面影ラッキーホール・ニューアルバム 『On The Border』の倫理学

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面影ラッキーホール・ニューアルバム

『On The Border』の倫理学

取材・文/VOBO編集部


「どこまでセーフ? どこからアウト? 20周年だし歌わずにはいられない……あなたをもっと知りたくて……作ってみましたニューアルバム。歌うは倫理・嗜好の38度線」!!(プレスリリース引用)

面影ラッキーホールの1年2ヶ月振りとなるニューアルバム『On The Border』が、去る8月17日、いよいよ全国解禁となった。言わずと知れた当世唯一(?)の非感謝系音楽実演家として、また「不謹慎でも度を越してしまえば炎上は起こらない」という格好のケーススタディーを世に提示した下世話コラム「けだものだもの」「my aim is true」などによって、VOBO読者諸氏にも既にお馴染みのこのバンド。さて、結成20周年を祝する新譜の出来映えはと言えば…、呆れるばかりのムジカ・ノワール、いやこれぞまことのノーブレス・オブリージュ、時世が時世なら一家郎党13階段必至であろう、相も変わらぬ(笑)問題作だ。隔靴掻痒の現代ポップス界を尻目にいよいよ荒ぶる38度線上のアリア、表題『On The Border』という言葉に、面影ラッキーホールが込めた真意とは?

バンドリーダー・sinner-yang氏、そしてボーカル・aCKy氏と共に、『On The Border』収録全9曲を解説する。




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面影ラッキーホール『On The Border』






?まずは新譜『On The Border』発売おめでとうございます!

sinner-yang(以下、S) ありがとうございます。

aCKy(以下、A) ありがとうございます。

?今作を聴いてあらためて思い知ったのは、面影ラッキーホールはとことん真実しか歌わないバンドなんだなぁ、と(笑)

S 実際に世の中に在る事しか歌いませんから(笑)

A まぁ、でも今回のこのアルバムはVOBOの「けだものだもの」でのトーク・セッションがきっかけになってるんですよね。

S VOBOでの連載がなければ出来ていない作品ですね。アルバムは作っていたとは思うけど、こうはならなかっただろうね(笑)

?そのように言って頂けるとは…、おらがサイトの誉れです(笑)。でも、気のせいか、一段とまたエロ色が強まっているように思えましたが…。

A だからそれがあなた達のせいなんだって(笑)。ずいぶん「けだものだもの」での会話がフィーチャリングされてますからね。

S 「けだものだもの」で寝取られ願望にまつわるお悩みがあったじゃないですか。例の如く、質問者への推薦曲として、寝取られに相応しい曲をセレクトしようとしたんだけど、丁度いいのが見当たらず「じゃあ自分達で作らなきゃ」って話になりましたよね。1曲目の『コモエスタNTR』は、まさにあの話を契機としてますから。

?アルバムを再生して1曲目にこの曲が流れ出した時は、心から快哉を叫びました(笑)。………さて、丁度いい感じに曲の話になりましたので、『typical affair』の時のインタビューと同様、あてどもなく『On The Border』収録の全9曲について、順番にお話を聞いていきたいと思います。





1 コモエスタNTR




?タイトル通り、「NTR(寝取られ)」をテーマとするこの曲…、おそらく日本歌謡界、いや世界の歌謡界においても、「NTR」にこれだけ正面から肉薄している曲というのは、他に類を見ないんじゃないでしょうか(笑)

S でしょうね(笑)

?ところで「寝取られ」願望やプレイに関しては、この国においてはやはり谷崎潤一郎のイメージが根強い気がします。つまり、背徳的で後ろ暗い欲望といった印象が強い。むろんこれは誤りではないのですが、余りにそのイメージが強固すぎて、やや損なわれてしまっている部分もあるんじゃないかと思っているんです。と言いますのも、僕らはエロ本の取材撮影などで寝取られマニアのご夫婦さんなんかのお相手をさせて頂くことがしばしばあるんですが、こういったNTR撮影の現場って、一般のイメージと反し、実は意外と明るいんです。ある種、カーニヴァル的で、異様な祝祭感があるんです。その点、『コモエスタNTR』は、その突き抜けるように明るい曲調といい、寝取られることによる苦悶ではなく多幸感にフォーカスした歌詞など、まさしく「寝取られ」現場のリアルに即しているように感じます(笑)

S いや、もう是非とも撮影現場でかけてください(笑)

?ありがとうございます(笑)。あらためて聞きますが、お二人には寝取られ願望はありますか?

A あるとしてもソフトにですね。実施には至ってない感じ。具体的に考えてみたりはするんだけど、相手のチョイスで結構悩んじゃって、そこで面倒くさくなってきちゃいますね。

S 僕は寝取られ願望そのものはないんですが、パートナーの過去の体験をほじくり、ディティールまで聞き出してっていう、いわゆる疑似NTRを行うのは好きですね。その場合にいいのは、疑似NTRの場合、問題となるのがすでに過去の行為なので、男はどんなに悔しくても、もはやどうしようもできないんですよ。止めに入ることが絶対にできない。そこがいいんです。仮にそれが現在進行形の、通常の寝取られになってしまうと、「指入れまではいいんだけど、それ以上は」みたいな、ややこしいこと言っちゃいそうじゃないですか(笑)。しかし、過去の事にはぐっと堪えるしかない。そのノタウチ回る感じが最高なんです。

?NTRの実践ほどハードルは高くなく、しかし、それに近い興奮は得られるという(笑)。疑似NTRは妙案だと思います。ところで、この曲にこの歌詞があてられた経緯をお聞きしてもいいですか?

S この曲に限らず、アルバム全体を通して、扱ってる題材が題材じゃないですか。僕らの曲はこれまで、哀愁的だったり昭和歌謡的だったりと言われてきましたので、ならば、この題材で、あえて湿り気を抑えて、明るく開かしてみたら、より頭がおかしいだろうなぁと(笑)

?確かに明るい変態ってなんかヤバい感じがします(笑)

A で、俺としては、この曲に関しては詩が先だから、まぁ幾つか楽曲に候補があって、どれに当てていくかって作業の中で、これはこれでしょって感じ。まぁマッチングですよね。

?個人的にはこれ以上ないマッチングに思えました(笑)

S ありがとうございます。僕は実際に寝取られの経験もないし、また寝取られのマニアの方との接触もないので、やっぱり寝取られと聞けば、最初におっしゃったような凄い淫靡なじっとりとした湿り気のある世界を想像するんですね。だからこそ、そこにはすかっと晴れた青空を、と。逆に食い合わせが悪そうな方を選んだ感じなんです。

?なるほど(笑)。確かに寝取られプレイを初めてされる方っていうのは、今sinner-yangさんが仰ったような、淫靡な興奮に駆られるんだろうと思います。ただ、ベテランになればなるほど、淫靡さが損なわれていく代わりにカーニヴァル性が増していく気がします(笑)。「どうぞ、どうぞ」のお裾分けの精神が加速していくと言いますか(笑)

S 確かに、それは僕にも一度経験がありますね。もう10年くらい前ですがバンドメンバーにSM嬢の子がいたんです。その子が『SMスナイパー』の編集長が月1で主催しているホームパーティーに招待されていて、僕も何度かひっついて遊びに行ってたんですが、ある晩、そのホームパーティーに長野県の上田市からわざわざいらっしたというご夫婦がいたんです。話を聞くと家が農家で大家族だ、と。じゃあ普段はどうやってプレイしてるんですか、と、いつもいるメンバーで聞いてみると、大家族でなかなか家の中じゃできないから、農機具を入れてある納屋の中で、『SMスナイパー』の見よう見まねでSMプレイをしてるって言うんです(笑)。要するに、東京に来て専門の方にご教授頂きたい、と、そういう理由で上京されたわけですね。

とはいえ、まぁ、奥さんの方も、普通の農家のおばちゃんなわけですよ。熟女的にどうのって言うより、本当に普通のおばちゃん(笑)。それを皆でよってたかって縛ったりしてんですが、ただ僕はあまりに食指をそそられないんで、一歩離れたところで俯瞰して見てたんです。その現場でプレイに参加せず俯瞰して見てたのは、僕とその奥さんの旦那だけだったんですが、たまたま対角線上にいた旦那さんとふと目が合った瞬間があって……。その時の旦那さんもやっぱり言ってましたね。声を出さずに口だけ動かして(どうぞ)って(笑)

?(爆)

S 多分、僕だけがプレイに参加していないというのがすごい淋しかったんでしょうね。何度も何度も口の動きだけで(どうぞ)ってやってくるんですが…、あれは居たたまれなかった(笑)

?愛の昂りゆえに奥様の市場価値を見誤ってしまう方、いらっしゃるんですよね(笑)

S そうなんですよ(笑)。当時、僕はまだ30ちょっとだったので、そこまで気が使えなかったんです。あの時、きちんとプレイしていた人達のモチヴェーションというのは、おもてなしの精神、いわゆるホスピタリティーだったんですよね。

?本人にとってはこの世に二人といない掛け替えのない女性であるわけですから(笑)。以前、ある寝取られマニアの旦那さんに社交的配慮から「素敵な奥様ですねぇ」と五十路絡みの奥さんを誉めてみたところ、不意に真顔になって「……やっぱり貴方もそう思いますか」と返され、やや対応に難じました(笑)

S まぁ…、on the borderですよね。

?(笑)。ところで、この曲では、様々な職種、あるいは属性の男性を「コモエスタ」してらっしゃいますが、それこそ歌詞から漏れた候補を合わせれば、その量は膨大だったんじゃないですか?

S 大変でしたねぇ…、それこそせめぎ合いでした(笑)

a 禁止用語もあるからね。本当は歌詞に入れたいと思っていたものでも、そういう事情で排除されちゃったものもあるんです。はじめは土木作業員とかも入ってましたね(笑)

?ちなみに歌詞に採用された間男候補の中で、お二人それぞれに最もグッとくる間男はどれなんでしょう?

S ボランティア仲間ですね。

?きっぱりと(笑)

S あれは強烈に推させて頂きました。「aCKy、悪いけどこれだけは入れてくれ」ってね。あとは「息子の担任」かな。

?aCKyさんは?

A そうだなぁ…。

S aCKyはあれでしょ、たけやさおだけ。

A そうだね(笑)。まぁあれに関しては自分の願望というよりも、歌詞としての跳躍感が好きなんだよね。

?確かにたけやさおだけのインパクトは強いです(笑)。なるほど、sinner-yangさんが関係性重視である一方、aCKyさんは匿名性重視ということでしょうか。

S そうですね。後はアッパークラスに寝とられる方がいいのか、ロウアークラスの方がいいのかっていう問題。aCKyはロウアーな方がいいんだろうな(笑)

?そこも好みが分かれそうですね。間男選別というのは寝取られにおいて究極の難問です(笑)

S これも「けだものだもの」の時に話しましたが、かつて大学の女教授と付き合っていたことがあって、彼女は既婚者だったんですが、ある時、ホームパーティーに呼ばれたんです。その女教授は亭主も教授で、それも東大教授だったんですが、雰囲気や様子から見ても、夫は明らかに僕と彼女の関係を知っていましたね。おそらく、彼はロウアー志向だったんでしょう(笑)

?NTR好きには堪らないお話ですね(笑)

S これも以前に話しましたが、そのホームパーティーで彼は、僕の職業を知っていて気を使って音楽の話を振ってくれたんです。その時、僕は音楽の聴き方に関しての自説を語ったんですね。すると、むこうは心の底から驚いたような顔をして「あなた、頭いいんですね」って。今まで人に言われた台詞で一番印象に残ってます。仮に犬が喋ったとしたら、多分人はこんな感じにリアクションするんだろうな、と(笑)

?その東大教授がロウアー志向の寝取られマニアだとしたら、あるいは、それによって興醒めしてしまったかもしれないですね。

S そうですよね。あれは「ガッカリだよ」って意味だったのかもしれない(笑)




2 おかあさんといっしょう




?さて……(笑)

S いい曲ですよねぇ(笑)

?いやぁ、胸をいっぱいにさせてくれる曲ですね(笑)。この曲について、いかに原稿に落とせるような形で話を進めていこうか、これがすでに難問ですが、まぁ思い切って言ってしまえば、この曲はつまり、××番目の××体に異常がある×××××?

A (笑)。まぁ俺たちが念頭に置いてるのはもうちょっとざっくりしていて、成人しているんだけど若干スローラーナーって人ですよね。ただ、この曲はリード曲ということもあったんで、限界があったんです。






?これがリード曲というのが…(笑)

A 実は最後の最後までsinner-yangと詰めていた箇所があって、それはこの曲のネタバラシの部分、「天使のような笑顔にママは十字架背負うわ」ってところ。真相に触れつつも分からないぐらいに抑えたつもりです。最初はもうちょっとあからさまな詩だったから。

S 僕もそこは色々と意見はしたんです。もっと示唆的な表現でもいいんじゃないか、とかね。

?印象としては丁度いい気もしましたが。直裁な表現は避けつつも、きちんと物語の背景が伝わるような、絶妙な按配だと思います。

S ただ、それはね、辻さん(取材者)達がborderのこっち側の人間ってことですよ。大抵の人はただの近親相姦ものぐらいの認識ですから。

?え、そうなんですか?

A 「公園や電車で出したらダメよ」っていう部分なんかでも、割と触れようとはしてるんだけど、分からない人には分からないんですよ。

S そうそう。×××異常があるっていうところまで踏み込んで聞いてきたのはあなたが初めてですよ(笑) 

?そんなもんですか?。××××の少年は精通以降の性の管理ができず、保護者が大変だという話をよく聞くじゃないですか。

S それね、よく聞かないから(笑)。その時点でborderのこっち側だから。

?よく世間話とかで…。

A 紅茶の時間とかにそんな話はしないから(笑)

S ところで、どうでもいい話なんだけど、中3になる甥っ子がバンドに興味を持つ歳になってきて、まぁこの曲も聴いたみたいなんですよ。さてどんな反応を示すかと思って見ていたら、勝ち誇ってたよね。「俺はこんなやつじゃない」って(笑)。「いるいる、こういうまだお母さんが恋しい奴」とか嬉しそうに言ってるんだけど、全く勘違いしているっていうね。それが可愛かったんだけど(笑)

?今sinner-yangさんのご親族の話が出たから言うわけではないんですが、この曲に限らず、今アルバム全体を通しての印象として、「家族」というサブテーマが通奏低音として流れているように感じました。全ての曲において「家族」が直接的にテーマ化されているわけではありませんが、一つ一つの曲が有機的に絡み合っていて、野暮な言い方をすれば『On The Border』というアルバムが一つの社会批評となっている、そんな印象を受けたんです。

S ご承知のように、僕たちはアルバムっていう形式がそんなに好きじゃないんです。なぜならば、アルバムというカルチャー自体がそもそも白人のロックカルチャーであるから。一方、僕たちが本当に影響を受けてきたのは日本の歌謡曲とソウルミュージックであって、どちらもシングルカルチャーなんですね。だから、意識としては取り敢えず曲を作って寄せ集めにしたっていうのが正直なところで、アルバムを通したコンセプトなんてものはないんですよ。ただ、その結果として、そこに何か一貫したテーマのようなものを感じて下さる方がいるんだとしたら、それは「on the border」というギリギリのところに立つ人達を書こうという意識にあるんじゃないかな、と思います。これはアルバム単位ではなく結成以来一貫して持ち続けてきた意識で、そしてギリギリのところに立っている人達を取り上げようとした時に、まず一番最初に接する社会としての「家族」にその問題を求めざるをえないんじゃないかなって思うんです。

?「on the border」な事象を取り上げようとすれば、おのずと「家族」について歌うことになる、と。

A 分かりづらくなっちゃうんだよね。「家族」とは関係のないborderの人達を分かりやすくするのは難しい。

S 彼も僕もborderの女性と付き合うことがやたらに多くて、これは以前に彼とも話したんだけど、結局、最後に帰結していくのはその人の家族なんですよね。

?ところで、この曲はリード曲とのことで、すでにアルバム発売にして先行してPVがネット上にアップされていますが、反応などいかがですか?

S 僕は基本的に余りそういう評価は見ないようにしているんですが、割と「過激すぎる」っていうような意見も聞きますね。気持ちとしては前作の『typical affair』の延長線上なんですが。



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面影ラッキーホール『typical affair』



?確かに触れた禁忌のタイプが今までにはなかったタイプのものであったようには思います。ただ「天使のような笑顔にママは十字架背負うわ」というフレーズが、ある種のカタルシスを生んでいて、個人的には上手いバランスだなぁとも思いましたが。

S 実は僕は必ずしもあそこの部分には賛成じゃないんですよね。歌詞を書いてない僕がすごい僭越なことを言ってしまうと、個人的にはママが十字架を背負わない方がいい。

?もっと振り切れちゃった方がいい、と。

S そうですね。さっきNTRの話でベテランになるとカーニバル化していくって話がありましたけど、これにも同じような事が言えるんじゃないかなって。つまり、ルーティン化していくことで罪の意識は薄れていくと思うんです。最初に踏み込む時は「十字架を背負う」気持ちもあったでしょうけど、結果としてお馬遊びまでいってるわけですからね。

?はいしどうどう(笑)

S あと、面影ラッキーホールの歌で、語り部が自分の心情を吐露するってこと自体が、余り多くはないんです。

A それはあるね。特にここ2作に関しては、不必要に心情的なものは歌詞に入れず、すぱっといっちゃっていて、それがクールだってことにしてる。だから、個人的な趣味で言えば、sinner-yangの言った通りなんだよね。だけど、作詞家として、幾ばくかはリスナーにきちんと感じさせたい、読ませたいという気持ちがあるから、十字架を背負わせるしかなかった。そこまで省いてしまうと、分からない人には本当に分からない曲になっちゃうと思うんですよ。こういう話だってことをある程度の人達に伝えるためには、そうするしかないな、ってね。

?また、あの一節の存在によって、リスナーがこの曲を安心して聴くことができるということも言えるかもしれません。あの一節が仮に存在しなかったら、あの曲は一挙にサイコサスペンス色を増すと言いますか、一聴して恐怖心を抱く人も出てくるんじゃないかな、と。

S 本来はそういう気持ちにさせたいっていうのもある。くどいようですけど「on the border」ですから。このおかあさんに限らず、誰もが自分なりの大義名分を持って生きているんだと思うんです。客観的に見てon the borderな人でも自分なりの正当化をしている。僕はその正当化のロジックを聞きたいんです。

A まぁ多くは電波的な感じだろうね(笑)

S 確かに電波的な人も多いと思うんだけど、個人的な好みとしては、ほんのちょっとしたボタンのかけ違いみたいなね、そういう人が好きですね。




3  制服で待っていて




S その点、『制服で待っていて』のおかあさんははすっごくいいんですよね。設定が素晴らしい。この人は自分の行為を正当化していて、また、その正当化のロジックが見てとれる。「お願いだから好きになってあげて あたしを選んだヒト」とね。素敵じゃないですか(笑)

A いや、それを大概の人は電波だと思うんだって(笑)

S え、これって電波なの?

A そこに素敵さを見出せるのは、ここにいるような人達(テーブル周りをさして)ぐらいであって。普通は「お願いだから好きになってあげて あたしを選んだヒト」の時点で電波だと思って切り離すよ。

S そうかなー、俺は「私が選んだコスメだから皆も使ってね」「私が泣いた映画だから皆も観てね」ってブログに書いてマージン取ってる“カリスマブロガー”さん達と同じだと思うけどね。

?確かに(笑)。さて、この曲は「恋心のために我が子を犠牲にしてしまう」シリーズという意味では『ゴムまり』の系譜ですね。





A そうだね。まぁ…、前回はね、殺しちゃったんで…、実際に「殺さないで」っていうリクエストも多かったんです(笑)。で、この詩を書いたんですが、つまり『ゴムまり』であの時に殺さなかったとしたらこうなるんだよってこと。生き伸びたとしてもこうだぞ、と(笑)。生きてるか死んでるかが悲しいの絶対基準ではないだろう、生き地獄もあるだろう、と。

S あとはそうですね。『千の風になって』とか『会いたい』とか、古くは『精霊流し』とか、人が死んじゃう歌って当たるとでかいんです。当たったらホームラン、当たらなければ三振。で、我々は三振したんで(笑)

?(笑)

S いやぁ、当たんなかったなぁ、人の死んだ歌なのに(笑)

?でもまぁ…、この曲に登場する娘は、きっとお母さんの言いつけ通りにお義父さんに抱かれたとしても、その後、修学旅行はおろか、給食費を払ってもらえることもないんだろうなぁ…、というのがジンジンと伝わってきました(笑)

S で、この子もこういうお母さんになるわけです。

A 負のスパイラルだね。この子もこういう男のことが好きになる。

S ………ていう考え方もあるし、まぁこの曲に関して言えば、いわば安定のクオリティというか(笑)。こんだけ20年もやってると自分自身のパロディーをやっている部分もあるんですよ(笑)

?前作あたりからそれは感じてました。3枚目のフルアルバムぐらいまでは、徐々に面影ラッキーホールの世界観が形成されていっている、という印象だったのですが、前作あたりから面影ラッキーホールが面影ラッキーホールを強く意識している、というのを感じ始め…(笑)

S そうそう、その通りです。やっぱ、トム・ジョーンズの「恋はメキ・メキ」とか、コロッケさんにモノマネされた後の美川憲一さんとか、ああいう感じが好きなんですよね。それはね、もう長くやっている人じゃないとできないことだから。とまぁ、もっともらしいことを言ってみたんですけど……、ようするに手癖ですよね(笑)




A そうだね(笑)。もう手癖で書けちゃうから。この曲に関しても、sinner-yangには何度も相談したんですよ。「もういいんじゃないかなぁ、こういうの」って。でも「やっぱこういうのが必要だよ」って言われて、安心させられてね(笑)

S やっぱりストーンズには、『ブラウンシュガー』とか『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』とか、ああいう曲を書いてもらいたいじゃないですか。

A 別にストーンズにダブに凝ってもらわないでもいいんだよね(笑)

S そうそう、ディスコに挑戦してもらわなくてもね(笑)。ジャーララ♪ってキースにやってもらいたいんだろって。少なくとも僕はやってもらいたいと思うし、ということは面影ラッキーホールについてもそういうことなのかな、とね。





?つまり……、面影ラッキーホールが抑えに入ると、この曲が出来上がるってことですね(笑)

S 流すとね(笑)

?あと、こんなことを言うと胡散臭いと思われるかもしれませんが、こういう曲を聴いた後にいつも思うのは「こうなっちゃいけないな」ってことなんです。『制服で待っていて』もそうですし、『ゴムまり』もそうでしたし、それ以前では『私が車椅子になっても』などを聴いた時もそうでした。

S 抑止力にね(笑)。まぁ…、そんな風に思う人なかなかいないと思うけど。

?『私が車椅子になっても』なんか、聴く度に涙ですよ。自分自身の倫理が問い質されているような、そんな感覚になるんです。

A あぁ、でも『私が車椅子になっても』は道尾秀介さんも聴くたびに泣くって言ってたね。

S 中学校の教科書に森鴎外の「舞姫」が載ってたじゃないですか。あの曲のテーマは「舞姫」と同じなんだけど。なぁんで森鴎外だと教科書に載るのに俺たちだと責められるんだろう(笑)

?なんででしょう(笑)

S まぁ俺たちは帝大出てないからだろうね。

A 単純に慣れてないんだと思うよ。そういうことが歌になるってことに。同じ内容のものが小説や映画になっていれば、おそらくみんな違和感なく享受できるんだろうけど、歌はそういうことを伝えるものじゃないってイメージが多分どっかで刷り込まれてるんだよね。

S 歌は勇気と元気を与えてくれるもの、このイメージが強すぎるんです。友人に聞いたんだけど、最近のレコード会社への入社希望者たちは志望動機について、100人中100人が「音楽を通してこの社会に勇気を与えたい」って言うらしいからね。もうね、ほんっとに悪いけど、勇気は別にいらないからって。例えば女性週刊誌であれば、「~~の事件簿」みたいな下世話な記事が一番喜ばれるわけですよ。つまり、僕らの歌が光文社系の雑誌にでもなれば、オバさん達はこぞってパーマとかかけながら読むわけでしょう。不思議ですよ。ポップミュージックの形になった瞬間に“勇気”の元である事を強要され、そうでなきゃ叩かれるわけですから。

A 仮に僕らが音楽で凄い儲けてたりしてるっていうんなら「ひどい」って言われるのも分かるけどさ。まず儲けてないからね。清貧ですから(笑)。まぁ、歌謡や芸能というものが、うしろめたいものからメインストリームになって、裾野が広がったってことなんでしょうね。




4  くちにだしてね




?この曲はすでに聞き馴染んでいるという方も多いのではないでしょうか。僕らはレコーディングの現場にも行かせてもらいました。

A そうだったよね。

?これは「BeeTV」の番組テーマ曲ですよね。

S そうそう。ただ元々は一青窈ちゃんの依頼を受けて作った曲なんです。

?らしいですね(笑)。なんでも一青窈さんは兼ねてより面影さんのファンであることを公言されているとか。

S ありがたいですね。ライブにも来て頂いてるみたいで。以前、バックバンドをやって欲しいという依頼もあったんですが、まぁそれは結局事務所の方から丁重に断られたんですが(笑)

?惜しいですねぇ。面影ラッキーホールが奏でる『ハナミズキ』を聞きたかった(笑)

S 僕たちもやりたかったんですけどね(笑)

?『くちにだしてね』に関しては、一青窈さんのために曲は作ったんだけども、結局は実現しなかったんですね?

S まぁそこは紆余曲折がありまして…………


(中略)


?……なるほどなるほど(笑)。いやぁ残念ですね。聞きたかったなぁ。

S でも今回のアルバム収録曲の中では、個人的にこの曲が一番自信ありますね。

?というのは?

S まぁ何度も言っていることですが、我々は受注発注系なんです。自分の中に溢れる何かがあって音楽を作っているというのではない。その点、この曲については、曲は一青窈さんから頼まれて作り、詩は「BeeTV」さんから発注を受けて作ったものなんです。明確な発注があったために、いつもであればもっと悪ノリして自分のセルフパロディーに纏めちゃうところを、ポップスとしてきれいに纏めれたんですよね。結果としては非常に良いものになったな、と。

?なるほど……、クライアントの存在ゆえ歯止めが利いたんですね(笑)

S そうそう、自制心がね(笑)。そもそもこんなにメロディックな曲って他にはないですし、詩も純粋に自分達用に作ってたら、誰か死んだり、売春を強要されたり、交通事故に遭ったりするんですけど、まぁ程よく抑えられている(笑)

?そうですね。面影ラッキーホールのテイストを充分に残しつつ、より贅肉が絞られているといった感じでしょうか。ところで、こんなことを言うと、セクシスト云々と叩かれそうなものですが、この曲を聴いて感じたのは、やっぱ女性にはこうあってほしいなぁ、てことですね。

S そうそう。ある女性が岩崎宏美さんの『聖母(マドンナ)たちのララバイ』って曲が大嫌いだと言ってたんです。あの曲に描かれている女は完全に男達にとって都合のいい虚構の女じゃないか、と。『くちにだしてね』は、構造があの曲と一緒だと思うんです。現実はそんなわけないんだけどさっていうね。あるいは、aCKyと昔よくフェリーニの『道』の話をしていたんですが、まぁあの曲は『道』ですよね(笑)





A 『道』であり、『ゆきゆきて、神軍』である、と(笑)



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『道』
(監督)フェデリコ・フェリーニ


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『ゆきゆきて神軍』
(監督)原一男




S バンド始めた頃にこういう風なものを作りたいねって言っていて、それが漸くできたって感じですね。

A まぁやればできるってことだよね。そもそも「くちにだしていってください」って意味だから(笑)。なんにも問題もないですよ。

S 俺はこの曲でさっきの甥っ子に「ダブルミーニング」って概念を教えたからね(笑)

A 俺が『雨上がりの夜空に』を聴いて学んだのと同じですよね。


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面影ラッキーホール誕生20年記念 ハタチの値打ちもない・成人式ツアー

8/19 (日) @ 渋谷WWW
開場 / 開演:17:00 / 18:00
フロントアクト:LASTORDERZ
前売¥3000- / 当日¥3500- (ドリンク代別)

8/26 (日) @ 心斎橋JANUS
開場 / 開演:17:00 / 18:00
前売¥3000- / 当日¥3500- (ドリンク代別)

9/8(土)@横浜フライデー
詳細 / http://www.alpha-net.ne.jp/users2/friday/friday.htm


面影ラッキーホール 
Sinner-YANG (しなーやんぐ) 面影ラッキーホールのバンドリーダー、ベーシスト。
aCKy(あっきー) 面影ラッキーホールのボーカル。
オフィシャルサイト





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