ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ31
ルーカス・スピラ
LUKAS ZPIRA: BIZARRE GLOSSARY by KEROPPY MAEDA
ルーカス・スピラ氏は、今や日本において最もよく知られた身体改造アーティストである。その名前は、自らの身体を改造することを決意したとき、本名のアルファベットの並べ替えによって生まれたものだという。そして、彼は自身の身体を改造するばかりでなく、他の人に改造を施すアーティストとしても活動を始め、医療用メスで皮膚を切って図柄を刻む「スカリフィケーション(カッティング)」のスペシャリストとして頭角を現していく。彼の最初の転機は、1999年、カナダ・トロントで行われた身体改造世界大会「モドゥコン」で実演を披露したことであった。そのことから国際的に注目される存在となったのだ。そして、さらなる転機は日本との出会いから始まる。
ルーカス氏は、身体改造アーティストを志す以前から、写真表現において、長時間露光を多用した独特のスタイルを模索していた。そのテクニックは、彼が手掛けた身体改造作品の記録や発表の際にも見るものを魅了するものであった。そして、彼は02年に初来日し、その後定期的に日本に来るようになるが、その活動は身体改造の伝道師に留まらず、フェティッシュ・フォトグラファーへと幅を広げていく。最高の被写体との出会いが最高の作品を生み出す契機であるなら、愛妻ヴィヴィアン嬢との出会いは、ルーカス氏における写真作品創作への起爆剤であった。彼は、形式化されたモノクロによるレトロ調が主流となっていたフェティッシュ・フォトの世界に、眩しいほどヴィヴィットなデジタル・カラーの作品を投入し、真っ赤な鮮血の滴りやデジタル・エイジの未来感覚を表現するために、身体改造とフェティシズムを高い次元で融合したのだ。
ルーカス氏は、日本との出会いから生まれたニューコンセプトを「ボディ・ハックティヴィスト」と表現した。SF映画、漫画、アニメなど、あらゆるビジュアルからアイデアを「ハッキング(盗用)」し、身体改造として「リアル」に具現化することで、“未来”を先取りしようというのだ。「ボディ・ハックティヴィスト」が、写真表現においても試されるとき、その未来的なフェティシズムは、もはやエロティシズムを超え、日本という空間を、ルーカス氏にとっての架空の未来と重ね合わせていく。そのような写真によるイメージの再構築にこそ、彼の“改造家”としての本領が発揮されているのだ。
●身体改造の伝道師として世界を旅するルーカス氏は、各地のアングラ・シーンの住人たちを写真撮影して、サブカルチャー・ドキュメンテーションにも取り組んでいる。
●処女作『オナニズメ・ナヌ・ミリタリII』は、ルーカス氏が手掛けた身体改造の作品写真で構成され、写真家としての可能性を大きくアピールした。同時に日本の身体改造シーンのレベルの高さも広く世界に知らせた。
●日本で愛妻ヴィヴィアン出会ったことで、SF映画の世界を現実化したかのようなファンタジックな写真集『東京ラブドール』(エディシオン・トレヴィル)が生まれた。
ケロッピー前田
1965年生まれ。身体改造、サイボーグ、人類の未来をテーマに取材を続ける。主な著書に「スカーファクトリー」(CREATION BOOKS)、監修DVD「ボディ・モディフィケーション・フリークス」(ワイレア出版)など。ツイッター「keroppymaeda」にて改造イベント情報など発信中。keroppymaeda.com
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