ケロッピー前田の変態カタログ★リターンズ44
カニバリズム
CANNIBALISM: BIZARRE GLOSSARY by KEROPPY MAEDA
21世紀において、「カニバリズム(食人行為)」は、ひとつの性癖として理解され始めている。そのような行為を許すか、許さないかは別として、『羊たちの沈黙』『ハンニバル』『デリカテッセン』などといった映画がヒットし、もはや、そのタブーを侵すことに興奮を覚える感覚を否定することはできないだろう。
正直、「カニバリズム」についての情報には、常に誇張や湾曲がついてまわる。そんな中で、人類学の立場から「カニバリズム」に真っ向挑んだ学者にマーヴィン・ハリスがいる。彼はマルクスの唯物論史観をベースに、食べ物とその原価計算に着目することから「カニバリズム」を解読してみせた。真摯な学者たちからは批難を浴びながらも、彼はヒトを“最も身近なタンパク源”と認めた上で、挑発的な論調でその謎を暴いていく。実際に、飢餓、災害、遭難など、追いつめられた状況でその一線を超えてしまうことはある。ただ、ある文化においては、社会的な必要性から「カニバリズム」が受け入れられてきたのだ。葬儀の一部として肉親の死体を食すこともあれば、「戦争カニバリズム」によって捉えた捕虜を食することもある。それらは“肉の分配”によって共同体の結束を固め、タンパク質不足を補い、その行為を理由付けするための儀式や文化を生み出したという。そして、私たちは「ヒトを食べない」文化に所属しているから、「カニバリズム」が理解できないというわけだ。
そうなれば、「カニバリズム」がエロティシズムに繋がることも容易だろう。その実践には、常に殺人や猟奇性が伴うために異常さが際立つが、食べられる本人が同意している場合はどうか。何も殺してしまわなくても、身体の一部を食べることは可能だろう。
そして、話はまだ続く。数年前にベスト・セラーとなったダニエル・マックスの著書『眠れない一族』では、「狂牛病」の原因となる「プリオン遺伝子」が、なんと人類共通に存在していることが暴かれている。ご存知の通り、「狂牛病」は肉骨粉を飼料としたことによる共食いから生まれた奇病。そして、年代特定からおよそ80~50万年前、我々「ホモ・サピエンス」は、他の同種亜種を日常的に「食人」することで、氷河期を切り抜け、生き残ってきたと推測されるというのだ。それが事実なら、確かに“ヒトはヒトとなるためにヒトを食べた”のだ。
ケロッピー前田
1965年生まれ。身体改造、サイボーグ、人類の未来をテーマに取材を続ける。主な著書に「スカーファクトリー」(CREATION BOOKS)、監修DVD「ボディ・モディフィケーション・フリークス」(ワイレア出版)など。ツイッター「keroppymaeda」にて改造イベント情報など発信中。keroppymaeda.com
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