コイトゥス再考 前山田健一 a.k.a ヒャダイン

000

hyadain.jpg



コイトゥス再考 #09

前山田健一 a.k.a ヒャダイン

エロスとアイドルの微妙な関係

文/平尾チェリー 写真/辻陽介


古くよりアイドルポップスには「性的ななにかを彷彿とさせる」言葉が不可欠だった。本文中にも出てくる秋元康のおニャン子クラブ、もっとさかのぼるならば山口百恵の初期作品もそう。少女たちが歌う(歌わされる)セックスを連想させるリリックは聴くものに罪悪感の入り混じった背徳的快楽を提供してきた。

話を21世紀に移せば、10年代も終わりに近づいた頃アイドルポップスというジャンルにおいて型破りな作品群を量産する一人の作家が登場した。前山田健一である。ヒャダイン名義でのニコニコ動画への投稿で頭角を現した異端の男。ラディカルなこの作家のペンによる楽曲で少女は七色に変化する。初デートにオドオドする女の子から、男のハートを盗む怪盗少女にまで。

そんな彼に「女性」はどう映っているのだろうか。「エロスとアイドル」というテーマについて奇才、前山田健一から放たれた言葉は、意外にも、モテなくて恋に恋焦がれた青き日々の苦い思い出だった。



(2011年5月上旬 原宿にて)


—今日はお忙しいところ時間を割いて頂きありがとうございます。


前山田 いえいえ、楽しみにしてました(笑)

―では早速お聞きしていきたいんですが、前山田さんの書かれる歌詞の中には明らかに性的なものを連想させるものもあると思うんです。私立恵比寿中学の『ザ・ティッシュ~とまらない青春~』なんかはタイトルからして露骨にそちら側なわけですが、前山田さん自身はこれらの性的なメタファーをどういった意図で用いられてるんですか?

前山田 僕の担当しているスターダスト系のアイドルグループ、私立恵比寿中学(注)・ももいろクローバーには性的な要素がゼロなんです。水着は事務所NG、胸の大きいメンバーもいない、かといってロリ性を強調しているわけではない。だから、性的なものを彷彿とさせる歌詞が入れやすかった。彼女たちのようなアイドルが歌うと、そういったものも単なるフック・スパイスにしかならないんです。あーりんが「シュ~クリ~ム」って歌うのを聴いてシコシコする人なんていないですよね(笑)

注:スターダストプロモーション所属のアイドルグループ。同事務所所属のももいろクローバーの妹的存在として、ももクロともども現在人気急上昇中。音楽は前山田氏が手がけている。

―大人の女性が歌ってしまうとダメなんですか?

前山田 リアルになってしまいますよね。それはもうアイドルポップスではないのかもしれない。性的なメタファーということでいうと、モーニング娘。がすごく面白いことをやっていましたよね。『サマーナイトタウン』なんかは、夜の雰囲気、新大久保のような下世話なエロを感じさせるような歌詞じゃないですか。

―新大久保(笑)。言い得て妙です。

前山田 でも、歌っている本人たちは、明らかにそういった経験をしていないという。そこが幅広い層にも受け入れられる面白さを生んでるのかなと思います。

―それにしても『ザ・ティッシュ~とまらない青春~』って面白い曲ですよね~。

前山田 ありがとうございます。こんなにもはっきりとエロ要素を表に出した曲を書いたの初めてなんじゃないかな。「ティッシュ」「止まらない青春」ときますからリスナーの皆さんはオナニーのことを連想すると思うんですけど、実は単なる花粉症の歌。タイトルで早とちりしてしまった人は、自分の汚さに懺悔にも似た気持ちをもつようになるはず(笑)。エロ妄想をもってしまった背徳感みたいなものを演出するように狙ってつくりました。

―そうでしたか。悪い計算ですね~(笑)。先ほど、性的なことをセクシャルな女性が歌うとリアルになってしまうので、アイドルポップスとして機能しない、という話が出ましたが、前山田さんにとってアイドルの定義とはなんですか。

前山田 僕の中でのアイドルの定義というのは「トイレに行かないこと」です。恋愛もしないし、セックスなんてもってのほか。タバコを吸った瞬間にもうアイドルではなくなるんですよ。勝手な理想なんですけどね。

―なるほど。クリエイター側の意図の話に戻しますと、無垢な少女たちに、彼女らが絶対に考えないような色々なことを、大人が歌わせるということの面白さもアイドルポップスにはあるのかなと思いますが?

前山田 アイドルの楽曲をつくるクリエイターは、松任谷由美さんなど何人か例外はいるにせよ、全員が大人の男、おっさんなんですよね。秋元康先生、筒美京平先生、皆そうですよね。だから、エロマンガと構図は似ていると思うんです。エロマンガも描いているのはオッサンだったりするじゃないですか。でも、それを見てみんな興奮しているわけです。『セーラー服を脱がさないで』もリスナーたちは秋元康という中の人の存在を認知しているにも関わらず、歌を聴いて萌えていたわけですよね。

―時折、アイドル本人が作詞した曲も出ますけど、後世には残らないですね。

前山田 もしかしたら、アイドルヲタさんたちは彼女たちのリアルな姿などどうでもいいのかもしれませんよね。自分たちの思い描いたアイドル像を愛している。いわば男性用にカスタマイズされたフィクションを求めているわけです。レディースコミックを読んでもグッとこないけど、現実にはそうそういないほどのとんでもない爆乳のお姉ちゃんが出てくるエロマンガを読んだら勃起してしまう、それと同じ原理が働いているんだと思いますよ。

―16歳の女の子が『セーラー服を脱がさないで』を書いたとなると、逆に引いちゃうところもありそうですよね。

前山田 あと、アイドルの萌えポイントで大事なもののひとつとしては「やらされ感」があると思います。よく分からないものをやらされている・歌わされている状況で、分からないなりに必死にパフォーマンスしている、という姿が人々の心を掴む。女の子本人が作詞してノビノビと歌っているのは面白くないんです。だから、ジェンダー的に考えたら我々は女性蔑視なことをしているのかもしれない(笑)。自分たちの勝手なバイアスをかけて理想の女性像を作って、それを奉っているわけですから。

次を読む>>



400.png