ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ09 【コルセット】

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ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ09

コルセット

CORSET : BIZARRE GLOSSARY by KEROPPY MAEDA


 女の身体で最もセックス・アピールを感じる部位はどこだろうか。一般的には大きな胸、あるいは尻などに関心が集中することだろう。しかしヨーロッパでは、特に中世から近現代へと移り変わる過程において、細くくびれたウエストを持つ女たちこそが、男たちの理想と考えられた。西洋の女たちはもともと、ボリュームのある肉体を持ち、大きな胸と尻を持っていたからこそ、細いウエストが理想と考えられたのかもしれない。そして女たちは、そのような男たちの理想像に合わせるため、自ら「コルセット」による肉体変形を受け入れていった時代があったのだ。「コルセット」とは、常時ウエストをきつく締め上げることで細いウエストを作り出すための矯正具であり、またドレス着用時になるべくウエストを細く見せるための矯正下着の役割も果たした。


 「コルセット」は、紀元前1500年のクレタ文明に起源があるといわれる。その時代、クレタ・スカートといわれる下半身を膨らませるスカートの原型が登場するとともに、上半身を細く見せるために「コルセット」も考案されていたという。その「コルセット」は、胸を上に持ち上げる役割も果たし、S字型フォルムの理想型が誕生したのだ。「コルセット」が本当の意味でヨーロッパの女たちの間で普及し始めるのは16世紀、それまで金属製であった「コルセット」が鯨のヒゲによって作られるようになって、王朝貴族時代、ルネッサンス期の到来とともに細いウエストのエロティックな美の基準が実践されていった。


 矯正具としての「コルセット」は、常時着用することで女たちの肉体に劇的な変化をもたらすものである。人間の下の5本のろっ骨は胸骨に繋がっていないため、「コルセット」でウエストを強く締め上げることで内臓の移動とろっ骨の変形がなされ、細いウエストが作られる。当然、過酷な肉体変形の結果、健康を害したり、死産・流産などの弊害も報告されたが、男たちの理想とそれを受け入れようという女たちの肉体変形願望を押さえ込むことはできなかった。


 19世紀から20世紀にかけて、ガーターとブラジャーの登場によって「コルセット」は急激に衰退する。一方で、熱狂的なコルセット・マニアたちが究極のウエストを求め、エセル・グレンジャー女史らがフェティシズムと身体改造の時代へと「コルセット」を生き残らせた。


 日本でも、女の子たちがゴスロリ・ファッションを経由して、「コルセット」や「ハイヒール」といった欧風フェティシズムの真髄を身体で理解するようになってきた。男たちの理想に合わせて肉体を変形し、常にきつく拘束されている「コルセット」の息苦しさにマゾヒスティックな歓びを覚える被虐官能を受け入れる準備はできている。究極のウエストを求める日本人愛好者たちがそろそろ登場してもいい頃かもしれない。




●1886年「ハ?パーズ・バザール」誌に掲載された広告。「コルセット」は健康にも良いものとされ、少女の時代から着用することが奨励された。下の5本のろっ骨は胸骨に繋がっていないため、「コルセット」でウエストを強く締め上げることで内臓の移動とろっ骨の変形がなされ、細いウエストが作られる。


●16世紀から19世紀にかけて、社交の場において女たちは皆「コルセット」によって矯正された美しいウエストを持っていた。そのような習慣は一時廃れるが、20世紀末、フェティシズムと身体改造のアイテムとして復活した。たとえ男性でも「コルセット」の着用によって、同様の矯正が可能なのだ。


●身体改造としての「コルセット」の再発見は、13インチ(32センチ)のウエストを作り上げたエセル・グレンジャー女史の影響が大きい。1892年生まれの彼女は、夫が望む肉体変形の実験台となることで、「コルセット」でウエストを極端に細くすることも、性器ピアスやタトゥーと並ぶ身体改造であることを示したのだ。


●「コルセット」の衰退は、フランス革命(1789年)からすでに始まっていたという。装着の手間と、動きづらさが自由の時代とはアンマッチだったからだろう。一方、1890年頃にはワスプ型、アイスクリームコーン型、アワーグラス型などの「コルセット」も登場し、究極のウエストへの探求は続いた。



ケロッピー前田


1965年生まれ。身体改造、サイボーグ、人類の未来をテーマに取材を続ける。主な著書に「スカーファクトリー」(CREATION BOOKS)、監修DVD「ボディ・モディフィケーション・フリークス」(ワイレア出版)など。ツイッター「keroppymaeda」にて改造イベント情報など発信中。keroppymaeda.com