ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ38
ベクシンスキ
BEKSINSKI: BIZARRE GLOSSARY by KEROPPY MAEDA
このコーナーで「サイボーグ・フェティシズム」について書いたとき、人間と機械の融合にエロティシズムを発見した作家として、映画「エイリアン」の美術で知られるスイスの画家ギーガーを取り上げた。そして、今回取り上げるベクシンスキは、そのギーガーと双璧をなす孤高の作家として、ポーランドから登場した人物である。
作品を見てもらえば、その突出したポテンシャルに誰もが息を飲むことだろう。キャンバスの向こう側に、死と廃墟と終焉が広がる光景は、“人類滅亡後のエロティシズム”とでもいうべきものである。しかし、その作品世界が、切実さを持って世間に理解され始めるのは、皮肉にもベクシンスキが05年に殺害されるという壮絶な最後を遂げてからである。
ベクシンスキは、社会主義国であったポーランド出身。80年代からドモホフスキ画廊を通じて、フランス経由で世界中に知られるようになったが、生涯国外に出ることはなく、ひたすら作品制作に没頭した。彼の悲劇は、98年に妻を亡くしたことから始まり、翌年には鬱病を病んでいた最愛の息子が自殺。05年には彼自身が知人の息子に17カ所刺されて殺されてしまったのだ。その理由は、借金の申し出を断ったからというたわいもないものだった。
飛び抜けた作家が作品制作に没頭し、生と死、エロスとタナトスの狭間をキャンバスに刻み込もうとするとき、人知れず周囲の人間たちの命をも奪ってしまう程のエネルギーを持ってしまうことがある。ベクシンスキが目指したエロティシズムとは、どんなものだったのだろうか。彼は生前、作品の理論付けや解釈を嫌い、すべての作品にタイトルを付けることを拒否していた。それでも、今回、日本の出版社エディシオン・トレヴィルより、世界でも最高のクオリティと充実した内容を誇る全三巻『ベクシンスキ作品集成』が出版され、初期の写真作品から、中期のドローイングそしてペインティングへと、制作の変遷を追っていくことが可能になった。
残酷さと静けさが同居し、幻想的でありながらも現実的な厳しさを感じさせるリアリティ。ベクシンスキの作品を見るたびに、彼が振りかざした身の毛もよだつ“エロスの暴力”こそが、生ぬるい21世紀のセックスを蘇生させる鉄槌となり得ると思うのだ。
●ベクシンスキは、1929年ポーランド生まれ。50年代に写真から始め、徐々に絵画に転じて独特の世界を構築した。生涯国外に出ることはなく、謎の幻想画家とされた。
●『ベクシンスキ作品集成』第一巻:ベクシンスキを一躍有名にした70年代の絵画作品、および1950年代末の写真作品。普及版&愛蔵版、エディシオン・トレヴィル刊行。詳細はオンラインショップ (http://www.editions-treville.net/)にて。
●キャンバスの向こうには死と廃墟と終焉が広がる。残酷でありながらも美しく、絶望的ゆえに見た者を魅了する“静かなエロス”。05年、殺害されるという壮絶な死が、ベクシンスキをますますミステリアスな存在にした。
ケロッピー前田
1965年生まれ。身体改造、サイボーグ、人類の未来をテーマに取材を続ける。主な著書に「スカーファクトリー」(CREATION BOOKS)、監修DVD「ボディ・モディフィケーション・フリークス」(ワイレア出版)など。ツイッター「keroppymaeda」にて改造イベント情報など発信中。keroppymaeda.com
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