コイトゥス再考 #01
みうらじゅん
うしろメタファーのエロス
文/辻陽介 写真/藤森洋介
エロで何をか成さんとする時、この人の存在を見過ごしてしまっては、成るものも成らないだろう。ましてや、大胆にも性の再考などという大風呂敷を広げている本欄であれば、それは尚更のことである。
みうらじゅん、この人物について、もはや多くを語る必要はあるまい。稀代の博覧強記にして、また常に愉快を忘れぬホモ・ルーデンス。エロに対するその多大な情熱は、200冊を優に越すエロ写真スクラップ群(もちろん趣味として)が、何よりの証明だ。言うなれば、これは一種の通過儀礼のようなもの、偉大なる先哲に対するお宮参りである。
文化系日本代表みうらじゅんが語る「うしろメタファーのエロス」。一切の制約を欠いた脳内天国へ、いざ。
(2011年2月/みうらじゅん事務所にて)
みうら えぇっと…、エロですよね(笑)
――エロですね(笑)
みうら 僕は人生の三分の二はやらしいこと考えて生きてきてますからね、あとの三分の一で、まぁ大学のこととか、色々考えてきたわけです(笑)
――さすがです(笑)。では早速、お話を聞いていきたいのですが、最近、草食化なんて言葉に象徴される若い男のエロパワー減退が騒がれ、一方では女性の肉食化なんてのが謳われています。あるいはそれらについては過分に喧伝されているところもあるかとは思いますが、少なくともエロの図式が以前とは変わったものになってきているのは確かなように思います。そこでお聞きしたいのですが、まず、みうらさんは男という生き物をどういうものとして捉えています?
みうら それは女の付属品でしょう。
――と言うと?
みうら 昔からメインは女の人と決まってますから。でも、今ははっきりメインになりすぎてるように思います。女の方が自らオマンコ開くとか。あれは良くないでしょう。
――エロ本でいうところの痴女系ですね。
みうら 例えば今の女性はことの最中に男が「どこに入ってるんだ?」とか聞いても「マンコ」ってあっさり言っちゃうでしょ。あれが良くない。男は「溜め」だけで生きてますから。自ら聞いといてジラされたいっていうかね。「いま何が入ってるのか、言ってみろ」とか男はスゴんで、女が「おち…ん」とかなかなか言い切れなくてね、その感じが本来なら見せ場なのに、「チンポ」ってすぐ言うようになっちゃてるから。女の「チンポすぐ言う時代」がね、そもそも良くないんだと思いますね。「こんなバカなこと言っとけば男は喜ぶんでしょ」って彼女らは思ってるんだろうけどもさ…、まぁそうなんだけどね。でもそうだとしても、そんなハッキリ言われちゃ立つ瀬がないですよ。
――言わせるまでのプロセスを楽しみたいわけですからね。
みうら 「おいしい」とかも簡単に言うでしょ。そもそもザーメンが「おいしい」わけないんだから。おいしいはずのないものを飲まして「おいしいか?」って聞いて困ったりしてる姿が見たいのに、「おいしい」って即答する。まるで台本に書いてあるみたいにさ。
――それはありますね。
みうら それに今は女性がすぐイクでしょ? というか振りをするでしょ。昔はなかなかイカないもんだったんですよ。エロ本の中とかでもそうだったの。なかなかイカないというのが前提としてあって「よしオレがイカせてやる」ってチャレンジが生まれたのに、今はすぐイクし、すぐ潮吹く。昔は窪園さんだけでしたから。
――(笑)
みうら それが今じゃどうやら誰でも吹くらしい。ミステリーサークルの謎があっさり解けちゃったんだよね。その感じがもう駄目ですよね。
――ロマンがないですね。
みうら 日常においては良くないことだけど、でもエロばかりは男尊女卑っていうかさ、多くの時代において男達はエロで威張りたいからそのために権力を得ようと頑張ったわけでね。だから日常の男尊女卑はまずいけどさ、せめてベッドだけはウソでも残して欲しいですね。
――なるほど。
みうら あと敬語ね。敬語っていうのは社会に出て恥をかかないために学ぶんじゃなくてさ、ベッドの上でチンポ勃たせるために生まれた言葉ですからね。でも今の人はベッドで敬語なんて使わないでしょ、ドMの人ぐらいしか。今はタメ口じゃないですか、AVとか見てても。すっごい萎えますね、タメ口。
――確かに三つ指ついてどうのなんて今は見ないですね。
みうら やっぱそこは教育しなきゃいけないんじゃないですかねぇ。勃ってなんぼ、勃たせてなんぼという根本を。
――重要ですね。
みうら 「男をたてる」ってのは、本来そういう意味ですからね。
――(笑)。チンポの話だったんですね。
みうら 男のチ○ポ特集とかもとんと無くなったでしょ? 雑誌とかでも。
――見ないですねぇ。
みうら 前はよく雑誌とかにもチン長測定とか書いてあって己のチンポの長さを測ってね、自分で結構イケてるとか思う、そういう企画があったもんですよ。先ずチンポ有りき。でも今は完全にマンコでしょ、メイン。
――そうですね。
みうら 膣トレとかね、女性誌にも書いてあるでしょ? いまやチンポの話なんて誰もしなくなったんですね。全然流行ってないですよ、チ○ポの話。
――全くですねぇ。実は『VOBO』でもいまチンポリバイバル企画を練ってるところです。
みうら 重要ですよ、それは。今は本当にチンポが欠けてると思う。エロスクラップやってて気付くことは、今のエロ本にはチンポの写真がたりないんですよね。ニャン2はまだ入ってる。すごいモザイク入ってますね。それを切り抜いて分かり易いチンポの形にして張り付けてるんだよね(笑)。もちろんさ、主役は女の人なんだけど、名脇役としてアイツが映ってないから淋しい限りだよね。だから外国に行った時なんかにチンポ写ってるエロ本を大量購入したりしててさ。
――すごい入れ込みようですね(笑)
みうら ひょっとして俺はチンポの方が好きなんじゃないかなって思うくらい、チンポの写真を集めてますよ。
――それはなんか分かりますね。
みうら でね、グラビアの女の子の上にチンポをコラージュすればさ、もうそれだけでグッとくるんですよ。
――それは長年エロ本を見てきて大きく変化した点ですか?
みうら マンコとアナルに完全に負けましたよね、チンポは。ランキングでいえば、もう12位くらいになってるんじゃないかな。女には人気の部位がいっぱいあるじゃないですか、クリトリスからなにから。こっちはチンポしかないからね、売りが。写真でいうとさ、例えばフェラだったら全部咥えこんでるんじゃなくて、チンポが分かるくらい出てる写真がいいのね。袋が写ってればなおいい。棒だけではやっぱり気持ち悪いというか、独り立ちしてない感じがしますから。
――支えてるだけですからね。
みうら 今、エロに元気がない原因はチンポの人気低迷のせいですよ。
――実際どうなんでしょう、本当に男性の関心はチンポから離れちゃってるんですかね。僕らもエロ本をやっていると、確かにチンポよりマンコの写真を使いたくなるもんですけど。でも、こっち側が意識的にチンポ写真をガンガン出してけば、ユーザーたちにも響くものはあるのかなと。
みうら 「なんか最近えらい出てるぞチンポが」、みたいなね。そりゃもう本が変わったと思うよ。よくマンコにザーメンがぶっかかってるような写真あるでしょ? でもさ、やっぱチンポから出てるところじゃないと…、駄目なんですよねぇ。ビデオはそれが見れるから人気あるんですよ。雑誌は大抵が出し終わったとこしか載ってないから、その過程が想像できなくなってるんでしょうね。ここにスーパーウェポンがあるのに、そこを雑誌が表現していないと思う。
――反省します(笑)
みうら チンポはそれこそ本でいう帯みたいな感じで、全ページにかかってて欲しいなぁ。「こいつでけぇ」とか、昔よく言ったもんですよ。洋モノのエロ本とかをさ小学校に持ってくる奴が必ず一人はいたもんですよ。「でけぇ」とか「太い」とかチンポの話題してたじゃないですか。
――しましたね。
みうら そもそも今はチンポのでかさを他人と比べないでしょ?風呂も一緒に入らないし。「やっぱり王貞治はでかかった」とかさ、そういう伝説がないよね。そこかな。それをエロ本がやらないと。
――エロなんてチンポありきですからね。
みうら そこの序章を忘れちゃってんだよ。主人公がチンポだってことをもっかい思い出さないと。つまるところが「SEX AND THE CITY」でしょ。大分変わっちゃったよね。
――マリオがいてのピーチ姫って構図じゃなくなっちゃった。
みうら そうですね。むかしハリー・リームスとかさ、外国からわざわざ巨根の人を呼んでなんてこともあったわけですよ。こうなると巨根がメインですから。死ぬまでこの名前は忘れないよ、ハリー・リームス(笑)