鳥山仁 ?コイトゥス再考? セックスヘイターを考える

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コイトゥス再考 #23

鳥山仁 (作家・編集者)

セックスヘイターを考える

文/辻陽介 写真/福田伸哉


セックスヘイター、字義通り「性を嫌悪する者」を意味するこの言葉は、作家・鳥山仁が児童ポルノ規制反対運動の文脈において、主に規制推進派の急進的な一部の人間を指す言葉として提唱した造語である。

性を嫌悪するというと、いかにも潔癖で、没欲望的な存在かのように考えてしまいそうだが、なにか特定の対象を愛好することが欲望であるのなら、特定の対象を憎悪することもまた一つの欲望である。バーナード・ショーが童貞に最大の倒錯を見出したように、セックスヘイトもまた多種多様な欲望の並列的な一項として思考されるべきだろう。

セックスヘイターはなぜ性を嫌悪し排除するのか。彼らはいかにしてセックスヘイターとなり、また我々は彼らセックスヘイターといかに対峙すべきなのか。

コイトゥス再考#23、語の提唱者とともに「セックスヘイター」を考える。




(2012年1月/東京某所)



―鳥山さんはSM業界に身を置かれ、編集者、作家、あるいは映像作家として、様々な活動をなさっていらっしゃいますが、本日は鳥山さんが兼ねてより提唱されている「セックスへイター」という概念について、お伺いしたいと思っております。早速ですが、まず鳥山さんの方から「セックスへイター」という言葉について、少しご説明して頂いてもよろしいでしょうか?

鳥山 はい。そもそも精神病理の一つとして性嫌悪症というものがあるということは昔から知識としてはあり、また私が児童ポルノ規制反対運動に関わっていた時も、規制推進派の主力の人達にはその傾向がある人が多いというのは私の頭の中では分かっていたことなんです。ただ、彼らを性嫌悪症と呼ぶことには語弊があって、というのも現在の精神医療の現場においても本人が苦痛を訴えない以上はそういう診断ができないということになっているんです。そこで、性嫌悪症という呼称を避ける形で「セックスが嫌いな人」を呼ぶ場合に「セックスへイター」という言葉を使ったのが始まりです。

―すると「セックスへイター」という言葉は、苦痛の有無を除けば性嫌悪症とほぼ同義であると認識してもよいのでしょうか?

鳥山 多少は被りますが、ただ、やはりそれを性嫌悪症という一つの障害名で呼ぶためには、精神医療が定める全ての条件を満たしていないといけません。「セックスへイター」という場合は漠然と性を嫌悪している人を指していると思って頂ければ間違いはないです。

―なるほど。では具体的に、「セックスへイター」の性嫌悪はどのような形で現れてくるのでしょう?

鳥山 一つの集合として「セックスへイター」と呼んではいますが、そもそも性を嫌悪している理由がそれぞれ異なりますので、一概に言うのは難しいですね。ただ、例えばツイッター等で暴れている性嫌悪の男性というのは、性嫌悪の根底に「処女で黒髪の女性以外は許せない」といった非常に極端な思考がある。つまり、こと男性に限って言うと、「セックスへイター」は割とオタク層に多いんですね。

―偏ったジェンダーイメージがセックスヘイトの原因になっているんですね。

鳥山 そうです。だから、児童ポルノ問題について言うなら、規制に賛成している人達と反対している人達は、実は意外に近いポジションにいるんです。

―オタク層の中に左派と右派がいる、といったところでしょうか?

鳥山 オタク的表現を用いるなら「肌色面積」に対する考え方の違いですね。「肌色面積」が多いのを良しとするか、あるいはNGとするかで二分しているんです。ただし、これは男性の場合です。女性のセックスへイターの場合はまた違う。やはり一番多いのは実際の性行為における失敗体験であったり、レイプやそれに準ずる強引なセックスの体験からセックスヘイトを抱くケースが、私が見た範囲においては多いと思います。もちろん一方で全く性的経験を経ずに性を嫌悪している方もいるので、セックスへイターと言った時に、単純にこういうステレオタイプの人達がいますよと言うことはできないですね。

例えば、規制推進派の一人に帯広畜産大学で教鞭を取ってらっしゃる杉田聡さんという方がいて、彼は自著にも書かれていましたが「性器嫌悪」を抱いているんですね。「暗い中じゃないとそういう行為ができない」といったことを書かれている。あるいは「人間が服を着るのは汚い性器を隠すためだ」というようなことも書いているんです。もちろん性に対する感じ方は自由ですから、こちらとしては「へぇ、そうなんだぁ」としか思いませんが、そういう人達と「性行為自体が嫌いだ」という人達の間には、やはりズレがあるわけです。規制という一点に関しては見解が一致しているんですけど、このように内実は異なるんです。

―なるほど。ところで鳥山さんの見立てにおいて、現在、大きな集合としての「セックスへイター」に該当するであろう人というのは、どれくらいの規模で存在しているのでしょう?

鳥山 これは難しいですが、コアになっている人達というのは大体人口の1%ぐらいかなと思います。単純計算で100万人ですね。しかし、もともとそういう情報に触れることすら嫌いという人は規制推進活動さえ忌避しますので、潜在的にはあるいはもっといるかもしれません。直接的に声をあげているのは、さっきお話した「黒髪の処女以外の女は認めない」といったような極めて狭く偏った性の見方しかできない人達に多いような気がしますね。

―例えば現在はオタク人口の増加であったり、あるいは非モテ層の存在などがクローズアップされていますが、そういった情報に触れていると、極端なセックスへイターはそれほどいないにせよ、緩やかなセックスヘイトは割と共有されているようにも思えますが、いかがでしょう?

鳥山 それは昔からだと思います。私はずっとコミケに参加していたので、オタク層の中に性を嫌悪している男性が多数いるということはかなり昔から知っていたんです。児童ポルノ問題などでマンガ表現に弾圧が加わろうとしている時に、なぜオタクが一致団結して反対することができないのか、その理由はそこにあるんですね。

―オタク層内部のセックスヘイターというのが具体的なイメージを掴みづらいんですが、例えば2次元における性表現は構わないけど3次元はNGといったスタンスなんでしょうか?

鳥山 いえ、そういうオタクであれば割と推進派、反対派いずれにも転じるタイプなんです。一方的に規制をしたがるオタクについては持ってる本で判断できます。彼らが大体にして好きなのは長袖のロングスカートの女の子の絵。そういう絵が描かれている本が本棚に多くあったりすると、性嫌悪である確率が高いですね。

―禁欲主義的な表現を好む傾向がある、と。

鳥山 そうですね。もちろん傾向ですが。昔の漫画でいうと竹本泉のマンガを好きな人間はあやしいみたいなのがありました(笑)。ただ今はマンガの種類もアニメの種類も物凄い数になってしまったんで、その判断が難しくなりましたね。

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