ヒロイン手帖 × 森伸之 2

000


<<前に戻る



?青山学院は東京の制服の流行を引っ張ってるんです。現在のハイソックスも、かつてのルーズソックスも、そもそもスカートを短くすることも



制服図鑑の初版刊行から3年後。スカートの丈はだいぶ短くなった。ちょうど制服のモデルチェンジがブームになりかけの頃だった。


「きっかけのひとつは、港区の頌栄女子学院。これが白の三本線が入ったセーラー服から、ピンタック入りのブラウスにチェックのスカート、そしてハイソックスという大胆なモデルチェンジをした。83年です。これがショッキングだった。ただここは生徒数も少ないし、ミッション系のお嬢様学校なんで、目立たなかった。でも翌年、嘉悦女子が続いたのが大きかった。タータンチェックのスカートにエンブレム付きのブレザー。ここは生徒数も多いし、元は商業系の庶民派学校だった。それが制服が替わって人気が出て偏差値が上がった。制服を替えただけで学校が変わるということを、このあたりで学校関係者が気付いたんです」


その翌年、ちょうど『東京女子高制服図鑑』が出た頃から全国の学校が“嘉悦モデル”を採用していったという。


「モデルチェンジの流れで、デザイナーズブランド制服の全盛期がやって来た。でも長続きしなかった。結果的に失敗してるんです。子供の評判が悪い、親も経済的な負担などもあって印象が良くない。けっきょく女子高生といってもいろんな体型の子がいる。それが揃ってブランド制服を着せられる。そもそもブランドって消費者が自分の個性に合ったものを選ぶ。それが前提ですよね。でも制服で採用すると似合わない子まで強制的に着せられる。激しく違和感のある子とかいましたよ」


着こなしでいえば、青山学院高等部が一番だという。


「ハイソックス、ルーズソックス、短いスカート、紺ベスト……ほとんど青学が引っ張っていました。当時は女子大生ブームでもあったんですけど、大学付属の女子高生は女子大生の着こなしをお手本にするんですよ。青学の女の子たちは当時女子大生の間で流行していたハマトラを制服に持ち込んだ。そもそもは青学って制服の規制が緩いんです。スカートは紺色、上はブレザーみたいな程度で。なんとなく決まっているなかで、それぞれが着こなしていく。それが都内に広がっていくんです」


制服図鑑は女子高生にも浸透したが、制服マニアにも深く浸透した。


「マニア心をくすぐるジャンルではあると思います。切手マニアと似ている。切手って限られたフォーマットがありますよね。そのなかで、もの凄いバリエーションがある。限られたなかの無数のデザイン。それが切手マニアを引きつける。鉄道ファンの反響も大きかったですね。雑誌の連載で、地方の制服イラストを送ってもらってそれを私がリライトするというコーナーがありました。そこでは鉄道ファンからの投稿が多かったです。『何々線に乗ったときに見た制服です』とか『この駅の駅弁はこれが美味ですけど、ここではこういう制服の女の子が乗ってくる』とか。鉄道ファンって、車両でもキハがいいとかクモハがいいとか、細かいですよね。そういうところに反応する人たちは、制服の微妙な違いも目に飛び込んでくるんでしょうね」


2010年現在の制服、キーワードは「上品」だという。


「デザイン的にはブレザーが主流なんですけど、わりと体に沿ったきれいなラインで、ウエストを絞って丈長め、Vゾーンは詰まってるという感じですかね。スカートはまだチェックが主流なんですけど、柄は落ち着いている。コギャルブームとか、そういうイメージから抜けたい、上品に思われたいという学校の思惑もあるんだと思います。学校は工夫してますよ。東京では私立高校だと、もう極端に短いスカートはなくなってきていますね。流れとしては学校と生徒が歩み寄ってる印象はあります。ただ制服も生徒が着こなして初めて“制服”になるわけでね。たとえば今、紺のハイソックスを指定している学校が多くて、実際に女子高生たちにも主流です。だけどそれは彼女らがいいと思っているから履いているわけで、決まっているからという理由だけではない。だから、これからも生徒たちの工夫で、流行も変化し続けると思いますよ」






?児ポ法の主旨自体には賛同しますが細部があやふやなまま制定された結果、「制服だから」「女子高生だから」と納得いかない理由で自主規制せざるを得ない時期がありました



最後に「児童ポルノ法改正」問題について。森さん自身はまったく別次元の問題と思っていたが、「非実在青少年」などという言葉が生まれてくると他人事ではない(※最近の審議で「非実在青少年」という言葉自体は案から削られた)。


「実は児童ポルノ規制法が出来た99年に影響を受けたんです。『ベッピンスクール』という雑誌に連載をしていたんです。こっちとしてはどんな媒体でやっても自分のページは自分のページだと気にはしていませんでした。でも業界が過敏に反応して自主規制に走った。で、『そういうことなんで連載を続けられなくなりました』と担当編集者に言われたんです。でも自分のページは内容的に違うし、しかもイラストじゃないですかと抗議したんですけど、いったん休みましょうと。納得できませんでしたね。


その次から急遽、学校制服ではなくてOLとか銀行員の制服を描くことになりました。それで9ヶ月後かな、そろそろいいでしょうと元に戻った。だから怖いのはそういう流れです。法律が曖昧だと、内容を見れば大丈夫でしょうというのが自主規制の段階で通らなくなる。しかも男女関係なくでしょう。以前、受験雑誌の連載で開成中学の夏の水泳学校の様子を描いたんです。ふんどし姿の中学生男子を。でもこれも拡大解釈されるとアウトになるのかなと、不安になりますね。自分がやってきたことと関係ないところで自分の仕事が揺さぶられる。だから規制法の主旨には反対しませんげど、適用の仕方についてはもっと分かりやすくしてほしいですよね」


確かに、これほどリアルな制服考現学を確立した作家は他にいないのに「女子高制服」という括りだけで危険視されては、学問も出来ない世の中になってしまう。しかし森氏はめげずに学問を続ける。


「いま調べているのはツッパリですね。制服の着こなしという点で、ツッパリも重要な制服文化のひとつなんです。だけど発祥がわからない。なんでそんなことしようと思ったかというと、制服を調べはじめたのが81年頃で、たまたまスカートの丈が長から短へ変化していった。その激動がおもしろかった。でもその前史については知らない。じゃあ調べてみようと思ったんです」


元ツッパリの40代、50代の方々、情報を求む!






11.gif22.gif







森伸之(もり・のぶゆき)

1961年東京生まれ。1981年頃より都内私立女子高校の制服情報を調査開始。現在はおもに制服に関するイラストと文章の執筆を中心に活動中。

リンク 制服図鑑通信局

このインタビューは2011年うぶモード1月号の転載です。