ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ16 【ヴァーチャル・セックス】

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ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ16

ヴァーチャル・セックス

VIRTUAL SEX : BIZARRE GLOSSARY by KEROPPY MAEDA


 今さら「ヴァーチャル・セックス」と聞くと、古臭い感じがするかもしれない。なぜなら、携帯電話の普及によって、「仮想セックス」が日常化し、もはや特別なものとして意識されなくなったからである。


 90年代半ば、ネットの普及と同時に、「仮想」や「サイバー空間」の是非が議論されたこともあった。しかし、ネット&携帯の情報交換が当たり前となると、その情報の真実さより、「仮想」を作り出す双方向メディアをどう生かすかが問題になってきた。実際、日々送りつけられてくる迷惑メールのほとんどは、セックス情報であって、もはや携帯は立派な性の道具として機能している。ホームビデオの例を上げるまでもなく、常に新たなメディアは性的な目的で利用されればこそ、一般に普及すると言われている。携帯電話においても、写真や動画、エッチ・メール交換の過程がすでに「ヴァーチャル・セックス」の実践となっているというわけなのだ。


 そういう意味では、「投稿写真」という行為は、元々「ヴァーチャル・セックス」の要素を多く含み込んだものであった。あるいは、それは「仮想SMプレイ」とも言えるだろう。投稿者が送った写真が雑誌に掲載されることで、何万人もの読者たちがその愛奴の写真と「仮想」的に交わり、「仮想」的にプレイしているのである。そして、そのことで性的な興奮を得ているという意味で、投稿雑誌というメディアは、すでに「ヴァーチャル・セックス」というべき状況を提供してきた。投稿雑誌が持つ双方向性は、投稿者と編集部との間にあるが、読者からのフィードバックはそのまま投稿者にまで届くわけではない。しかし、ネット&携帯によって、個人と個人が情報をやり取りできるようになって、理想の愛奴との出会いを求めるだけでなく、投稿雑誌が果たしていた羞恥露出的な「仮想プレイ」を個人レベルで実践可能なものとしているのだ。「投稿写真」の先見性が、「ヴァーチャル・セックス」の時代に見直されていることは非常に興味深いことである。


 一方で、コンピューター技術の急速な進歩によって、理想の美少女セックス・ロボットとの「ヴァーチャル・セックス」までもが期待されていた。しかし、現在、個人で購入可能な範囲は、ラブ・ドールと呼ばれる精巧に作られた等身大ダッチワイフが限界であり、人形との疑似セックスは、一人称的マスターベーションの延長であり、「仮想セックス」とは区別されるべきものだろう。


 21世紀、我々はネット&携帯をコミュニケーションの一形態として受け入れ、同時に、性的なツールとしても実際に多く利用している。だからこそ、双方向メディアによる「ヴァーチャル・セックス」は、ある種、生身のセックスへ至る前戯として、ときとしてリアルを越える想像力をかき立てるものとして機能している。そうであればこそ、携帯電話の向こうに、グロテスクなコンピューター・オナニーを越えた、未来的な「愛」の形が見えてくるかもしれないのだ。



●90年代半ば、インターネットの情報世界が「サイバー(電脳)空間」などと呼ばれ注目された時期があった。海外では「フューチャー・セックス」なる専門誌まで登場し、オナニーマシーンとコンピューターを組み合わせた「仮想セックス」が模索された。


●ネット黎明期には、映画「マトリックス」で描かれたような、現実と仮想との境界線崩壊や人間の身体性喪失の危機が叫ばれた。しかし、21世紀になると、簡単に世界中と繋がれる携帯を子供までが持つようになり、「仮想空間」は、日常の一部となっている。


●未来的展望として、美少女ロボットや高度なセックス・マシーンとの性交が夢想されている。しかし、AI(人工知能)の実現は不可能といわれており、2足歩行などの「動き」の模倣は出来ても、愛奴ロボが高級ダッチワイフの領域を越えることは難しいだろう。


ケロッピー前田


1965年生まれ。身体改造、サイボーグ、人類の未来をテーマに取材を続ける。主な著書に「スカーファクトリー」(CREATION BOOKS)、監修DVD「ボディ・モディフィケーション・フリークス」(ワイレア出版)など。ツイッター「keroppymaeda」にて改造イベント情報など発信中。keroppymaeda.com