対談 神田つばき × 北原みのり 「女版・快楽主義のすすめ」

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対談 神田つばき × 北原みのり

女版・快楽主義のすすめ

構成/編集部


濃密なセックスが自分を変えると予感し、専業主婦から一転、38歳という年齢でSM界へ。M熟女優、またAVライターとして、独自のSM観に基づく表現行為を行う一方、『東京女子エロ画祭』『どすけべ』など、女性のエロスにフォーカスを当てた様々なイベントをオーガナイズする活動家・神田つばき。

女性向けアダルトグッズショップ「ラブ・ピース・クラブ」を単身設立、女性主体による快楽追求の啓蒙家として日々店頭に立ち、悩める女性たちの声に直に耳を傾ける傍ら、言論界においては時として鋭利に過ぎる、だが時として慈愛に充ちた言説を紡ぎ続ける、独立独歩のフェミニスト・北原みのり。

SMとフェミという、ともすれば水と油とも捉えられかねない、対照的な背景を持つ両女史の邂逅。アプローチこそ異なれど、常に「女の快楽」を自覚的に追求し続けて来た二人が、「女の快楽」の今を語る。



(2012年6月・ラブピースクラブ店内にて)



北原 神田さんってエロの仕事始めて何年くらいになるんですか?

神田 正確に言うと…、39の時に始めたんで、今年で14年目ですね。

北原 あ、じゃあ私と同じくらい。私はこのバイブ屋を始めて15年なんです。でも39歳からエロの世界に入るって人は、なかなかいないですよね。周りの反応とか凄かったんじゃないですか?

神田 そうですねぇ(笑)

北原 なんでエロ仕事を始めようと思ったんですか?

神田 今にして思えばなんですけど…、私って子供の頃から自分を不幸だと感じてきていて、同時に、その不幸の原因っていうのが全て「男」と「性」に関わっているんだっていうことを、物心つかないような幼い頃から分かっちゃってたんですよね。

北原 物心つかないうちに分かるっておかしい(笑)

神田 おかしいですよね、本当に。凄く過敏だったんだと思う。うちは母子家庭だったんですが、うちがこんな風に貧しくて、なんとなく侘しいことになっているのは男がいないからなんだって、子供心にそんな風に思ってたんです。すごいくだらないところでは、例えば、昔の戦争マンガってよく子供が出てきたんですね。そういうのを読んでいて、戦時中の社会では男がいない家庭っていうのは物凄い肩身が狭かったらしいことを知り…、だから、もし今戦争が起こったら私もお母さんも町中から白い目で見られるんだとか、棒で叩かれるかもしれないとか思って、怯えてたりして…。

北原 戦争……?(笑)

神田 まぁ幼かったんでしょうね。なんでも「男」と「性」に結び付けちゃってた。お母さんは一生懸命に働いて、私に苦労させないように頑張ってくれていたのに、私はそれにも関わらず、どんな無能でもいいからお父さんが欲しいって思ってたんです。ある種の男根主義ですね。ただ頭の中ではそう思っていても、体はただの女だから、やっぱ男の人って怖いし、大きくなって実際にセックスをやってみてもなんか違う…、私がずっと求めてきた「男」や「性」が、こんな侘しいもののはずないだろうって。

北原 オナニーはしてたんですか?

神田 してましたけど…、なんかね、実際の男のイメージが稀薄だから、幻想がなーんもないの。自分と顔のない男達がいて、その人達に一方的にいじくられるだけ、みたいな。北原さんの本の中に飯島愛さんの黒と灰色のバイブの話があったでしょ? あんな感じ。カラーのない風景。

北原 気持ちは良かったんですか?

神田 うん。体はすっごくお腹が空いてるから、もう吸い込むように、もう手がのめり込んじゃうじゃないかってくらいオナニーしてて、このままじゃ手が性器に癒着しちゃうんじゃないかって思ってた(笑)。オナニーのし過ぎで一気に勉強が出来なくなりましたから。

北原 オナニーのし過ぎで?(笑) でも、そこまで「男」を求めてたんだったら、初めてのセックスに対する期待とか物凄かったんじゃないですか?

神田 最初のセックスは20歳くらいの時だったんだけど…まぁ一気に20年分の男枯渇状況を埋めなきゃいけないから、なんでも知ってるような立派な男とやらなきゃいけないって思いがあって。相手をめちゃくちゃ選びましたね。顔が良くて、大人で、学歴もあって、できればフランス文学やってて(笑)…、ビックリしちゃいますよね。

北原 うん、すっごいビックリしてますよ。今日はあらかじめその覚悟でいたけど(笑)…、まぁ、つまりそれまでの自分のコンプレックスを全て補ってくれそうな男を探してたんですね。

神田 うん。きっとそういう人が相手だったら、文学や映画に出てくるような素敵なセックスをしてくれるんだろうなって思ってた。で、探し続けていたら実際に条件にあう人がいたんです。でも、結果としてその人に付れていかれたのが歌舞伎町の「古都」とかいうラブホテルで…、部屋の中に川が流れてて、そこに紅い欄干が掛かってるんだけど、渡らないとベッドにいけない、みたいな所で…。

北原 すごいですね、それ(笑)

神田 そうなの(笑)。川底が鏡になっててとか、凄くムダなところにお金がかかってるんですけど、まったく気持ち良くはならない感じ。そこでいきなりキスされて、おっぱい揉まれて、クリトリス触られたと思ったら、すぐ挿れられてっていう。切ないセックスでしたね(笑)

北原 その人とは一回きりだったんですか?

神田 私ってすごく物分かりが悪いから、今度こそ今度こそって思ってるうちに、1年半くらい付き合ってましたね(笑)。ただ、それで良くなるかって言ったらそうもならず…で、タイプを変えてみよう、と。もうちょっとワイルドな人って思って相撲取りと付き合ったり、あるいはもっと若い人って思って歳の近い人と付き合ったり…、並行して付き合っちゃったりもしてたんですけど、どうも違うんですよね。

北原 ワイルドさを求めて相撲取りってよく分からないですけど(笑)

神田 なんかシコとか踏んでるからいいかなぁって(笑)。でもセックスはいたって普通でしたね。

北原 ふーん、じゃあセックスの楽しさに気付くまで結構時間がかかったんですね。

神田 かかりましたねぇ…。

北原 結婚されたのは何故?

神田 私は本当に物分かりが悪くて、こんなに何人とも付き合ってダメなら、結婚して長期的にセックスすればきっと良くなるはずだって思って。エクスタシーとかはきっとその後に付いてくるものなんだろうって。それで、まず結婚しなきゃって思ったの。

北原 物分かりが悪いっていうか思い込みが激しいですよね(笑)

神田 そうかもしれない(笑)。バカみたいですよ、本当に。

北原 バカですね。

神田 ほんとに(笑)。なんで友達とかに色々相談しなかったんだろうとか思いますけどね。

北原 でも、その頃って女の人同士でセックスの話をするような時代でもないですもんね。

神田 全然。本当は妊娠してても妊娠してない体で結婚しないと親戚が号泣するような時代。友達同士でも「まだ処女だよ」とか嘘つきあってた時代ですから。

北原 結婚する前にセックスすること自体にいけなさを感じていたような時代ですね。結婚生活ってどれくらい続いたんですか?

神田 14年間(笑)。24から38まで。この業界に入る前日くらいまで結婚してましたよ。

北原 入るのを決めて離婚?

神田 夫に「好きなことしていいから籍は抜かないで」って言われて、それで出会い系とかで少し遊んでた期間があったんです。多分その頃にラブピースクラブさんができたんだと思う。なんか世の中が変わってきたみたいだぞっていうのも肌で感じていて、でもこの家にいる限りだめなんじゃないかとも思ってて。そんな時に子宮頸癌になっちゃったんです。で、その時に夫に「この病気から生きて戻れたら今度こそ離婚したい」って伝えたの。「そんなに結婚生活がいやだったの」って言われたから「だってセックスもっとしたいんだもん、全然良くないんだもん」って初めて言えて…、で、退院して離婚して、AVに出ちゃったんです(笑)

北原 それからは旦那さんとは全然?

神田 ううん、しょっちゅう会ってる。夫の奥さんとかとも話したりしてて。

北原 セックスの話も?

神田 そこまではしてないんだけど、どうやら奥さんも気が付いちゃったらしいんですよ、なんかこの人は好きな仕事してるみたいだぞって。で、つい最近なんですが、子供を通じて是非今度会って話したいってきていて…。

北原 それ、絶対セックスの話ですよね。

神田 ですよね。

北原 おもしろいなぁ(笑)



SM神話解体




神田 私、北原さんって全然違う人を想像していたんです。なんかイメージだと生ビールとか焼酎の瓶とかを片手に持ってて、テーブルにガンとか置いて、「男なんかぶっ飛ばせ!」みたいに叫んでる人かと思ってたの。

北原 無頼な感じね。

神田 そうそう。

北原 その通りだよ。

神田 ほんと?(笑) 前にラブピースクラブに来た時は三代目葵マリーさんと一緒だったんですけど、葵さんって実は普段は普通の乙女な人なんですよ。その葵さんがラブピースクラブの門前にきたら急に肩をイカらせちゃって、普段は「神田さん」って呼ぶのに、「ねぇ、北原さん、これ、神田つばき」みたいな感じになっちゃって。「え?、どうしちゃったの?」とか思って凄い身構えちゃったんですけど、実際に北原さんと会ったらすごくお嬢さんっぽい人だったからビックリしちゃって、逆にあの時はどう接していいのか分からなくなっちゃった。

北原 そうだったんですか。JINROとか置いとけばよかったかな。

神田 それだったらツッコミどころとかあったんですけど、なんか素敵な人が出て来ちゃったから、すっごく困っちゃって…、「早く帰ろう」って帰っちゃったんです。

北原 いや、そんなこと言ってるけど、あの時、神田さん結構長くいましたよ。

神田 そう? 20分くらいで帰ったけど。

北原 そんなことないから(笑)

神田 でも、その後に北原さんの本を読んで、今度はすっかりストーカーになっちゃって。ネット上で北原さんの名前が間違ってたりすると、そこの会社に電話して、「名前、間違ってますよ」とかクレームしたりしてて(笑)

北原 私が気がついていないストーカーもいるんですね。

神田 いるいる。こわいでしょ。ていうのも、北原さんが世の中に発信したいと思ってらっしゃるものがやっと分かった気がするんです。で、それは私がやりたいとしてきたことと全然離れてないんじゃないかって思って。今までの乖離はなんだったんだろうと思って。

北原 乖離…、してたのかな?

神田 なんかね、それまでのイメージでは、もし北原さんに会って私の仕事とか伝えたら「男の金玉なんて舐めちゃだめ!」って怒られるのかなって思ってた(笑)

北原 怒んないから(笑)。フェミニズムって、しちゃいけないことや、しなくてはいけないことが多いと思っている人いるけど違うと思う。私にとっては、「何をやっていても女は咎められない」っていう思想なんです。どんな仕事をしてようが、どんな格好をしてようが、誰のチンコを舐めようが、オシッコを飲もうが、「だからあなたはこうなんだ」と分析されたくない。「女っていうのはこういうもんだ」とか、「お前は傷付いているからこうなってしまうんだ」とか、そういう押し付けをお断りする思想だと思ってる。私が今やってるセックスグッズを売るっていう仕事も、私にとっては当たり前の仕事の一つで、まさか要説明だとは思わなかった。でも実際は、「女がなぜそんなことをするのか?」と、すごく説明を求められたのよね。きっと神田さんも色々なとこで説明を求められたと思うんですよ。

神田 求められましたねぇ。

北原 なんで元主婦がこの仕事を、みたいなね。ただそれは自分がそれをやりたいからやっているだけであって、周りの人が思っているほど、そこにはギャップがないんですよね。

神田 ないですぅ。

北原 もちろん今の神田さんの仕事は、神田さんがさっき仰ってた物心つく前からの違和感とつながってはいますよね。だからこそ気になるのは、神田さんが子供の頃、灰色の世界にいたのは何故なんでしょうね。あるいは男達からヤラれてるってイメージを持たれて、そこに強烈な快感を覚えたという、その欲望ってなんなんだろうって思う。

神田 多分、これを言っちゃうと身も蓋もなくて、SMファンの人達の夢を壊しちゃうかもしれないけど…、私がドMになったのって、要するに、男の人に普通に甘える甘え方を知らなかったから。ただそれだけなんだよね。

北原 本当ですか? SMについてよく言われているような、精神的な快感みたいな、崇高な感覚みたいな、そういうのってないんですか?

神田 ないない。

北原 言った(笑)

神田 ただなんだろう…、本当に分からなかったんですよ。つい一年くらい前に、普通の女の子って家でお父さんに甘えてたんだってことが分かって、「なぁんだ、そんなことか」って。

北原 それを分かった時にSMに対する興味がうせるってことはなかったんですか?

神田 それはね、なんだろう…、具体的な男性とのセックスの中では、やっぱり今もSMをやってるんですよね。ただ、そこに思想的なものとか、そういう言い訳がいらなくなっちゃった…、あ、言い訳って言っちゃったよぉ、みんなに悪いよぉ(笑)

北原 (笑)

神田 言い訳の中で生きてる人達もいっぱいいるので、こう言ってしまうのは本当に悪いんだけど、ただ私はそれがいらなくなっちゃった。だから今、私はもはや神田つばきさんじゃなくなっちゃったのかもしれない。本名の武田すま子さんになっちゃってる感じがする。

北原 すま子? 松井須磨子からもらったんですか?

神田 おばあちゃんからもらった名前なんです。うちは奔放な家柄っていうか、性的なことが好きな家柄で…、おじちゃんはストリーキングで捕まっちゃったことあるし(笑)。まぁ、SMは今は普通に楽しむものになっちゃっていて、あんな人生かけて、男の前で乳首切ったり、それを食べろって言ったりしていたことって、もう自分の中で消化しちゃったんです。

北原 とことんまでいっちゃったってことですよね。

神田 そう。否定や後悔ではなく、全部が終って、今は普通になっちゃったって感じ。

北原 なるほどね。神田さんは作品で物凄く自分を曝け出されてるじゃないですか。ひとつひとつの作品が終った時ってどういう気持ちなんですか?

神田 本当のことを言うと、撮り終わった時に、「あぁ畜生、もっとやっておけばよかった」とか思ってた。男優の方は帰ろうとしているのに、うしろからがっと服を掴んで「ねぇ次はぶっ殺すくらいでやらない?」とか言ったりしてて。いくらやってもやり足りない感じでしたね。

北原 それが治まることはあるんですか?

神田 なんでしょうね。治まらないと思いつつ、徐々に一回一回の普通のセックスの中で自分をコントロールできるようになっちゃったんでしょうね。あと…、相手が見えるようになっちゃった。多分、激しいのを撮ってた頃っていうのは相手のことが見えてなかったんです。自分では従っているつもりだったんですけど、相手の都合や欲望なんか見てなくて、ただ自分のバイブのように、快楽をくれて、うっかりしたら暴力をふるってくれる、そんなバイブのように思ってたんです。ただ、今は人間に見えてきちゃって、そしたら途端に撮れなくなっちゃった。

北原 欠けてしまっている何かを、命掛けで埋めようとしている感じ。凄いです。

神田 死んじゃったとしてもおかしくないことも何十回かあったとは思うけど…。

北原 何十回って(笑)。何回とかじゃないんだ。

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