地上から地下までアイドルシーンを知り尽くす宗像明将に教わる現場のススメ

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地上から地下までアイドルシーンを知り尽くす宗像明将に教わる現場のススメ

取材・文/チェリー平尾


今回登場するのは音楽評論家の宗像明将氏。高名な音楽専門誌『ミュージックマガジン』などで執筆する傍ら、『メンズサイゾー』内の『アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~』ではほとんど病気寸前といっても過言ではないほど高すぎる熱量のコラムを連載中。メジャーシーンだけでなく、地下のアイドルシーンにも通い尽くしている氏に、「アイドルヲタコミュニティとは何か」をテーマに話を聞いた。「アイドルとはヲタ含めてのアートフォームだ」との考えを標榜する宗像氏の「アイドル現場のススメ」に感化され、読者の皆様のなかから一人でも多く「自分を見失い人生を捨てて」頂ける方が出れば取材者として感激の極みである。なお、当取材は2011年の暮れに行われ、その記事はコアマガジン刊『スーパー写真塾』に掲載された。本欄はその転載であり、宗像氏の発言も半年以上前のものであるということを付記しておく。


—ヲタたちの文化が盛り上がらなければアイドルは大きくなれません。


ーいま、メジャーな音楽産業では「アイドル戦国時代」なんていわれるように歌ものアイドルがブームの時代ですが、このような状況になって地下アイドルシーンにはどのような影響がありましたか?

宗像明将(以下、宗) 09年後半ぐらいでしょうか、AKB48が本格的にブレイクしてチケットを入手することが困難になった時期あたりから、通称「ピンチケ」といわれる若いアイドルファンたちが大量に地下に流れてきました。

ー一般的には中高生ぐらいの男子が「ピンチケ」と呼ばれますが、本当に忌み嫌われる傾向がありますよね。なぜなのでしょう?

 みんながみんなそうではないのでしょうけれど、彼らの中には、暴れたりとか、スタッフやアイドル本人に迷惑をかけたりして、「やらかしている自分」に酔っている人がいる。そういうのは「ちょっと…」と思いますね。あと、彼らが地下アイドルシーンに来る場合、地下は地下でまた独特の文化圏をつくっていますから、メジャーなアイドル現場でのマナーをそのまま持って行くと衝突を起こすのでしょう。

ー10年ほど前にはモーニング娘。を頂点とした同じようなブームがありました。その時もこのような地下への人のながれというのはあったんですか?

 今ほど活発ではなかったかもしれませんね。

ーかつてのブームでは起きなかった地下への流入があるということは、握手会でアイドル本人と触れ合うことができるなど、「距離感の近さ」が重要になる今のシーンの基準も大きいんですか?

 そうだと思いますね。AKBがあれだけ握手会をやったことにより「接触厨」(編注:楽曲を聴いたりライブで盛り上がることではなく、アイドルと握手することをヲタ活動の中心に据えるファンたちの総称)なんて言葉も生まれたぐらいです。距離感が近くて、感情的にも近しくないと満足できないとみんなが思い始めたのでしょうね。また、近距離でライブを見ると彼女たちの歌やダンスのダイナミックスさがよりダイレクトに伝わる。その快感に皆取り憑かれたというのもあると思いますよ。

ー距離感が近いということでいうと、今はツイッターなんかもありますよね。

 ツイッターを使ってのファン同士の交流はもちろんあるわけですが、今はアイドルとヲタのツイッター上での交流というのも盛んです。特に売り出しの頃などは、アイドル本人が自分からどんどんヲタにフォローをかけていって連絡したりしてきます。その傾向は日増しに激しくなっているので、今のアイドルは消耗が激しいだろうなと思いますね。夜中でも眠ることができず、ヲタにリプを返し続けなくてはいけないわけですから。あるアイドルなどはファンとすさまじい数のメッセージのやり取りをしていて「まるでオンラインキャバクラのようだ」と戦々恐々としたこともあるぐらいです(笑)。
 ただ、そんな引いた目で見ていられるのは一時だけのことで、いざ自分の好きなアイドルから返信が返ってきたりすると、それはもうまるで恍惚とするような快楽なんですよ(笑)。そういう麻薬性があるのだと思います。

ー握手会もそうですよね。大したこと話してないのに、ヲタは会話の内容を事細かに覚えているものです。

 直の接触によるインパクトはもちろん大きいです。そのうえに、オンラインではツイッター上でリプが返ってくる。それでドハマリしてしまうんですよ。特に、頻繁にはライブ会場に足を運べない地方のヲタにとってツイッターなどは魅力的なツールですね。知り合いの大阪の大学生は、最近、上京する回数を増やすためバイトを二つ増やしたそうです(笑)。SNSの登場によって今のアイドルは中毒性が高まっていますね。私もそれに毒されてしまった身なのですが(笑)

ーその距離感の近さ故でしょうか、「擬似恋愛」を越えた新しい概念「ガチ恋」というものが生まれました。

 「ガチ恋」という言葉は、僕は最初にぱすぽ☆のファンの方から聞きました。友人の話なんですが、握手会に参加しようとしたら、これから握ろうとする子のガチ恋系ヲタから肩に手を置かれて「見ているからね」と脅しをかけられたそうです(笑)。とんでもないことです。牽制されるんですよ(笑)。
 また、ファン同士で集まって「俺は◯◯◯枚買うよ」なんて話をしていると「それで結婚できるの?」なんていう言葉も飛び交います(笑)。なんなんでしょうその会話(笑)。購入したCDの枚数と婚姻という、本来何の関係もないものが彼らの頭の中では関係性を結ぼうとしている(笑)。
 そういったかたちで擬似恋愛が本物の恋愛感情へと発展していってしまうというのは極めて2011年的な現象ですね。テレビや大きなコンサート会場で歌い踊る姿をただ見ているだけではこういったことは起こらない。

ーなるほど。接触イベントが多く、アイドルと友だちのような関係にもなりやすい今の時代ならではということですね。

 そうですね。また、そういったムーブメントというかヲタ文化みたいなものが盛り上がらないとアイドルは大きくなれないとも思います。ヲタがヒートアップしないような現場ではダメですね。たとえそれが衝突を孕むものであったとしても、そのエネルギーの総体が結果としてアイドルを押し上げていく。
 だから、これからグループアイドルを運営しようとする人は、そのあたりのヲタ心理を念頭に置いた方がいいでしょう。爆薬を扱うようなものですから(笑)。

─まさしく「アイドルはヲタ含めてのアートフォームだ」ということですね。では、そういった「ヲタが熱い」といった観点で宗像さんがお薦めするアイドルは誰になりましょうか?

 Chu!Lipsですね。「チュッパー」と呼ばれる彼女たちのファンはヲタコミュニティの一つの完成形ですから。

─すごい賛辞ですね。いったいどんな人たちなんですか?

 曲中には騎馬を組んだり、花吹雪を舞わせたりするのが名物です。あとは、客が全員フロアの後方まで下がり、助走をつけてステージへ突進したりだとか、そういう訳のわからないことがたくさん起こるんですよ。ただ、そんな彼女たちも来る12月18日(2011年)に解散してしまいます…。

─それは残念です。この記事を読んで「ヲタコミュニティ」の世界に少しでも興味を持たれた方は是非とも足を運んでみて欲しいですね。



—アイドルヲタのコミュニティは出会いと別れを繰り返す、人生の縮図です。



ーAKB48なんかが好きになって、最近アイドルのライブに通い始めた人たちの中には、「昔から通っているベテランのアイドルヲタクの人たちには怖くて話しかけにくい」と思っている人もいるかと思われます…。

 いえいえ、普通に話しかけてあげた方がいいと思いますよ。逆に、そこで壁をつくられてしまうと困ったことになってしまいます。仲良くすることはどのヲタも嫌ではないと思います。
 あと、古参の方と話してみると色々と面白いと思いますよ。みんな頭のネジが抜けたような人ばかりなんで(笑)。色々と面白い経験をさせてもらえるかもしれません。
 アイドル現場って特殊な環境ですけど、そこは一般社会と同じです。普通のコミュニケーションも大事なのだと思いますよ。

ーなるほど。勇気を持って踏み出せばさらに面白い世界が広がっているわけですね。

 そうですね。ただ、古くからのファンだとどうしても新規のヲタを叩こうとする傾向がありますし、自分もこの性格はどうにかならんかなぁとも思いますが、「ヲタ」という人種はこういう偏屈さを捨ててしまったら「ヲタ」ではなくなってしまうのではないかという思いもあり、そこは日々揺れ動いている部分ですね。

ー(笑)。その面倒くささこそヲタですね(笑)。私、普段からアイドルのライブ行っていていつも不思議に思うんですけど、女の子のファンもけっこう見にきてますよね?

 ええ。目利きのいい女性のアイドルヲタって結構いて、どんな地下現場にも一定数女ヲタはいますね。そこで、「女ヲタヲタ」という問題が起こってくるんです(苦笑)。

ー「女ヲタヲタ」というのは女性ファンにがっつく男ヲタのことですね。ああいう人たちって、最初から女性ファン目的で会場に来るんですかね?

 いや、そんなことはないと思いますよ。やはりそういう人たちもアイドルが好きで会場に足を運ぶのだと思います。距離の近いアイドルを求めて地下アイドル現場に赴いたら、客席により近い自分にとってのアイドルがいたと(笑)。でも、活動が長いアイドルのヲタコミュニティって必ず結婚するカップルが出てくるんです。だから、若いヲタには希望を捨てず頑張って頂きたいですね(笑)。

ーひょえ~。本当に付き合いだすカップルとか出てくるんですね。それだと色々と男女の問題なんかも起きてくるんじゃないですか?

 グループ内で彼氏が変わったりするんですよね。サークルクラッシャー的な存在になることが往々にしてあるので、そこは気をつけて頂きたいところです。

ーそうですか。でも、なぜ女性が同性のアイドルのライブ会場に足を運ぶんですかね?

 そこは僕も不思議なんです。男で同性のアイドルに強い興味をもつ人って比較的少ないですからね。
「可愛い女の子の魅力」はセクシャリティやジェンダーの壁を超えて届くということではないでしょうか。元々は男性のビジュアル系バンドを追っていて、今は女性アイドルを追っかけている知り合いの女性に聞いてみたら、バンドマンに貢ぐのもアイドルを追っかけるのも、どちらも同じような感覚だと言っていました。

ー色々な現場に足を運ばれている宗像さんですが、面白エピソードってなにかあったりしますか?

 今年、私がのめり込んでいるアイドルグループBiSのライブで肋骨にヒビが入りまして(笑)。客席へダイブしてきたメンバーをステージへ押し返そうとしたら最前列のバーとの間に挟まれてピキッと(笑)

─それはすごい(笑)

 でも、それも現場が盛り上がったからこそのことですから。全然いいと思うんです。そういう現場の地熱みたいのって重要なんです。本当に盛り上がっている現場というのは、運営ではなくヲタが勝手に演出を始めるんですね。先月号でご紹介させて頂いた、Chu!Lipsなんかは特にそれが顕著なんですけど、ワンマンライブの会場に行くと、開演前に白塗りの男がふんどし姿で太鼓を叩いて、儀式みたいなものが執り行われているんです(笑)。運営側の演出などではないですよ、普通のお客さんです。その人とは顔見知りだったもので挨拶してみたら、一瞬我に返って「ハッ」とした表情を浮かべたんで申し訳なかったなと(笑)。ステージの最中に撒かれる花吹雪も全てヲタが用意しますしね。

─なるほど。誕生日には「生誕祭」などと銘打って誕生日イベントをやるのがアイドル現場お決まりの光景ですが、それも用意は大抵すべてヲタですもんね。

 そうですね。友だちが生誕祭の実行委員をやっている時、その人と連絡をとったら、「いま残業してるけど、こんなことしてる場合じゃないのに…」みたいなことを言っていて(笑)。いや、働くのが普通なんじゃないのかなぁと思いますけど(笑)。そういう心理も含めて面白いですね。

─「ヲタ芸」というのもライブならではの面白い要素です。

 今はヲタ芸禁止になってしまいましたけど、数年前のSaori@destinyのライブでのヲタ芸は本当に凄かったんですよ。曲中のブレイク時にはヲタがステージに上がって彼女を360度取り囲むような異様な状況になっていたんですね。その場ではあまりに普通だったので気にならなかったんですけど、よくよく考えればそれって中止になってもおかしくないですよね(笑)。
 いま面白いヲタ芸が見られるのはでんぱ組.incでしょうか。普通ヲタ芸ってその場の勢いとかエモーショナルな側面が重視される傾向があるんですが、でんぱ組ファンのヲタ芸ってすごくテクニカルでまったく真似できないんですよ。ケチャとかの基本動作も一般的なものからは乖離しているし、すごく興味深いです。

ーやっぱり「ヲタク」の世界って深くて面白いですね。最後に、宗像さんにとって「ヲタコミュニティ」とは何ですか?

 ヲタコミュニティって刷新されていくものなんですよ。一つのコミュニティに十年いるとかそういうことはあまりない。出会いと別れを繰り返す、人生の縮図なんですよ。
 でも、ヲタをやっている間はその仲間たちと家族のような関係になる。下手したら親兄弟よりも長い時間を共有することになりますし。私のことでいえば、最近三日連続でBiSヲタの友だちと会っているんですが、そのうちBiSのライブに行ったのは一回だけなんですよ。もうそこまでくると、なんの活動をしているのか分からなくなってきますよね(笑)。
 そうしたコミュニティは一時期の短く濃密な関係に終わったとしても、そこで人生通じて関わるような大事な友人ができたりするんですよ。社会人になったいい大人がビジネスライクな呪縛から解き放れてノビノビできる機会もそうないと思うんですよね。
 だから、一回騙されたと思って泥沼にはまり込んでみるのもいいと思いますよ。自分を見失い、人生そのものを消耗するような状態になったとしても、それはそれで面白いじゃないですか(笑)



宗像明将
音楽評論家。『ミュージックマガジン』から『サイゾー』まで執筆メディアは幅広い。熱狂的なPerfumeヲタとしても知られ、現在はBiSの狂信的ヲタとして各方面を賑わせている。充実の音楽情報満載のブログ『小心者の杖




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