ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ28 【脳内麻薬】

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ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ28

脳内麻薬

ENDORPHINS : BIZARRE GLOSSARY by KEROPPY MAEDA


「気持ちいい」とは、「脳内で麻薬的な快楽物質が分泌される」現象である。そう一言にまとめてしまうと大雑把になってしまうが、その説明に「そういうことだったのか」と、目からウロコの思いの人も多いだろう。脳内麻薬エンドルフィンが発見されたのは1970年代半ば、LSDやマリファナといったドラッグを背景としたカウンター・カルチャーの全盛期で、その発見者にはノーベル賞受賞の可能性もあると騒がれた。


 エンドルフィンは、いうなれば、脳内モルヒネ。神経伝達物質のひとつで、その鎮静作用は非常に強力でモルヒネの700倍の活性を持つ場合もあるという。また、快楽物質としては多幸感をもたらし、日常生活で性欲や食欲を満たし喜びを感じているときも、エンドルフィンが分泌されている。さらには、エンドルフィンの鎮痛作用が「痛み」を「快楽」に変換するとも考えられ、ムチやロウソクといったSMプレイでも大量の脳内麻薬が出ているともいわれる。実際のところ、脳内麻薬とセックスの関係が本格的に研究されたケースは報告されていないが、「ランナーズ・ハイ」や「針治療」の仕組みを脳内麻薬の分泌で説明する研究が有名で、「痛み」や「苦しみ」を「快感」にかえる作用があることは確認済みといえるだろう。


 「快楽」にかかわる神経伝達物質には、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなども研究されているが、その作用は快楽物質であるエンドルフィンとは異なっている。ドーパミンは覚せい剤に似た「興奮状態」を生み出し、ノルアドレナリンは瞬間的なアクシデントに「危機回避」的に分泌されて働く、セロトニンは逆に抑制的に働くことで「リラックス」した状態を作り出し、他の強力な神経伝達物質が過剰に分泌されることを抑える効果もある。一方、エンドルフィンも過剰に分泌されると、自己の身体感覚を全く麻痺させてしまうほどの作用を及ぼすという。まさに人間が死を迎えるとき、「天国に昇る」とは、エンドルフィンの大量分泌とともに安らかに眠ることかもしれないのだ。


 これらの脳内部での「快楽」の仕組みはまだまだ研究途上であり、その作用の引き金となる“物質”を特定した段階で、わからない点も多い。それでも、ドラッグ・カルチャーを経たニュー・ジェネレーションにとって、もはや「気持ちいい」というのは、男性器からの射精だけでなく、脳内で快楽物質を分泌することによって起こるのだというイメージが受け入れられるようになったのだ。


 いうなれば、若い世代にとっては、「射精」は“脳内麻薬分泌”へとシフトし、究極の「快楽」を追求する者たちの地平もまた無限に広がり、エロ本というカテゴリーではもはや覆い尽くせないほどになっている。だからこそ、エロ本の読者たちを生身の女たちのイメージに引き戻すことこそが、21世紀のエロ本の使命であるともいえるのだ。



●「脳内麻薬」の発見は、1970年代半ば、ノーベル賞も騒がれる大ニュースだった。過酷な発見競争は78年、スナイダー、ヒュージ、コステルリッツがラスカー賞を受賞して決着。その経緯は、ジョエル・デイビス著『快楽物質エンドルフィン』に詳しい。


●その昔、変態性愛が「精神病」的に説明されてきた時代があったが、現代は「脳内麻薬」の分泌によって、あらゆる“理解不能”な性癖も説明されていくだろう。さて、あなたはどんな行為や妄想で“脳内射精”しますか?





ケロッピー前田


1965年生まれ。身体改造、サイボーグ、人類の未来をテーマに取材を続ける。主な著書に「スカーファクトリー」(CREATION BOOKS)、監修DVD「ボディ・モディフィケーション・フリークス」(ワイレア出版)など。ツイッター「keroppymaeda」にて改造イベント情報など発信中。keroppymaeda.com



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