ヒロイン手帖 × Mr.

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ヒロイン手帖 その2

Mr.

萌えって実は〝侘び寂び〟みたいなものかもしれない

文/荒玉みちお 構成/うぶモード特ロリ班


アーチスト名「Mr.」。文字通りミスターと読む。ここ数年、欧米を中心に高額なオークション落札額で作品が取引されている村上隆が率いる、カイカイキキ所属のアーティストで、村上隆の一番弟子というポジションである。

彼もまた欧米での人気が高い。作品はこのページで一部見られるようなアニメおたく風味が強く出たもので、ロリータ趣味画風と言ってもよい。実際、カイカイキキでもそのような印象を否定しないようで、サイトで以下のように紹介している。その一部を抜粋させていただこう。


〈─アニメに登場しそうなキャラクターがMr.の作品では、過剰に性的な要素をもって表現され、ロリコン趣味を具象化しています。それが文化的な論評表現なのか? 自己コンプレックスの探検なのか? あるいは、その同時解釈の可能性を示唆しているのか? いずれにしてもそれがMr.の作品の特質です─〉


ロリータ趣味を隠さないアーティストは、倉庫を丸ごと借り切ったアトリエで、大勢の助手とともに制作の最中であった。Mr.という変わった名前は、プロ野球界の至宝・長嶋茂雄の愛称に由来するという。熱烈な長嶋ファン!?


「なんか、突拍子もないことを言ったりする……、そういうところで渾名がついて。それでそのまんまなんです。野球も全然やってないんですけど……」


Mr.は、実にか細い声で、ぼそぼそと名前の由来を呟いた。情熱的な長嶋茂雄とはほど遠い「ミスター」がそこにいた。子供の頃からの長島信者の筆者としては不思議な感覚である。取材が街中の喫茶店であれば「認めない……」と呟き返していたかもしれない。しかし彼の背後に広がる強烈な個性を放つ作品群を見て、なおかつ、これが1ヶ月後にはパリの個展会場に並び、欧州のコレクターたちの間で高額な価格で取引されるという事実を考えれば、無口にならざるを得ない。口先ではない作品勝負のアーティスト特有の木訥な姿が、確かにそこにあった。

Mr.を語る上で欠かせないのが村上隆の存在である。


「もう12年目ですね。今でもお世話になってます。村上さんの作品はアニメっぽいところのツボを押さえた美術で〝アニメのことを凄く知っていてやっているんだな〟と興味を持っていたんです。僕はその頃まだ学生だったんですけど、そういうアートを展開している人っていなかった。アニメっぽいことをやっている人はいたんですけど、ツボを押さえている人はいなかった。だからそういう中で、目立っていたんです」


その頃から現代美術のアーティストを目指していた。


「学生として勉強を続けながら、村上さんに近づきたいと思って。それで学校の先生が知り合いだったんで紹介してもらったんです」


作品からも想像できるように、Mr.は無類のアニメ好きだった。


「僕がアニメ好きということは村上さんも知っていて、あるとき、〝ミスターはどういう作品を作ってるの?〟という話になって。その頃はゴミを集めた作品を作っていて……いわゆる現代アートっぽいことをやっていたんですけど、話をしているうちに〝僕はエロ本とか同人誌をたくさん持っているんです〟という話になって。裏で隠れるように少女画とか描いていたんですよ。それはアートじゃない、恥ずかしいものだと思っていたから誰にも話さなかった。でも村上さんは〝それじゃないの?〟と。〝これからミスターがやるには、そっち(ゴミ系)よりこっち(アニメ系)がいいんじゃないの?〟ということになって」


アーティスト・Mr.の方向性が決まった瞬間だった。




?隠れて描いてた少女画を村上隆さんに“それでしょう”と言われてから鱗が落ちそれから堂々と描き始めました



P1120899.JPG「まさか、そんなのがアートになるとは思っていなかったんで、びっくりしました。それからです、堂々と描き始めたのは」


その頃の趣向については相当な美少女愛好家である。とりあえず、アニメ関連の話から。


「中学高校と、凄いアニメ好きでした。それで20歳過ぎた頃から同人誌に目覚めた。その頃すでに僕は村上さんの手伝いで忙しかったんで自分では作っていないです」


時代は「コミケ・同人誌・おたく」といったキーワードが異文化として世間に浸透しはじめていた頃だった。当時も今も、純粋なコミケ客だという。


「どんなに忙しくても3日間のうち1日は行くかな。そのたびに段ボール買いして宅急便で家に送るということをやっています」


世界的なアーティストではあるが、今でも裏ルートなど使わず、一般客として前日の夜11時頃から行列に並び、苦労して同人誌を購入しているという。


「最近は『七尾奈留』とか『いとうのいぢ』とか買ってますね。スターですから、その世界の」


たとえば「いとうのいぢ」という作家は、ライトノベル『灼眼のシャナ』や『涼宮ハルヒ』シリーズのキャラクター原案を担当し、男女を問わず中高生に絶大な人気を誇っている。


「買った同人誌は、基本的に持ってますね。段ボールに入ってどうしようもない感じですね。よく、おたくの人で部屋が壊れる人、いますよね。一緒です。捨てられないですね。コレクターってわけじゃないんですけど」


話題は計らずも同人誌から『クリーム』系の偶像趣味に移る。


「コレクターとしてはアイドルのポスターとか、切り抜きとか持ってますね。一時期、上戸彩が凄かったですねぇ」


アトリエの片隅に、数年前の上戸彩カレンダーが飾ってある。なぜか7月で止まったままだ。


「あれもたまたまですね。何でか知らないけど、あれ以上、千切れなくなったんです」


アイドル分野で言えば、もともとは『おニャン子クラブ』からスタートしたという。


「高校時代、地元の大阪城ホールとか行きましたねぇ。それまでは松田聖子とか中森明菜がアイドルの主流だったんですけど、『おニャン子クラブ』が出てきて明らかに変わったでしょう。そこで目覚めた感じですね」


ひいきは城之内早苗だった。


「理由もなく好きでした(笑)。最後のほうに渡辺満里奈、工藤静香とか入ってきた。あの辺からだいぶ変わりましたよね。渡辺満里奈が出てきたときはビビりました。歌があったんですよ。メンバーの名前と会員番号が全部入った歌。う?ん、忘れちゃったなぁ。なぜか途中で辞めちゃった人がいて、そこが欠番があったりしてね」


実に嬉しそうである。同人誌、アイドルと話題が進むにつれ、饒舌なるMr.であった。


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