ヒロイン手帖 その4
木原浩勝
批判に受け身になってはいけない
文/荒玉みちお 構成/うぶモード特ロリ班
人は誰でも説明のつかない不思議な体験をするものだ。これは夢か幻か、それとも……。誰もがそう思い、他人に言う者もあれば自分の胸だけに深く閉じこめておく者もいる。木原氏はそんな怪異を蒐集してまとめ、世に紹介している。ベストセラーシリーズ『新耳袋』の著者である。異界と実社会のつなぎ役。そんな木原氏が実は“うぶ”の愛読者だとわかった。ダメもとで取材をお願いしたら即座に快諾をいただいた。そのとき担当編集者は呟いたという。
「これは夢か幻か、それとも……」
現実だった。木原氏は「どうもー」と笑顔でやってきた。そして、社会的な立場が確立している木原氏がこのような雑誌に登場して問題ないのかと自虐の気遣いをする編集S君に「関係ないよー」と手を振って言った。
「だって俺、愛読者という点にウソはありませんから」
明確なお答えである。人それぞれの怪異を聞き集め、その人なりの現実として体験談を忠実に世間に伝えている木原氏らしい返答だ。
ということで、少女趣味を作品化しているアーティストに熱い想いを語ってもらうシリーズだが、今回は少し趣向を変え、読者目線で“うぶ”を語ってもらうことになった。
「僕は『うぶモード』は、ロリコン系とは思っていません。この雑誌でロリコン云々というのは筋違いです。ロリータ趣味と、ロリータコンプレックスとは違うんですから」
木原氏は作家としてだけではなく、『空想科学読本』や『いつまでもデブと思うなよ』などのヒット作を手がけたプロデューサーとしても有名だ。
児童ポルノ法の改正に反対! という編集部企画は、のっけから否定されたのだった。
「僕はなぜ、この雑誌が好きなのか? 理由は簡単です。素人投稿モノの写真が好きだからですよ」
本家『ニャン2倶楽部』創刊号からのファンだそうだ。
「脱ぐことを職業としている人の写真はどんなによく出来ていても、いや、よく出来ているからこそ、つまんないんです。カメラマンのうまさと女優の良さ、狙われた完成度……。分析するとこの言葉に尽きるんですけど、一般のグラビアなんかは、お約束的なんです。だからつまらないんです。
たとえば、カメラマンがヘタクソでも、被写体が可愛ければそこそこいい写真が出来上がります。女の子がそんなに可愛くなくてもカメラマンの腕があれば、やっぱりそこそこきれいな写真が出来上がります。だから被写体と腕が合致していれば、基本的にいい写真が出来て当たり前なんですよ。これって実は普通の写真集と変わらないんです。撮る前から……このカメラマンでこの子を撮ろうよと決めた段階で……実は決着してることなんですよ。だから上手すぎるとつまらないんです。
グラビアのことで言えば、今の漫画雑誌はなぜ売れるか。実はグラビアで売れている部分もあるんです。グラビアで釣って漫画を読ませる方法論ですよね。つまり女の子は一種のエビなわけで、それで読者という鯛が釣れたらいいなと。活きのいい海老だったら活きのいい鯛が釣れるかもね、大漁だったらいいね、と。だから方法論で言えば、グラビア雑誌も漫画誌も、エロ投稿誌も基本は同じだと思います。
じゃあ、なぜ僕は〝うぶ〟を愛読するのか。凄くわかりやすい言い方をすれば、下手さのリアリティですよね。極端なこと言うと 、お金のためにやってるわけじゃない趣味趣向の世界だからいいんです。さっきの言い方に倣えば、お約束が見えない写真ばかり。だから面白いんです。凄くキレイな写真を狙っているわけでもない、被写体を凄くきれいな女の子として撮らなきゃというわけでもなく、フレームと、表情ばかり気にしていて……。本来、写真の完成度に必要な一番きれいなところ、目を線で隠されるのを知っているわけですからね。
そもそもロリ云々以前に、こんな本があっていいのかと論じられるならわかるけれども、載せている写真の女の子が制服を着ていて……というところでダメだというのはわかりません。
そういうところに文句をつける人って、撮ってる写真の、プレイの一部であることがわからずにロリだからダメだって言ってるわけでしょう? でもこれはコスプレの撮り方のひとつのバージョンでしかない。そこだけを切り取って〝この雑誌はロリです。世の中の悪です〟と言うのはおかしな話だと思います。大人の女性が未成熟の象徴である制服を着ている。その不完全さを面白がったりする。そんなエロの捉え方のどこが悪いのでしょう。
もっというと、写真を撮ることそのものが趣味だという人もいます。実は投稿者って、カメラ好きの一派に過ぎないかもしれません。極端なことを言えば、富士山の朝焼けを撮っているマニアと、根本は一緒かもしれません。たまたま女の子を撮るのが好きで、その衣装の一部が制服だというだけです。
グラビアの女の子たちは、自分で水着ばかり着たいと思ってるんですかね? おそらく違うでしょう。この衣装を着てよと、編集者やカメラマンに言われて着てますよね。オーダーです。だからこの雑誌(うぶ)と、どこがどう違うの? という考え方も出来ますよね。旦那や彼氏が〝俺がカメラマンで俺がクライアントだ。俺がそそるものを撮りたい〟と思って、大人の女性の同意のもとに撮ってるわけですからね。その人が水着を着せようが制服を着せようが、そのままハメ撮りしようが……出来上がりは当然違いますけど……実はグラビア雑誌と大差ないです。従って、一言でいえば〝個人の趣味趣向にケチをつけるな〟と、そういうことです」