器具田こするのオナホール戦記 第五回

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txt 器具田こする教授(Kiguda Lab.)


第五話






■ マジックミラー店の謎


 1985年。風営法改定により、オナホ界は核の炎につつまれた。
 オモチャ屋が公的に認められたことで、既得シェアを奪われまいとする大手業者と、小回りを活かして勢力拡大していく後発業者、勝ち組と負け組が見えるようになってきたのだ。
 1989年にもなれば、ほとんど「今」だ。懐古情緒を感じるほど未開な時代ではない。生活家電は今と変わらないし、コンビニや宅配ピザもあった。ここ二十数年で進歩したのはデジタル系のインフラくらいなもので、2012年からインターネットと携帯を引き算するだけで、おおよそ当時をイメージできる。

 ワタシとオナニーグッズの出会いは、そんな時期。

 雑誌広告での通販やエロ自販機でグッズを買うと、実物との落差に賢者モードが酷くなるだろうとは想像できた。ワタシは実物を見て買おうと、その広告に載っていたリアル店舗に行くと、怪しげな店構えでビビるのだった。

 小さなボロい店の前。立て看板に「ビデオ」「オモチャ」と書かれているのが見える。店名が書かれてあるかもわからない。スライドサッシ扉にはマジックミラー。「18歳未満お断り」とだけ書かれたプレート。営業しているのかすらわからない外観。扉を開けると学園祭の模擬店のような、あるいは学校近くの駄菓子屋のようないい加減な雰囲気で、エロビデオ、ディルドー、補助サック、オナマシン、包茎矯正グッズ、ローションなどが置かれている。真の姿は裏ビデオ屋だったのかもしれない。店主はレジ前に座って競馬中継に熱中している。何も買わずに退店すると因縁付けられそうな雰囲気も感じられ、ダウ
ナーな気分になる。

 そして客の恥ずかしさに配慮して貼ったであろうマジックミラーが、退店時に余計恥ずかしい罠。
 二度目にそこを通りかかると、休業日だったらしく目印にしていた立て看板がない。シャッターが閉まっているのでマジックミラーも見えない。店自体が幻だったのかと思えるほど高度な隠蔽能力。いったい誰と戦っているんだろう。

 当時は、そんな客を寄せ付けないほどの怪しいグッズ専門店をよく見かけたものだ。

 他方、オモチャコーナーのあるエロビデオ屋や新古書店は入りやすかったが、 品揃えは専門店ほどではなかった。やがて意識の高いエロビデオ屋はグッズコーナーを拡充する。グッズ専門店の方も入店しやすいオシャレな明るい外観に変わり、区別が曖昧になっていった。


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■ 仕入れ先はさらに怪しくておもしろい!



 こうしたアダルトショップは、現在では風営法の定めに従って管轄の警察から店舗型風俗営業の許可をとっている。アダルト問屋からグッズを仕入れ、店や通販で一般客に販売する流れだ。

 問屋側やメーカーの多くは、風営法改定以前の大人のオモチャブームから1990年代までの長きにわたり、前述の伝統工芸という名目を掲げるエロ土産物業界の団体「全国観光用品連合会」に束ねられていた。この連合会の中で筆頭格のグッズメーカーが、1962年創業の東健商事である。東健商事はオナホール以前の時代、女性用バイブの開発で有名であった。

 そして 1981年、日暮里ギフト(NPG)が創業する。

  男性用、女性用ともに幅広いメーカーの問屋として大躍進。全国観光用品連合会はフェードアウトし、日暮里が日本最大手のメーカー兼問屋となった。自社製品では2007年発表のオナホール「名器の品格」で知られる。

 問屋は他に新宿アートセンター、トアミネット、トイズハート、ワールド工芸、ウインズなどがあるが、オナホール市場における日暮里の存在は別格である。

 大手メーカーのほとんどは問屋でもあり、他社製品の卸売を行う。たとえばウインズ(問屋名)とラブクラウド(メーカー・ブランド名)のように、二つ名を持っていることが多い。

 業界内で互いに他社製品を扱い、そのノウハウで自社のグッズ開発も行っていると、OEM協力や金型の貸し借りなどのメリットがある反面、アイディアのパクりリスクもある。自社工場を持つ大手に発売前の新商品情報をつかまれれば、圧倒的資金力かつ超スピードでもって対抗商品を出してくるかもしれず、先行する中小メーカーは気を抜けない。このあたりは他業界の商品流通も似たような事情だと思う。1980年代まではアウトロー勢力が市場に参加していたため、パクリバトルが激しく展開されたらしい。

 もちろんオナホ職人は職人気質である。クリエイター的観点からすると、他社のヒット商品の後追いはやりたくないし、ユーザーからバカにされるはずとも思う。ただ、アダルト関連のアイディアは特許で保護されにくい。

 ヒットしたアイディアは共有化されてしまうので、メーカーはむしろ常にネタを出し、エロ以外にもヒントを見つけるためにアンテナを張り、革新的でありつづけることが重要だ。


■ 問屋の発言力


 アダルト問屋は全国のショップに取引登録をしてもらい、毎年数回の商品カタログと卸価格表を配布する。扱いアイテム数が多い問屋だと、カタログはちょっとした雑誌並みの厚さになる。メーカーは雑誌に広告を出すのと同じように、このカタログのページを買って、原稿を問屋に渡して載せてもらうのだ。

 アダルト問屋はこのカタログ掲載料と、実際の流通手数料(マージン)が主な収入源となる。商品知識のない小さなショップに仕入れ商品のプロモーションを行うため、メーカーに大きな発言力を持つことになる。

 日暮里ギフトのカタログは最大手だけあって、発行スケジュールに合わせて商品開発をする専業メーカーもあるほど。コミケに合わせて同人誌を作るサークルにイメージが重なる。

 流通マージンはオナホの質を左右する重要なファクターである。

 たとえば同人誌を作って、サブカルショップやマニア書店に委託するケースを考えよう。たいてい売上の30%を手数料として取られるはずだ。読者は著者にお金を払ったつもりでも、システム上、7割しか届かないことになる。では、ユーザーの払ったオナホ代は何割がメーカーに届くのだろうか?

 アダルトグッズ界の頂点に立った日暮里ギフトは、取引先条件にもよるが、売上の50%をマージンをメーカーに提示することがあるという。価格競争上、売価は常識的レベルに抑えなければならず、メーカーの利益を確保して逆算すると、製品原価にかけられるのは高々10?15%程度と推測される。1990年時点ではオナホの価格は1個1万円もめずらしくなかったが、価格が1/5になった2010年代、同条件で国産品となると、数量が増えたとしてもかなりの無理ゲーである。現状、「メイド・イン・ジャパン」を掲げていないオナホは中国、台湾など物価の安い国で生産されていると考えられる。

 日本市場はオナホの質や構造、パッケージに対する要求レベルが高く、国外生産では品質管理に失敗するケースも発生している。所謂、地雷ホールというヤツである。



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著者紹介


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器具田こする教授


マッドサイエンティスト。ドールとホールのR&Dアートユニット「器具田研究所」を主宰。隠匿野外自慰器具「オナーパンツ」でオナニーの世界に革命を起こし、複雑系ホール構造やオナマシン設計などアダルトグッズのテクノロジーを追求し続けている。「ゆっくりしていってね スローオナニー入門」(コアマガジン)でCEOを担当。発音は「きぐた」ではなく「きぐだ」と濁る。

webサイト http://www.kiguda.net/
Twitter @kiguda