ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ04 【マスク】

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ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ04

マスク

MASK FETISHISM : BIZARRE GLOSSARY by KEROPPY MAEDA


 ヨーロッパでは、ルネサンス期の貴族時代から大人たちの秘められたパーティでは、「匿名性」のために「マスク(仮面)」を着けることが広く行われていた。それらのパーティにおいては、女たちも「マスク(仮面)」を着けることによって、その本性を曝け出していたともいわれる。例えば、映画「O嬢の物語」のクライマックスで、調教を完成したO嬢が全裸にフクロウの「マスク」のみの姿で男たちの生け贄となるためにパーティに登場するシーンがある。O嬢は「マスク」を着けたことでついに完全に人格を奪われ、“O”という家畜となったのだ。ヨーロッパで「マスク」はSMプレイのアイテムとして古くから存在したのである。


 「顔」は女たちにとって重要なポイントである。だからこそ化粧に気を使い、自らの美貌に男たちが敬意を払っていることに気づくほど、自分自身の「美」の砦を堅く守ろうとする。それゆえに、「マスク」は「顔」を覆い隠すことで女たちのプライドを一瞬にして奪い取り、その「匿名性」が彼女たちの隠された本性をえぐり出し、理性による抵抗の力を奪い取る道具となる。ヨーロッパでは仮面舞踏会(マスカレード)というかたちで「マスク」の「匿名性」が伝統的に引き継がれてきた。一方、「マスク」の「拘束性」への性的な覚醒は、ガスマスク登場以降となる。


 「マスク」の「拘束性」への目覚めは、第二次世界大戦中、ドイツ軍による毒ガス攻撃を恐れたイギリスが全国民にガスマスク着用を義務づけたことがきっかけとなった。死の恐怖と背中合わせの息苦しさが、「マスク」ならではの「拘束性」快楽の覚醒へと結び付いたのだ。大戦中に配られたガスマスクに陶酔させられた人たちは、やはり戦争中にラバー素材の軍服で生死を彷徨ったがゆえにラバーフェチと化した人たちとともに、80年代以降の「フェティッシュ・ファッション」登場の下地を築いた。


 ガスマスクを始め、全頭を覆い尽くすような「マスク」の「拘束性」は、その息苦しさもさることながら、視覚、聴覚、あるいは話す自由さえも奪い、感覚を遮断することで、その人の意識をより内面へと向かわせる効果がある。「拘束性」の探究者たちは、ラバー素材の「マスク」に空気を入れて膨らまし、空気圧でより完全な感覚遮蔽を求める「インフラタブル・マスク」まで生み出した。


 ラバーなどの素材による「マスク」は、その「匿名性」と「拘束性」を結び合わせ、ヨーロッパにおける初期のフェティッシュ・パーティの必須アイテムとなった。当時「マスク」は「変態」の象徴としても広く認知され、オランダのラバー・メーカーの老舗「デ・マスク」の社名にもなったほどだった。


 日本においても「マスク」の持つ「匿名性」と「拘束性」がよりよく理解されるなら、プレイのアイテムとしてもっと多用されるようになるだろう。




※17世紀のヨーロッパには、「スコールズ・ブリッジ」または「ブランク」と呼ばれる女性専用の金属製の顔面拘束具があった。それは女のおしゃべりがもとで何か問題が起きたときの「お仕置き」に用いられたものという。


※「マスク」のフェティシズムの登場は、第二次世界大戦中、ドイツ軍による毒ガス攻撃を恐れたイギリスが全国民にガスマスク着用を義務づけたことがきっかけとなった。


※ルネサンス期には貴族たちの間で仮面舞踏会(マスカレード)と呼ばれるパーティが盛んに行われていた。


※80年代、「フェティッシュ・ファッション」が流行するとともに、「マスク」も大きく注目された。特に初期のフェティッシュ・パーティでは、参加者たちの「匿名性」のために「マスク」は必須アイテムとなった。


※ラバー、レザー、PVC(エナメル)などの素材による「マスク」が人気を得たことにより、「マスク」の「匿名性」と「拘束性」が結び合わされ、ヨーロッパにおいてSMプレイのアイテムとして広く用いられている。



ケロッピー前田


1965年生まれ。身体改造、サイボーグ、人類の未来をテーマに取材を続ける。主な著書に「スカーファクトリー」(CREATION BOOKS)、監修DVD「ボディ・モディフィケーション・フリークス」(ワイレア出版)など。ツイッター「keroppymaeda」にて改造イベント情報など発信中。keroppymaeda.com