ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ01
ラバー・フェチ
RUBBER FETISHISM : BIZARRE GLOSSARY by KEROPPY MAEDA
「見る」快楽としてのフェティシズムから、「着る(実践する)」快楽としてのフェティシズムへ。「ラバー・フェチ」の登場は、欧米変態カルチャーにおけるターニング・ポイントであった。
「ラバー・フェチ」とは、「ゴム特有のピタピタと皮膚に張り付く感触」や「空気を遮断し締め付けるような窒息感」に興奮を覚える性癖のことである。自らが全身で体験する「着る(実践する)」快楽としてのフェティシズムは、のちに「フェティッシュ」と名前を代えて若い世代に広く受け入れられていった。特にフェティッシュ・ファッションは、女の子たちに潜在的に存在する「着る」快楽をフェティシズムの領域にまで引き上げ、性的興奮にまで導く効果があった。それゆえに、彼女たちがパーティ・デビューを飾るフェティッシュ・パーティと呼ばれるイベントは、フェティッシュ・ファッションを身に着けている人のみが参加できるというドレスコード(服装規約)に守られながら、あらゆるタイプの変態たちの出会いの場として欧米シーンの基盤を支えるものとなった。
最初に「ラバー・フェチ」が登場したのは、イギリスとドイツだった。両国は、2つの世界大戦を挟み、悪天候や湿地帯での戦闘を前提に、ラバー素材による軍用レインコートやラバー・スーツが採用され、生死の狭間に直面した兵士たちは、その極限状態をラバー素材の独特の質感と極度に密閉された窒息感とともに体験することになったのだ。ラバーにくるまれながら特殊な戦争体験を経た彼らが、戦後、最初の「ラバー・フェチ」の世代となった。
そのようなラバー愛好者たちの存在が顕在化するのは、60年代イギリスの人気テレビ番組「アベンジャーズ(邦題:おしゃれ?探偵)」の登場人物たちがラバー・コスチュームを身に着けていたことがきっかけだった。番組のコスチュームを手掛けた服飾デザイナー、ジョン・サトクリフのもとには愛好者たちからのラバー・コスチュームの注文が殺到し、そればかりか72年にサトクリフの作品カタログとして創刊した「アトムエイジ」は、いつしかラバー愛好者たちの投稿誌へと変貌してしまう。全裸をラバーのボディスーツで覆ってバイクで疾走するカップル、特注ラバー・レインコートで森の中で泥まみれになって悦に入る初老男性、夫に命じられるがままにハチ切れんばかりのラバー衣装にくるまれる熟妻など、そこには「ラバーを着る快楽」を楽しむ愛好者たちの姿があった。
「アトムエイジ」は、その後も「ラバリスト」と名前を変えて存続し、80年代後半「スキン・トゥー」がラバー素材のフェティッシュ・ファッション誌として成功するに至る下地を築いた。また、90年代以降は「トーチャー・ガーデン」がフェティッシュ・パーティのスタンダードとして欧米シーンを支え、現在に至っている。
※1972年創刊の「アトムエイジ」は、ラバー素材の服飾デザイナー、ジョン・サトクリフの作品カタログとして始められたが、いつしかラバー愛好者たちの投稿でページが埋められ、のちに「ラバリスト」などのラバー・フェチ専門誌へと展開した。
※60年代、ジョン・サトクリフがデザインしたラバー・コスチュームの数々が、イギリスの人気テレビ番組「アベンジャーズ(邦題:おしゃれ?探偵)」に登場。潜在的ラバー愛好者たちを実践派へシフトさせ、のちのフェティッシュ・ファッションの下地を築いた。
※現在、ヨーロッパで最も「ラバー・フェチ」が多いのはイギリスとドイツ。特にイギリスはフェティッシュ・パーティが盛んで、老舗の「トーチャー・ガーデン」は毎月3000人以上を集めるレギュラー・パーティで、変態カルチャー・シーンを支えている。
ケロッピー前田
1965年生まれ。身体改造、サイボーグ、人類の未来をテーマに取材を続ける。主な著書に「スカーファクトリー」(CREATION BOOKS)、監修DVD「ボディ・モディフィケーション・フリークス」(ワイレア出版)など。ツイッター「keroppymaeda」にて改造イベント情報など発信中。keroppymaeda.com
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