姦 → 草食系 → X

文/辻陽介 写真/藤森洋介


「なぜここで志茂田景樹!?」

そう思われた方も多いのではなかろうか。

たしかにVOBO×志茂田景樹ときたら、これはなんとも奇妙奇天烈な組み合わせ。人選の動機はと言えば、これはもうひとえに「直感」と言うより他なく、あるいは「シュルレアリスムにおけるデペイズマン的なあれだよ」とでも言って茶を濁す他ない。

筆者自身、正直、インタビュー直前までかなり不安であった。志茂田景樹がエロスについて語っているところなどかつて見たこともないし(少なくとも僕は)、あまつさえ近年は志茂田氏そのものを見ていない。こんな具合でインタビューをおこなって果たして大丈夫なのか、僕らのような若造が急に現れて「性」について語ってくれなどと言ったら気を悪くしないだろうか…、とまぁ、そんなもろもろの不安を抱きつつ取材に臨んだわけなのだが、実際に氏とお会いしてみると、それらの不安は全て杞憂に過ぎなかった。

志茂田景樹、大いに語ってくれたのです。なおかつ、その洞察の深いこと、論理の精妙なこと!

御歳71、極彩色の風貌はなおも健在。直木賞作家・志茂田景樹が、この国の性愛を語った。



(2011年4月 西麻布にある志茂田氏の事務所にて)


ーまず志茂田さんの近況について少しお聞きしたいんですが、ここ10年ほどめっきりテレビにお出にならなくなりましたよね?

志茂田 バラエティには出ていませんね。それは今後も出ないと思いますよ。他のタイプの番組にはたまに出たりしてますけど。

ー最近はどういった活動をメインにされているんです?

志茂田 執筆活動と講演活動が主体なんですが、執筆活動は児童書の方に軸足がかかってるかもしれませんね。大人向けの小説も年に一、二冊書いてますけど。あとは講演活動と、読み聞かせ活動(※)ですね。全国で行っています。

※志茂田景樹は98年より親子を対象にした自作童話の読み聞かせ活動をおこなっている。99年には「よい子に読み聞かせ隊」を結成。全国各地で活動中。

ー以前、子供たちの不登校など社会問題にも取り組まれてましたよね。

志茂田 以前はやっていましたね。そういったものも、現在行っている読み聞かせ活動、子供たちの感受性を豊かにしていこうという活動の中に含まれているのかなという感じです。前は不登校児に会ったり、フリースクールとかで特別講師をやったりしてたんですが、今は幼稚園、保育園、小学校、身障者の施設、老人施設などをメインに読み聞かせ活動をしてます。

ーなるほど。ではそろそろ性の話に入っていきたいと思います。志茂田さんは子供たちを対象とする活動をなさっているわけですが、現代の子供たち、あるいは若者たちの「性」について何か感じられてることはありますか? 

志茂田 閉鎖的になっているように思いますね。そもそも、不登校などの諸問題が浮上してきたのは、いわゆる「鍵っ子」と呼ばれる子供たちが多く現れた時代の後なんですよ。さらには「鍵っ子」以前に、ある種の都市化と言うか、東京に関わらず地方でも一極集中の都市が形成され始め、従来の地縁的な付き合いに基づいた社会というものが変質してきたんですよね。同じマンションに住んでいて互いに顔は知ってるけどエレベーターの中で会っても挨拶はしないといった感じ。そういう都市生活的なスタイルが一般化してきた状況において、「鍵っ子」っていう問題も浮上してきたわけです。

―いわゆる高度成長期の頃ですね。

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志茂田 一方、性というのは戦後から徐々に解放されてきたはずなんです。しかし、平成に入る大分前から都市の変化が生じ「鍵っ子」のような存在が誕生した。そういう流れの中で、性というものが解放されたにも関わらず、今度は家庭という閉鎖された状態の中で特殊な性関係が生まれてきたような感じがするんです。

―特殊な性関係と言いますと?

志茂田 極端に言うと近親相姦ですよね。近親相姦が増えたのはそういった状況の中においてじゃないのかなって気がします。昔の近親相姦というのは都市というよりも田舎、田園風景が広がるような地方の中で存在してたと思うんですけどね。明らかに昭和の後期、末期から平成にかけて、近親相姦というのは都市型、さらに言えば都市の中でも近所付き合いの機会を一切欠いたような家庭、鍵っ子的な状況の中で行われてきたんじゃないかんと思うんです。

―『密室の母と子』(※)なんて本もありましたね。

※母と息子の母子相姦の相談記録をまとめ80年に発行された川名紀美による書籍。

志茂田 「鍵っ子」の家庭は一人っ子ないし二人っ子が多かったんですが、姉と弟であったり、兄と妹っていう二人だけの閉鎖的な世界で、少し古い言い方でいえば淫靡な性感というのが成り立ってきてしまったのかな、と。まぁこれは母子相姦も含めてそういう傾向はありますよね。

ー近年では近親間における殺人事件などが増加していると言われてますよね。

志茂田 そういうものも結局は一つの流れの中から必然的に芽生えてきているものなのかなって気はしますね。例えば中学生の男の子が父親殺すにいたるまでの経緯の中で、父親を父としてではなく、ある種のライバルとみなしていたり、母、あるいは姉などに対してドロドロした感情を募らしていたのかもしれない。それが何かのきっかけで爆発した時にそういう事件になるのかなって気がします。明らかに家族の在り方、社会の在り方が変化し始めた時期にそういう殺人事件が増え出したように思えますから。

ーまた閉鎖的ということで言えば、それこそ近年においては若い男子の草食化などが騒がれてますが。

志茂田 現代について言えば、性が解放され、そこからさらに解放された状態と言いますか、非常に放縦な、例えば道端で野良犬同士が出会ってまぐわうような、それに近い状況が一方で生まれている。その一方で「鍵っ子」以来の閉鎖的な状態がある。先程話した閉鎖された中でのおぞましい近親相姦的状態が時を経て、必然的に男の草食化に繋がっていったんじゃないですかね。近親相姦、母子相姦はどちらかと言えば子供の方の心にPTSDを残していきますから。まぁそういった状況の行きつくところには「性なんて面倒くさい」っていうような意識なんじゃないかと。

―実際に近親相姦を経験したかは別として、ですよね。

志茂田 また閉鎖的な中で育ってきた子供というのは一般的なところでいう活力に乏しいところがある。草食系になる条件というのは整っているんじゃないですか。一方では放縦になりすぎてしまった状況があって、一方ではそういうものとは全く無縁な別の人種、草食系男子が生まれてきたんじゃないかって気がしますね。

ーそうなると男性の草食化も近親相姦的な状況も、つまるところ都市生活の変異に起因しているということでしょうか?

志茂田 それに尽きると思いますね。原始において女性は太陽だったと言いますが、ある意味で全ては母親から始まったと言えるわけで、草食系の誕生は母親に対する意識の変異によって起こったことではないかと思います。

ーちなみに志茂田さん自身はこの状況についてはどう思われています?

志茂田 単に道徳とかね、「こういうことしちゃいけないんだよ」って言うことで縛ることはやっぱり無理があるんですね。それは自由を束縛するのと全く同じことで、束縛された人間がそれを納得できるかというと納得出来ない。となると、もっと早い段階、子供の時からの時代に合った家庭のしつけが必要なんじゃないですかね。また学校教育、園児の保育教育も含めて、そういうことをよく考えたカリキュラムを作って、子供の頃からいい刷り込みを行っていく。これは感受性の問題にも関わってきますが、長い目で関わっていかないと変わってはいかないと思いますね。このまま放っておけば、草食系は頽廃を通り越し、今までになかったような形で廃人化していくこともあるかと思うんで、根本的な対策と言いますか、子供が産まれた時から考えてみることが必要なんじゃないでしょうか。

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