ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ23 【エロティシズム】

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ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ23

エロティシズム

EROTICISM : BIZARRE GLOSSARY by KEROPPY MAEDA


 エロ本業界での話であるが、“エロ本読者”には2つのタイプがあると言われている。それは、“土方エロ”を求めるタイプと、“インテリエロ”を求めるタイプで、売れるエロ本とは、その両方の読者に訴えかけることが必要であるという。ここでいう“土方エロ”とは、より直接的にセックスをアピールする性表現のことで、ストレートであるゆえに即効性を持つが同時に飽きられたり敬遠されてしまうときもある。欧米のポルノ雑誌が性器丸見えでも何かバカっぽく見えてしまうのはあまりにも直接的な性表現ゆえである。一方、“インテリエロ”とは、SMや特殊なフェチを含む、より想像力をかき立てるエロであり、実現困難な性的ファンタジーであるものも多い。しかし、“インテリエロ”に偏りすぎてしまうと、女体の感触や匂い、その生々しさが失われ、実用本(オナニーのためのオカズ)としての役割を果たさなくなってしまう。それでも、日本の優れたエロ本が、“土方エロ”と“インテリエロ”のバランスで成り立っているのは、「文化としてのエロ」が根付いているからで、「頭の中で性的快楽を得る」行為も広く受け入れられている証拠なのだ。


 そして、日本に“インテリエロ”を根付かせ、雑誌「血と薔薇」で「エロティシズム」の新領域を開いたのが澁澤龍彦であった。フランスの学者バタイユが語る「エロティシズム」とは、禁止と侵犯、抑圧された欲求が爆発する瞬間のカタルシスに人間の性の根源を求めていた。澁澤はさらにそれを押し進め、あらゆる「アモラル」なイメージの解放を雑誌「血と薔薇」で視覚化したのだ。68年出版の創刊号で巻頭ヌードを飾った三島由紀夫が、その2年後に割腹自殺した事実はこの雑誌の印象をさらに強烈なものにしたが、あらゆる妄想的変態行為が実践され得る21世紀にあって、三島の自決もまた究極の“変態行為”として理解可能なものだろう。


 日本のエロ本の中で“インテリエロ”の領域が守られる限りにおいて、エロ本はオナニーのオカズを超え、「エロティシズム」実践に根ざす“生きる”ための実用本でもあり続けると信じるのだ。



●秘密結社「アセファル」で自らの「エロティシズム」実践を目論んだバタイユに影響され、三島由紀夫は「楯の会」を結成し、 割腹自殺で究極の絶頂に達した。


●サド著『悪徳の栄え』の翻訳で知られる澁澤龍彦は、自らの雑誌『血と薔薇』で「エロティシズム」を視覚的に紹介し、日本の変態文化を大いに刺激した。


●性器結合から逸脱した「エロティシズム」はすべてSM的でオナニズム的であるが、芸術創作の原動力となり、未開文化にも多く見られるものである。イメージとしての“エロ”が溢れる現代こそ、「エロティシズム」の再考が求められる。




ケロッピー前田


1965年生まれ。身体改造、サイボーグ、人類の未来をテーマに取材を続ける。主な著書に「スカーファクトリー」(CREATION BOOKS)、監修DVD「ボディ・モディフィケーション・フリークス」(ワイレア出版)など。ツイッター「keroppymaeda」にて改造イベント情報など発信中。keroppymaeda.com