ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ18
レズ・プレイ
LESBIAN EROTIC : BIZARRE GLOSSARY by KEROPPY MAEDA
「女」というイメージは、常に「男」たちの視点に縛られてきた。だからこそ、「女」たちの戯れとしての「レズ・プレイ」も、「男」たちの性の対象として消費されてきたし、「男」たちが思い描く空想のエロティシズムを具体化した世界として、受け入れられてきた。
レズ(レズビアン)の由来は、紀元前600年ごろのギリシア時代、レスボス島に住む女流詩人サッポーにあるという。彼女が教え子である少女と同性愛関係を持っていたことから、レスボス島よりレズという言葉が生まれたのだ。とはいえ、男同士のホモセクシャルが古くから意識されていたのに対して、女同士の性行為が不可能であると考えられていた歴史は長く、1920年代、精神分析学のフロイトが女性のオーガニズムを発見し、「女性が女性を愛する」という“特殊な”性癖について報告してことから、やっとレズビアンといものの存在が認知されていくようになった。1928年に出版されたラドクリフ・ホールのレズビアン小説「寂しさの泉」が発禁になったことは、当時の時代背景を反映した出来事だった。
一方で、複数の裸婦たちが戯れるモチーフは、古代ローマ時代のポンペイの壁画から多く見られ、近代以降は西洋美術で最も人気のあるもののひとつになってきた。現代のポルノ時代を待つまでもなく、エロティシズムの伝統は常に男の視点によって作り上げられてきたもので、歴史的絵画に見られる裸婦たちの戯れもまた、生々しすぎる男女の交わりをモチーフにするより、男たちを性的に高揚させる効果があるものとして、広く採用されてきたのだ。欧米のポルノでも、「レズ・プレイ」は、本気のレズと区別する意味で「ガール・オン・ガール」とも呼ばれ、ひとつのジャンルとして根強い人気を誇っている。
欧米では、1970年?80年代、「ウーマン・リブ」や「フェミニズム」が、男性主義的な価値観に抵抗する運動を始め、男の感性を逆なでするようなレズピアン・ファンタジーも多く作られてきた。しかし、女がまるで男のように振る舞う「レズビアン」のステレオタイプ的なイメージは、90年代以降の性の多様化の中で、時代遅れのものとなり、例えばロック・シンガーのマドンナに象徴されるような、より強い「女」のイメージを持った存在が、男にも女にも愛されるエロティシズムのイメージとなっている。
02年にアメリカで行われた調査では、過去12ヶ月以内で、15歳から44歳までの女性の「女性経験」率は、およそ10パーセントだったという。いつしか、男たちのフィクションとしての「レズ・プレイ」は、自らの変態性癖をカミングアウトすることを躊躇わない女の子たちの自由奔放な戯れによって、凌駕されてしまいそうではないか。確かに「レズ・プレイ」は、「男がいない世界」という「男」の理想を叶えているわけだが。
●ホモの世界では、男が男に「男を教える」ということがあるという。同様に、本気のレズの世界でも「女を教える」ということがあるのだろうか。「女」というものが、「男」の視点によって作り上げられてきたイメージであることが、レズビアンたちを悩ませる。
●魅惑の女たちがむさ苦しい男たちと絡んでいるより、彼女たち同士で無邪気に戯れ合う姿の方が、ある種健康的なエロティシズムを想起させ、男たちを楽しい気分にさせてくれることもある。女たちが持つ「癒し」の効果は、「レズ・プレイ」によって倍加される。
●女の自立は、マスターベーションを覚えたことから始まったという説がある。「男なしで女が快感を得ることはできない」と信じられていた時代が終わり、女たちは自らの意思で快楽の扉を開けるようになった。そして、自らの変態性癖にまで目覚めてしまうのだ。
ケロッピー前田
1965年生まれ。身体改造、サイボーグ、人類の未来をテーマに取材を続ける。主な著書に「スカーファクトリー」(CREATION BOOKS)、監修DVD「ボディ・モディフィケーション・フリークス」(ワイレア出版)など。ツイッター「keroppymaeda」にて改造イベント情報など発信中。keroppymaeda.com
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