女装ニューハーフプロバガンダ

000

josou.jpg



2011.1.29

女装ニューハーフプロバガンダ

取材・文/辻陽介 写真/坂上隆行


トランスヴェスタイトという言葉がある。これは異性装、すなわち自身の生物学的な性の役割とは異なるを服装をまとう者を指す言葉であり、その嗜好はトランスヴェスティズムと呼ばれ、古今東西にその嗜好の存在が確認されている。


かつて澁澤龍彦が、古代ギリシャの婚姻の儀礼における衣裳交換や、一部のアボリジニーが成人の儀式においておこなう身体改造(男性に擬似的な女性器を穿つ)などを引き合いに、人間にはアンドロギュヌス、つまり両性具有への尽きない憧憬があると論じていた。その信憑性の程はともかくとしても、たとえば秋田昌美が『倒錯のアナグラム』において指摘していたように、女装趣味の9割はヘテロセクシュアルであると言われ、異性装をするものが必ずや同性愛者かバイセクシュアルであるという考えは、どうやら外部の人間による一方的な偏見のようである。


今回、我々が取材した『女装ニューハーフプロバガンダ』は、このトランスヴェスタイト、とりわけ女装趣味をもつ人々が集うイベントである。第1回の開催は約3年前、当時は今よりもキャパの小さい会場で行われていたが、来場者数が開催ごとに増え続け、2年前より現在の会場、新宿歌舞伎町は風林会館5Fにて開催されている。


「当時は女装業界って集まるとこがなかったんです。ちょっとした飲み屋さんであるとか…、それだけだったんですね。だから、まずは同じ志しをもった友達が欲しいという動機から、女装さんたちのオフ会みたいなのをしたいと思い、昼間は喫茶店をやっているスペースを夜だけ貸し切ってイベントしたんです。すると、自分のホームページで宣伝しただけにも関わらず、50人は入るスペースだったんですが、予想以上に集まって100人来ちゃったんですね。そのときは50人帰したんです。そこでこれをクラブイベント化しよう、と。最初は小さめのイベントスペースでした。徐々に大きくなって2年前に風林会館になったんです」


そう語るのは主催者のmoca氏。飄々としていて、どこかツンとした雰囲気の人である。彼女も生物学上はれっきとした男性。イベントオーガナイズからDJまでをもこなし、異装世界のニューウェーブを牽引している。


「インターネットで呼びかけただけで100人集まってきたわけですから…、もともと皆集まりたかったんです。ただ…、場所がなかった」


我々がお邪魔させて頂いたのは、1月29日に開催された新年最初のプロバガンダであった。元キャバレーという会場は、華やかなりし時代を偲ばせる絢爛豪華な装飾に彩られており、今と昔を交錯させるようなノスタルジックな雰囲気に満ちていた。また、BGMもハイセンスだ。90年代歌謡からアニソンまでと、クラブイベントとしてはやや変則的な選曲だが、それが逆に日本人の土着な快感原則を心地良く刺激してくれる。


ところで、一般の方に女装パーティーなどと言うと、あるいは自分には縁がないと敬遠してしまうむきもあるだろうが、敷居は決して高くない。そもそも明確なドレスコードはなく、会場には女装客、ニューハーフ客のみならず、一般の男性客や女性客も数多く散見され、その猥雑さがなんとも心地良い。



DSC_8788.jpg
主催者のモカさん




「結構きやすいイベントだと思うんですけどね。色んな人がいるんで。女装歴の長い人も短い人もいますから。もちろん普通の服装の男性、女性もいらっしゃいますし。交流できるから、色んな人の話を聞けるからいいんじゃないかな」


その言葉通り、女装客のセクシュアリティもノンケからゲイ、あるいはバイと多種多様。moca氏によれば、普段は男性の格好をしている人が多く、フルタイム女装の方は一握りだとか。


そもそも来場者はみな「そんな境界付けには全く興味がない」とでも言いたげに、めいめいが自由気侭に一夜の宴を謳歌している。私自身、当初の肩肘張った取材意識など、気付けば忘却していた。この空間にいてはトランスヴェスティズムやトランスジェンダーなんて言葉自体が、どこか堅苦しく、無粋にさえ思えてくる。


「ジェンダー? なにそれ、おいしいの?」


会場からはそんな無言の声が聞こえてくるようだ。




_DSC4604.jpg

DSC04738.jpg



次を読む>>




400.png