ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ25
アトムエイジ
ATOMAGE : BIZARRE GLOSSARY by KEROPPY MAEDA
あらゆる「変態」は、戦時の時代に開花した。例えば「ピンナップ(写真)」は、第一次世界大戦のフランスで、女を知らずに戦地に向かう少年兵士たちにもたせるものとして流行し、「写真でオナニーする」という行為が登場した。また、第ニ次世界大戦では、ラバーやビニールを素材とするレインコートなどが現れ、特に湿地帯や悪天候での戦闘が多かったドイツやイギリスの兵士の間で、戦争体験とラバーの感触がセットになった「ラバー・フェチ」のマニアたちが登場する。
まさに、「ピンナップ」は「見る」フェティシズムを、「ラバー」は「着る(体感する)」フェティシズムを生んだのだ。しかし、ネットの時代となった21世紀、あらゆるフェティシズムが、その発祥の頃のパッションを失い、表層化してはいないか? “戦争を知らない子供たち”が大人となったとき、あらゆるフェティシズムに隠された“極限的な官能”が忘れ去られていないか?
世界最初のラバー専門雑誌「アトムエイジ」が創刊されたのは、72年。当時、米ソは、大陸間弾道ミサイルによる「核戦争」を前提にした「冷戦」状態にあった。もしかしたら核戦争が起きるかもしれないという危機感は、特に東西に分断されていたヨーロッパにおいて強かった。だからこそ、未来とは「核戦争後」の世界であり、未来人たちは、全身をラバーで覆って現れた。「アトムエイジ」を立ち上げた服飾デザイナーのジョン・サトクリフは、映画やテレビで登場する未来人たちの衣装を手掛けていた人物で、自分の作品カタログとして始めた雑誌は、第ニ号目からラバーマニアたちの投稿で埋められていった。そのようなマニアたちの渇望は、その時代を覆っていた「核戦争」へのストレスと恐怖感の反映でもあったのだ。
21世紀の“危機”が具現化しつつある昨今、日常的なエロスを超える“極北”的なフェティシズムは登場するのか。ラバー・フェチの世界を振り返り、現実を乗り越えるような、まだ見ぬ“変態”の姿を夢想して欲しい。
●1990年に、ソビエト連邦が崩壊するまで、米ソは「冷戦」という大陸間弾道ミサイルによる「核戦争」を前提とした“戦争”を続けており、ラバーとは、「核戦争後(=未来)」の人間たちの服装とイメージされた。
●「核の時代」のラバー・フェチからの移行は、80年代、フェティッシュ・ファッション雑誌「スキン・トゥー」の創刊から始まった。ラバーが服飾素材になりつつある今、「核の時代」のフェティシズムを思う。
●「アトムエイジ」(72年創刊)の全盛期、生粋のラバーマニアたちは、核戦争の恐怖を感じながらも、放射能防護のためのラバーウェアの感触を夢見て、ガイガーカウンターの警告音にさえ身震いしたことだろう。
●ラバーの真の快楽は「体験する」ものだ。全身を覆うラバーの密閉感やガスマスクの息苦しさを伴いながら、森や湿地帯を進み、泥や水にまみれ、感極まって抱き合うときも、ラバー越しの感触がさらなる興奮を呼ぶ。
ケロッピー前田
1965年生まれ。身体改造、サイボーグ、人類の未来をテーマに取材を続ける。主な著書に「スカーファクトリー」(CREATION BOOKS)、監修DVD「ボディ・モディフィケーション・フリークス」(ワイレア出版)など。ツイッター「keroppymaeda」にて改造イベント情報など発信中。keroppymaeda.com
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