「ぴんから対談・後編」 都築響一 × リリー・フランキー 2

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―プロになって自分の作品を認めさせてお金持ちになろうとか、そういう野望が一切ない(都築)

―純粋芸術のさらに向こう側にある考え方ですよ(リリー)



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リリー でもいつもニャン2なんかを見てて「あぁ今月もぴんからは変わらず絵を送ってる」みたいなことを考えると、安心と同時に自分を見つめ直しますよね。

都築 生きる勇気が沸くとかではなくて(笑)

リリー なんか、自戒の念というか。ぴんから体操にしてもカツ丼小僧にしても、この人達は仕事でもないのに書き続けている。一方の俺は何をしてるんだろう、と。

都築 僕らは作ったものを金に変える商売じゃないですか。だから、こういう書き捨て精神っていうのが一番理解しがたいんだよね。一番遠いところにいるから。

リリー 純粋芸術のさらに向こう側にある考え方ですよ。

都築 しかも、彼らはそれを芸術だと思ってないわけでしょ、それどころか注目すらされたくない。

リリー (笑)。でもぴんからと話してて、自分の絵が評価されることに対しては嫌だとは思ってないっていうのを感じましたよ。それは他の絵師でもそうだと思います。

都築 仕事頼まれた時も結構喜んでやっていたんですか?

リリー いや、淡々と。

都築 それがアウトサイダーの特徴ですよ。だって、それってぴんからにとってはプロデビューなわけでしょ?

リリー いくらか支払いはしたはずです。

都築 でしょ。本来ならそれってすごくでかいことなわけですよ。それを淡々と受け流しちゃう。もう昔だけど『アサヒカメラ』の投稿部門に、長年ずーっと写真を送り続けていたにも関わらず、ずーっと落とされ続けてきた北村さんってじいさんがいたんですよ。その人はひたすらヌード写真ばっかり撮ってて、余りにも面白いから自費出版でうちから写真集を出したんですけど、その人もぴんからに近いところがあって。

リリー 興味ありますね、北村さん(笑)

都築 北村さんはもう亡くなってしまったんだけど、物凄いお金持ちで、ずっとヌード写真を撮って遊んでた人だったんです。実際すごい変わった写真を撮るんですよ。余りにも面白いんで、『SWITCH』って雑誌がファッション特集をしたいって言って、僕にラブホテルとかちょっと変わったシチュエーションでグラビアを撮ってくれませんか、という仕事を依頼してきた時に、編集部の人に「すごいカメラマンを発見したから」って言って、70歳でアマチュアですけど僕が責任を持ってプロデュースするからという約束で、北村さんに撮ってもらうことにしたんです。で、いきなりプロデビューじゃん。しかもおしゃれな雑誌で、ページ数も多い。だから北村さんに「こういう仕事があるんですけど、どうですか?」と言った時にはさぞ喜ぶかと思ってたんですが「あ、いいですよ」みたいな。超淡々としてるの。もうちょっと喜んでくれません? みたいな(笑)

リリー ぴんからもそんな感じでしたよ(笑)

都築 で、スタイリストからモデルから全てこっちで手配して、皆で大阪に会いに行ったわけですが、やってきた北村さんは、カメラなんて持ってなくて、コンビニ袋だけ手にぶらさげてるわけ。何が入ってるのかと思えば「写ルンです」が3個入ってるの。「これ北村さんのプロデビューですけど、これで撮るんですか?」みたいな。でもまぁ仕方がないからラブホテルに行って撮影を開始したんだけど、ワンカット1枚なわけ。でも1枚のサイズも大きいし、大事なカットだから、露出もちょっと変えて、とか言いたいんだけど「写ルンです」だから変えられないし。本人は「はい、次いきましょう」みたいに飽くまでも淡々としててね。モデルさんの着替えすら間に合わないくらいのペースで撮ってくわけ(笑)

リリー めちゃくちゃ巨匠じゃないですか(笑)

都築 10コーディネートくらいあったから2日くらいかかると思ってたのに2時間くらいで終っちゃった。それで、そのまんま「写ルンです」ごと貰って東京に帰ってきたという。

リリー その人にしても投稿者にしても、共通しているのはそこなんでしょうね。アウトサイダーとしての歴史が充分にあるから臆することがない。

都築 そもそもプロになって自分の作品を認めさせてお金持ちになろうとか、そういう野望が一切ないわけですよね。自分の世界で満足しちゃってるわけですから。

リリー ぴんからにジャケットのイラストをお願いした時も、やっぱり早いんですよね。たしか4日間くらいで作品が上がってきたと思う。しかも2パターン(笑)

都築 すごいね(笑)

リリー 仕事が早いのも特徴ですよね。うっとりしました。

都築 あと北村さんで面白いなと思ったのは、彼は大阪で育っているんですが、高校生の頃に画家になろうと思ったらしいんですよ。で、東京芸大に行こう、と。まぁ金にものを言わせていい家庭教師をつけたらしいんですけど、「誰?」って聞いたら小出楢重先生だって言うの。

リリー えぇ(笑)

都築 それで油絵科に一発合格し、でまぁ大学で絵を描いてたんだけど、「君は小金があるだけに切迫感がない」とか言われたらしく、がっくりして絵を辞めちゃうんですね。で、今度は写真を始めたら面白かった、と(笑)。そこからは写真を撮り続け、70年代にはサロンを金で借りて展覧会なんかもやってるんですよ。細江英公さんとかプロの人にも来てもらったらしいんだけど、その時に細江さんに言われたのが「君はすごいたくさん撮る、それはいいんだけど、その沢山の中から1枚の傑作を選ぶ、一点傑作主義っていうのを考えてやるといいよ」ということだったらしいんですね。ただ北村さんはそれを言われた時にカチンときちゃった。

リリー なんか分かる気がしますね。

都築 一つの傑作を作るとかそういう発想というのは所詮プロの考え方だ、と。いい作品を作ることで評価を得て、ギャラをもらって、世間に認められて云々…。ただ北村さんにしたら、金はすでにあるから認められる必要ない、評価される必要なんかない、と。だから細江さんに一点傑作主義の話をされた瞬間以来、これから半生をかけて駄作の海に沈没しよう、駄作羅列主義に生きようと決めたって言うんです。そういう写真信条があるんだ、と言う。すごいなぁと思いますよね。そういうアマチュアに、僕たちプロは一生敵わないなと思うんです。

リリー ぴんからにしても「傑作を作ろう」なんてセコい発想は全く持ってないですよね。ただ、今日も描くっていう、崇高なスタイル。

都築 強固な自分の世界が既にあるんでしょうね。「ついてこれるんだったらくれば」みたいな。誉めれば喜ぶんだろうけど、とはいえ大して喜ばないと思うんだよね。それがいいものだってことは自分が一番分かってるわけだから。

リリー ところで原画展とかはやらないんですか?

都築 やりたいなって思ってますよ。あえて「いいところ」でやりたいですよね、お洒落な画廊とか。ただ、そうすると絶対みんな欲しがるわけですよ。買いたいってなった時にどう対応しようか、と。

リリー 買いたいってなった時に、そのお金はどこにいくんです?

都築 もちろんぴんから本人でしょう。ただ、その意思が本人にないと。

リリー ぼくが展覧会をやった時も塾長が半ば所有しているのを借りていたんですが、どこか塾長がそれを所有していることにも違和感があったんですよね。

都築 でも、だからこそ保存されたわけでしょう。このニャン2に送られてきたものに関しても担当者が自宅で保存していたからこそ、散逸を免れたわけですよね。

リリー そうなんですよ。その人がいたおかげなんです。もちろん、その人達の熱意にも報いるべきだけど、ぴんから自身にもちゃんとお金がいってほしいですね。できれば、財団を作って(作品を)保管したい。

都築 それは当然です。ダーガーと大家みたいなもんで、それを作った人間と、それを見つけるセンスをもった人間が揃った時に、初めて世に出るわけですから。

リリー でも、もしぴんからで個展をやるとしたら、当時『投稿写真』の方に送られていた膨大な量の点描画もあるはずなんですよ。当時「塾長」って呼ばれてた人が今も所有してくれてればいいんですが。

都築 塾長っていうのはどういう人なんです?

リリー 『投稿写真』のイラストコーナーでイラスト批評をやっていたライターの方だと思います。サン出版の方に聞けばすぐ分かるんじゃないですかね。その当時のものを塾長が保存していてくれれば、モー娘。期にいくまでの変遷がもうちょっと密に分かる気がしますよ。

都築 両方のコレクションを合わせて都現美とかで展覧会やりたいですよね。

リリー メトロポリタン美術館でもいいですね(笑)



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都築響一

1956年、東京生まれ。現代美術、建築、写真、デザインなどの分野で執筆活動、書籍編集。93年、東京人のリアルな暮らしを捉えた『TOKYO STYLE』刊行。96年、日本各地の奇妙な新興名所を訪ね歩く『珍日本紀行』の総集編『ROADSIDE JAPAN』により第23回木村伊兵衛賞を受賞。 97年〜01年『ストリート・デザイン・ファイル』(全20巻)。インテリア取材集大成『賃貸宇宙』。04年『珍世界紀行ヨーロッパ編』、06年『夜露死苦現代詩』、『バブルの肖像』、07年『巡礼』、08年『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』、10年『天国は水割りの味がする~東京スナック魅酒乱~』など著書多数。現在も日本および世界のロードサイドを巡る取材を続行中。



リリー・フランキー

イラストレーター、1963年、福岡県生まれ。
武蔵野美術大学卒業。イラストやデザインのほか、文筆、写真、作詞・作曲、俳優など、多種多彩な分野で活動する。著書に、「誰も知らない名言集」、「美女と野球」、日本映画についてのコラムをまとめた「日本のみなさんさようなら」、 「エコラム」などがある。また、初の長編小説「東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜」は、2006年本屋大賞を受賞、220万部を超える ベストセラーとなったほか、オリジナル絵本「おでんくん」はアニメ化され、オリジナルグッズなども性別世代を超えて 幅広い人気を集めている。(公式サイト『ロックンロールニュース』より)





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現在、恵比寿NADiff/a/p/a/r/tにて書籍版『妄想芸術劇場001』を特別先行販売しております。また現在NADiffでは、都築響一氏の写真展『暗夜小路 上野~浅草アンダーグラウンド・クルーズ』(2012年1月9日まで)も開催されております。

(NADiff Gallery 都築響一「暗夜小路」)




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