《魔法少女×アイドル論》2:AKB48も少女時代も、1/3は生理痛で踊っている魔法少女だ/ 大塚幸代

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《魔法少女 × アイドル論》

2:AKB48も少女時代も、1/3は生理痛で踊っている魔法少女だ

文章;大塚幸代







2011年最も評価を集めた、深夜帯大人向けアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年1月~4月放映、全12話)。今までふんわりと描かれてきた「魔法少女になること」を「実は身を削る恐ろしいことだ」と表現したのが画期的、とされた作品だ。

SFアニメ/ダークファンタジーとして、とても面白い作品だったと思う。しかしこれが「新しい」と言われていることに、違和感を覚えた。魔法少女が重労働で命がけの仕事なんだということは、てっきり共通認識だと思っていた。少し考えれば、想像がつくと思うのだ。みんな知らないふりをしていただけなんじゃないだろうか?

アイドルと魔法少女は、シンクロして発展している。70年代アニメの魔法少女は「魔法の国からの留学生」という設定が多かった。魔法少女は完全な異邦人だった。80年代は「普通の女の子が異世界の住人から、魔法の力を貰う」という形。90年代以降は「魔法の力を貰った普通の女の子たちが、チームを組んで、巨悪と戦っていく」というスタイルになった。

これが妙に、アイドルシーンと並行になっている。歌唱力もない美少女が、プライベートをヴェールに包みながら、棒立ちで歌っていた70年代、普通の女の子が、お遊戯レベルの踊りでアイドルになった80年代、グループアイドルがメインになる90年代以降。

では現代はどうなんだろう。今まで最もアイドルのいる時代…魔法少女的なものが大量発生している時代だ。アイドルの価値が暴落している時代だとも言える。訓練され、ハイクオリティでハイテンションな少女だけが、表舞台に出ていける戦場。

AKB48も少女時代も、ももいろクローバーZも、物理的に考えれば、常に1/3は生理痛を我慢しながら、血を流しながら踊っている。少女の肉体は弱い。アイドルは重労働で命がけの仕事なのだ。

『まどマギ』で使われるキーワード「僕と契約して、魔法少女になってよ!」という誘い文句は「アイドルにならない?」という勧誘に似ている。通常のアニメの中の魔法少女は、中学校に通いながら、変身して悪と戦って、淡い恋愛もするが、その裏側は描かれない。そんな重労働、過酷でないはずがない。アイドルも同じ、テレビに辛い場面はうつらない。アイドル=魔法少女を生きた場合、青春の時間は奪われ、普通の生活は出来なくなる。

それでもなぜ少女はアイドル=魔法少女になりたいんだろうか。なぜこんなにも増殖しているんだろうか。

魔法少女たちが誰かの心を癒す存在なのだとしたら、魔法少女が必要な世の中というのは、生きにくい世界なのかもしれない。

日本が災いに見舞われているせいで、生け贄として少女が舞い踊り、闘っているんじゃないかと思ってしまうのは、私の妄想だろうか。現実世界では、『まどマギ』のように“因果律を組み替える”キッカケもない。

私たちが彼女たちに寄りかかる限り、彼女たちの内部は喰い荒らされていき、それは止めようもないのだろう。それをただ眺める私たちは、おそらく罪深い。






大塚幸代(おおつか・ゆきよ)

埼玉出身。高校時代に音楽ミニコミ作りに誘われ、出版に興味を持つ。フリッパーズ・ギターのファンジン『FAKE』と音楽フリーペーパー製作をキッカケに、カルチャー雑誌『クイック・ジャパン』(太田出版)創刊編集長・赤田裕一氏に拾われ、学生ライターに。のち96年?01年まで5年間、『クイック・ジャパン』編集部に在籍、11号?38号まで編集・企画・執筆。2002年よりフリーランスに。ウェブコンテンツ・雑誌を中心に活動中(読み物サイト「@niftyデイリーポータルZ」は立ち上げ時の02年より参加)。

blog「日々の凧あげ通信」http://blog.hibi.her.jp/