面影ラッキーホール 『typical affair』

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面影ラッキーホール・ニューアルバム 

『typical affair』の哲学

文/辻陽介


日本現代歌謡が忘れてしまった「もののあはれ」を一身に引き受け、孤高の音楽活動を続ける音楽集団・面影ラッキーホール。本誌連載中の身の下相談企画「けだものだもの」によって、既にVOBOでもお馴染みの彼らが、この度、約2年半ぶりとなる待望のニューアルバム『typical affair』をリリースした。諧謔と哀愁のストーリーテリングはもはやお家芸、ますます老獪に洗練された洒脱なファンクサウンドと相まり、今作もまた、拙く、しどけない、人情のあはれがこれでもかと云わんばかりに凝縮された1枚となっている。デオドラントが加速する音楽界に光芒を放つ爛れた悪意。紛うことなき傑作の誕生だ。


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本欄では新作『typical affair』に収録されている綺羅星のごとき全9曲を、バンドリーダー兼ベーシストのSinner-Yang氏、ボーカルのaCKy氏のお二人と共に1曲ずつ解説。とは言え、そこいらの音楽誌でも読めるようなフツーの話を聞いたんじゃつまらない(てか、むしろそんな技能ない)。よって切り口は完全にVOBO流なわけだが…、気付けば音楽の話などそっちのけ、話はメタへシモへと縦横無尽に駆け巡り、「健康ランド論」から「マス論」へ、本懐である宣伝を忘れて大暴走。typical affair(ありがちなこと)という言葉に込められた面ラホ的フィロソフィーとはいかに。迷宮的現代を生き抜くためのアリアドネの糸は、国道16号沿い、北関東の空にこそ垂れる—




(2011.6/8 @P-VINEレコード社屋)


ーまずはニューアルバム『typical affair』発売おめでとうございます!


Sinner-Yang(以下SaCKy(以下A)  ありがとうございます。


―では早速、本作の内容について話を聞いていきたいんですが…、とはいえ、いつも連載の方の収録でお話してるぶん、なんかあらためてインタビューとなると非常に照れ臭いですね(笑)


A いや、もういつも通りいきましょうよ。


―そう言って頂けると幸いです(笑)。まぁ、それにしても今作もまた「もののあはれ」感がキテますね。知り合いの女子にちょっとメンヘル系の、まぁいわゆる業深い人生を歩んできたような少し病んだ子がいるんですけど、その子に送って頂いたサンプル盤を聞かせたらとんでもないことになりましたよ。


S どうなったの?


―もう色々とフラッシュバックしちゃったみたいで(笑)


SA (爆)


―歌詞と過去が絶妙にリンクするらしく。


S まぁ『typical affair』(意:ありがちなこと)ですからね(笑)


ー面影さんの曲は女子に聞かせるとドン引かれること多いです。


A そうですか?


―例えば『ゴムまり』(今作収録)なんかは結構な反応ですよ。まぁ一口に女子と言っても様々だとは思いますが、「なにこれ最低!」みたいな反応の子もいて。男子の方がこの「もののあはれ」感を感得しやすい気はしますね。


S なるほどね。でもそれは結成以来、大分変わってきたとこですよ。初期はね、女の子でもそれこそさっき言ってたフラッシュバックみたいなものを味わって、そこからハマっていってくれるみたいな形も結構あったんですよ。今の人には苦しくなってきてるのかな(笑)


―どうなんでしょう、個人的にはこの良さを分かれないというのは人生を半分くらい損してる気はしますが(笑)。ところで…、まぁベタな質問で恐縮ですが、今回アルバムを作ってみて、その出き応えとかはどうです?


A 出き応えねぇ…、割と…、まぁコンパクトに…、よくまとまってるんじゃないかな(笑)


―(笑)


A まぁバラエティにも富んでるしね(笑)


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面影ラッキーホール


―やっぱ普通のインタビューって難しいですね(笑)。正直、僕らミュージシャンに音楽のことちゃんと聞くみたいなインタビュー慣れてないんで、昨日からずっと何聞こうか考えてたんですけど、「すげぇ良かった」って幼稚園児みたいな感想しか出てこなくて(笑)


S いいんじゃないんですかね。ちゃんとインタビューされるとまともなミュージシャンの人達に申し訳ないし(笑)


―では…、これもベタなところなんですが、今回も全曲タイアップは狙ってるんですか?


S (笑)。…まぁ、やっぱマクドナルドですよね(笑)。不況でも外食産業はいいって言うし。あとは地方の温泉施設とかレジャーランド系のCMとかのローカルCM狙いだよね。


―なるほど(笑)。一曲目の『ラブホチェックアウト後の朝マック』に関しては、マックと見せかけて、実はJRがいいんじゃないかと思ってたんですが。


A (笑)。SUICA推進のためのね。三都物語的な。


―あと今作はジャケットも素晴らしいですよね。このモザイクの下っていうのは…


S まぁ買って頂ければ見れるようになってますよ(笑)


A 今はVILLAGE VANGUARDとかも「エロとかはあんまり」って感じでしょ。まぁそういう事情もあって、自主規制としてモザイク入れたんですよ。


―このジャケットを是非AKB48の新譜の隣りに置きたいですけどね。


A あ、発売日が一緒なんですよね。


―そうです。僕の中ではお二人は「あえて」その日にかぶせたと思ってたんですが(笑)


S まぁあれですよ。僕らのは通常版1枚しかないんで。それに投票券も入ってないからね。


A あぁ、投票券は入れるべきだったなぁ。


S どうせならアンダーグラウンド総選挙やろうよ。投票券も勝手に村崎百郎さんとか、根本さんの名前いれさせてもらってさ(笑) いいじゃん故人でも。


―面影ラッキーホールもメンバー変動激しいですしね(笑)。さて…、どうしましょう…、こうなったら一曲ずつ聞いていくってのはどうですか?


S 全然いいですよ(笑)。…この後どう運ぼうかって模索してるでしょ?


―めっちゃ模索中です(笑)






1 ラブホチェックアウト後の朝マック




A これ実はタイトルだけは数年前からあったんですよね。


―そうなんですね。普段からタイトルありきで曲を作るんですか?


S まぁそういう時もあるよね。『パチンコ』(※)とかもそうでしたね。

※『パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた…夏』…2007年にシングルとして発売され、その後アルバム『Whydunit?』にも収録された面影ラッキーホールの人気曲。


A 今は曲が先にできていて、そこに歌詞を当てていくという形が多いです。Sinner-Yangは僕にとっての編集者みたいな立場なんで。で、まぁ歌詞を僕が書いて、それを二人で話し合ってくって感じかな。細かい表現というより、大きな物語設定とかの部分だけど。


―基本的にaCKyさんが歌詞、Sinner-Yangさんが曲を書くっていう役割分担なんですね。


A 基本はそうだね。


S ところでさ、この設定って実体験としてあるの?


A 実体験ではないですよ。あ、まぁ普通にラブホチェックアウトした後に朝マック食ったことはあるけど(笑)


―でも物凄くリアルに情景が浮かびますよね。新宿あたりのマックではそれこそ毎朝見掛ける(笑)


A でも最近の地方のラブホとかは朝飯とか付いてきちゃうとこも多いから、朝マックになりづらくはなってるよね。


S 最近は泊まりだとそうですよね。だからこれは割と渋谷な感じするよね。


―(笑)。でも、この曲ってすごくスムースな感じというか、面影さんの曲にしてはめずらしく余りくどさがないというか。


A そうそう。これだけトロンボーンのSASUKEの曲なんですよ。今までにないテイストになったかもしれないですよね。


―それこそマックで流れても違和感がない(笑)


A 歌詞の中でもマックに失礼なことは言ってないですからね。ただイメージダウンには繋がるかもしれないけど(笑)


S 『スーパーサイズ・ミー』なんかよりはマックに好意的なんだけどね。でもだめでしょ、「出入りのコピー用紙屋」なんてフレーズあったら。


A そうだね(笑)。今は「~屋さん」とか差別用語なんだもんね。


―厳しいもんですねぇ。


S 音楽業界と出版業界ではレギュレーションが全然違うから。例えば『代理母』(※)内にある『俺のせいで甲子園に行けなかった』っていう曲の時は、歌詞に工業高校ってあるのが駄目だったんだよね。

※『代理母』…98年発売のアルバム。歌詞に問題があるとされ発売中止になった前作『いろ』に数曲を加えた内容。面影ラッキーホールというアーティストの存在を広く世に知らしめた金字塔的作品。


―実際に工業高校はあるのに(笑)


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(画像は飽くまでもイメージです)




A 実際あるものが歌えないわけですよ。





2 セカンドのラブ





―まぁ…、つまりは二番の歌ですね(笑)


A そうだね(笑)


―でもこういう女っていますよね、二番気質というか…。


A いますよね。


S そういう人はね血中明菜濃度が非常に高いんですよ。


―明菜濃度(笑)。やっぱ二番気質の人は二番である自分をどっかで楽しんでるんですかね?


S まぁそうでしょうね。悲劇のヒロイン的な気分に浸ってるというかね。


A 昔は「愛人」みたいな言葉で歌謡曲の中で歌われてたんだけど、最近はどうやらセカンドって言うらしいじゃんみたいなことで、現代的に作ってみたんだよね。


―最初、タイトルだけ見た時は『俺のせいで甲子園に行けなかった』に続く野球ネタかなと思いましたよ(笑)


A それもいいね(笑)


S 二塁手の歌ね。「殿馬の愛」みたいな(笑)。でもこの曲ってさ、作った側としては彼女とかの前では聴きづらいんだよね。非常に困ったことになる。


―(笑)。むしろ全曲聞かせられないですよ。


S 特にこの曲は飛ばすよ。aCKyはこの曲を一曲目に置きたいって言ったんだけど、一曲目ってやっぱ集中して聴かれがちじゃない.。それはバンド側にもリスナー側にも寝た子を起こす可能性があって、そういうユーザーフレンドリーな配慮から二曲目になったの(笑)





3 ゆびきり





―名曲きました。これは何と言っても…、黒田さん(※)ですよね(笑)

※黒田さん…『指きり』の詩中に登場する人物。曲の主人公となる女性(夫が服役中)に仕事を紹介する。


A 黒田さんは金田さんにすべきなんじゃないかってところでモメたんだよね。


S モメたね、激論だったね(笑)


―(爆)


A でも俺としては金田さんのストーリーってまでは深みを帯びさせたくなかったんですよ。そっちの人なんだってサブストーリーはあえて外して…、まぁ黒田さんにご登場頂いた、という(笑)


S 僕的には金田さんにしとくと、次でまた金田さんの曲を作れると思ったんですよ。


―(笑)。いやぁ、笑いながら泣くという稀有な体験をさせてもらいました。


S まぁこの曲はニューミュージックだよね。ユーミンとかみたいな(笑)


A あと、この詞を書く上での背景を少し話すと、僕はランダーだったんですよ。


―ランダー?


A 健康ランド通ってたの。ほんとね、健康ランドとサウナには全てがありますから、全てが。


―(笑)


A 昭島にスパ昭島っていう、物凄い健康ランドがあったんですよ。パンチパーマのオッサンとかがカラオケ歌っててね。前髪だけ茶髪のお姉ちゃんが傍に居てさ。でも俺にとってはその風景ってすごく日常で。でも、そういうのって知らない人にとっては異様な光景なんですよね。


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スパ昭島


―なるほど。


A  今でも平和島クアハウスとかにはちょっとその雰囲気が残ってるよね。


S 実はこの曲を録ったのが平和島クアハウスの隣りのスタジオだったんだけど、面白そうだからってんで帰りに寄ったんですよ。でも…、もう、ものすごいダウナーなのね(笑)


―(笑)。確かに今でも北関東方面の健康ランドなんかには面影さんの世界がぎっしり詰まってる気がしますね。


S 一通り詰まってるよね。健康ランドと近い話ではさ、俺は常に心掛けてるんだけど、それは「免許の更新を思い出せ」ってことなの。


―というのは?


S 世の中の平均ってどこなんだ? マスに訴えかけるってどういうことなんだ? ってなった時、身の回りの人間を思い返してもダメだし、学校時代を思い出しても地域差が出るし、で、ましてやその後、成長していくとどんどん決まったカテゴリーに入っていくじゃないですか。でも、免許の更新って産まれた月だけなんですよね。


―なるほど。


S  いち都道府県にせいぜい一つか二つしかないから、土地の問題もクリアしてるしね。つまり、免許の更新で一緒になる奴らいるじゃないですか。あいつら全員を納得させるってことが大ヒットするってことなんですよ。

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鮫洲自動車運転免許試験場


―(笑)


A ほんと普段は見ないような人とかいるじゃないですか。


―多様な人種が一同に会するわけですからね。


S 全身シャカシャカのおじさんとかね、それこそパンチの。僕らにとっては異様な光景だとしても、それって実は世間では『typical affair』なんですよ。


―ありがちな光景なんですね(笑)


S 僕らはこうやって割と正しい日本語を使ってコミュニケーションをとってますけど、それ自体が偏向しているとも言えるわけですよ。


A 世界が百人の村だったらってことだよね。


S まず僕ら文字読めますからね。ここの部屋だけで考えても凄い識字率なわけですよ(笑)


―なるほど、そこを忘れちゃいけないってことですね。


S 何がアンドロイドだって話なんですよ。スマートフォン持ってなきゃまずいんじゃないかって思ってるような人は、一度、免許の更新に行くといいですよ。電通や博報堂のフィルターを通さずにモノがみられるから。


A で、もっとロウなところの人種をいっぱい見たければ、健康ランドへ行くのがいい(笑)


―(笑)。ところで…、まったく音楽の話してないけど大丈夫なんですかね、これ。


A 大切なところは音楽の話じゃないんですよ(笑)





4 ゴムまり





―きました、紛れもない傑作、そして問題作(笑)


A まぁ国道16号沿いっていうか、北関東の風景だよね。あ、これのPVが出来たんですよ。


―見させて頂きました。いやぁ、まさに郊外といった頽廃感。


A あれ宇都宮ですから。つまり縮図なんですよね。大概がああなってんすよ、地方って。


S  大概(笑)


A イオンに行くか、レンタルビデオ屋に行くか、あとパチンコぐらいしか楽しみがないんです。これはもう国交省とかがそうしてるんだよね。スモールシティ、コンパクトシティって概念なんだけど、国の政策なんですよね。


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イオン(イメージ写真)



―ファスト風土化とか言われてますよね。これは『ゴムまり』に関してだけではないですが、面影さんの曲を聴いてると、東京の嘘を如実に感じますよね。


S さっきの免許センターの話と一緒ですよね。


―真実は郊外にこそある、というか。


A みんながみんなフェイスブックとかやってないっていう話だよね。


S 『指きり』なんかで描かれる風景なんてのは、東京に住んでる我々から見たら「えっ」と思うところもあるかもしれないけど、郊外ではこんなの当たり前で、つまりそれが平均なんですよね。あとはね、パチンコの歌出した時に「パチンコ必勝ガイド」の方からインタビューを受けて、編集の方に聞いて凄い衝撃を受けた話があったんですけど、なんでも原チャリで子連れでパチンコに行った母親が子どもをメット入れに入れてパチンコやってたって言うんです。で、出てきたら、子どもが死んでて驚いたっていう(笑)。現実はさ、僕らの拙い想像力を遥かに越えてるんだよね。


A いつでも事実が勝ってるんだよ。

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