器具田こするのオナホール戦記 第二回

000


せんき4.gif


txt 器具田こする教授(Kiguda Lab.)


第二話






■ この穴に挿入れればどうなるものか


 自分の大切な逸物を託す、得体の知れない穴。それがオナホールだ。

 ユーザーの立場に立てば、粘膜に密着し激しく摩擦されるものだから、何よりも安全性を優先してほしい。そして単純に、入れたら本当に気持ちいいのか。普及のためには、この初心者の猜疑心、恐怖感を晴らすことが重要である。

 ユーザーの好みは色々あれど、商人たるもの、商品がどんな使われ方をされるか、自信をもって薦められるか、正直であるべきだ。しかし、この商人魂は江戸時代から1980年代に至るまで、おろそかにされていた。というのは、人工膣として使える素材がなかった時代に、膣ソックリなどと不誠実に謳っていたこと。そして後述する法的な規制の影響。さらに背景として、そうした性用具が陰の存在であるがゆえに、質的にも競争が起きにくい殿様商売の状態だったことである。

 昔のアダルトショップはどこもそうだったのだが、怖そうな兄ちゃんが店番をする仄暗い店で、客がクレームをつけられるような空気ではなかったのだ。



 歴史は明治期から振り返ろう。日本国内でも天然ゴムの加工製品が出回り、コンドームの普及が始まった。

 現在でもコンドームの中にローションを入れ、だぶつかせて装着し簡易オナホにするテクニックがある。ただし天然ゴムを厚くブロック状にすれば堅すぎるはずで、この時期にゴム製オナホールが作られた記録は見つからない。

 やがてドイツ、アメリカは国策で合成ゴムを開発する。第二次世界大戦での強い需要に支えられ、1930年からおよそ30年の間に石油化学は大幅に革新した。

参考文献:「原色大人の玩具研究」マイルドムック13、東京三世社、1993年
ここではS49年の通販事情として紹介されている当時のオナホールについて
onaho06.jpg





■ ソフトビニール素材の台頭






 1950年代。戦後高度成長期になるとソフトビニール製のオモチャが普及しはじめる。怪獣やキューピー人形が代表的だ。アダルトグッズも、従来よりは柔らかく天然ゴムより加工しやすいソフビ素材が主流になっていった。


 オナニー用具を手作りし、天然素材で自給自足していた時代が第一次産業のイメージとすると、型を使って工業生産する時代はまさにオナニー第二次産業期である。


 そして銀座のアダルトショップ「ABC」が「大人のオモチャ」なるキャッチフレーズを発表。それまで「性具」「淫具」と身もフタもなく呼ばれていたグッズが、ポップな名前を与えられたおかげで一般に広まった。IT業界で言うところの「名前重要」である。子供のオモチャも大人のオモチャも、ソフビに変わりはない。

 ラインナップは相変わらず女性用がメイン。マブチモーターに偏芯おもりを付けたバイブユニットが量産され、電動と銘打ってコレを仕込んでおけばOKな風潮だった。

 ソフビは加工方法の都合から、中空の製品が得意である。この点はオナホには好都合だ。しかしコシが強く、ソフビオナホでチンポをまともにこすると痛いのだった。そこで口径を広くガバマンにする、可塑剤を多めに入れて柔らかくする、スポンジ素材と貼りあわせるなどの対策が取られた。

 最も実用的だったのが、ローターをオナホに仕込むこと。メーカーは、どうせ人間の膣に敵わないなら振動刺激で昇天させればいいと考えた。つまり電動オナホ、オナマシンである。

 代表的な商品として「似たり貝」、空圧締め機構を加えた「電動しびれフグ」あたり。1980年代のオナホはローター内蔵が常識だった。

 オナホがハイテクに進化してオナマシンになったのではなく、オナホがオナホであるために、前段階としてオナマシンが生まれたのだった。

onaho01.jpg/onaho02.jpg/onaho03.jpg/onaho04.jpg
参考文献:「原色大人の玩具研究」マイルドムック13、東京三世社、1993年




■ 怪しさの源流は






 貝とかフグというネーミングセンスは江戸時代を感じさせる。なぜそんなに古臭いかと言うと、地方の土産屋で、伝統工芸品と見せかけてアダルトグッズを売る独特の流通ルートがあったからだ。

 戦後、風紀の乱れを警戒した政府は、薬事法によってアダルトグッズを規制する(1948年)。媚薬は当然ながら、バイブも医療用具「あんま機」と見なされ、厚生大臣に無許可で電動ディルドーを売ると逮捕された。

 そもそも、風紀を統制するのが目的なので、人工チンコに許可が下りるはずもない。わいせつ物頒布罪もある。業者はディルドーに顔を彫り込んだりして、昔からあるこけしの一種と偽って販売せざるを得なくなった。リアルな性器にしてはいけないとする業界内での掟もあったという。伝統ならぬ電動モノでも、建前上、雰囲気を変えることはできなかったらしい。

yotume.jpg四つ目屋の名は現在でもブランド名に引用される さらにさかのぼると薬売りにも深い関係がある。アダルトショップの古い代名詞「四つ目屋」は、江戸時代の両国に実在した媚薬商だ。そこで扱われていた本物の伝統ディルドーは「肥後ずいき」。熊本県産のイモの茎を干し、独特の編み方でチンポ形状にしたものである。

 観光物産の要素、伝統工芸の要素、濡らすとイモの粘膜刺激成分が染み出るという薬の要素。仮に厚生大臣が風紀よりも安全性を重視して認可管理していれば、オナホも医療用具となり、薬屋でコンドームと並べられて売られるはずだったのだ。

 21世紀になって、テンガが近い位置までたどり着いているものの、未だ医療用具ではない。

参考文献:肥後ずいき四つ目屋本舗 オナホール



第一話第二話第三話第四話第五話第六話第七話





著者紹介



kigu.jpg

器具田こする教授


マッドサイエンティスト。ドールとホールのR&Dアートユニット「器具田研究所」を主宰。隠匿野外自慰器具「オナーパンツ」でオナニーの世界に革命を起こし、複雑系ホール構造やオナマシン設計などアダルトグッズのテクノロジーを追求し続けている。「ゆっくりしていってね スローオナニー入門」(コアマガジン)でCEOを担当。発音は「きぐた」ではなく「きぐだ」と濁る。

webサイト http://www.kiguda.net/
Twitter @kiguda