都築響一 妄想芸術劇場 第一回

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写真が瞬間芸だとすれば、イラストは独演会だ。

観客ゼロの高座で2時間、汗みどろで語りつづける脳内の発情ランドスケープだ。

写真ページの添え物とさげずまれ、アートともイラストレーションとも漫画とも

認知されないまま、ひっそりと増殖する陰花植物。

欲情の、淫夢の、妄想のもっとも純粋なあらわれとしての、マイクロ・ニルヴァーナ!





# 1 ぴ ん か ら 体 操 1


1990年の『ニャン2倶楽部』、そして93年の『ニャン2倶楽部Z』創刊当初から設けられた投稿イラスト・ページ。「イラストの森」「趣味のあぶな絵」「汗かきマスかきお絵描き教室」「現代の春画展」などと、そのときどきで適当なタイトルをつけられながら現在も継続中である。


20年間の歴史が生み出した多数の常連、名物投稿者を取り上げ、いわばウェブ誌上個展として紹介していく『妄想芸術劇場』。そのトップバッターとしてご紹介するのが「ぴんから体操」氏である。すでにご存じの方も多かろう、ニャン2史上に輝く伝説の投稿アーティストだ。


ぴんから体操氏がニャン2に初登場するのは1992年1月。色鉛筆の繊細な筆づかいを特徴とする現在の画風とはずいぶん異なり、猫耳に大きな瞳の少女たちを主人公にした漫画ふうの作品だった。


94、95年と投稿が一時途絶えるが、96年になって復活。しかしその作風は一変していた。90年代初期の漫画タッチは影をひそめ、黒ペンによる点と線だけで画面が構成された、それはダークなグロテスク・リアリズムであった。漫画家・東陽片岡を想起させる背景の緻密な描線と、点描による人物表現から生まれる異常な緊張感。突然の作風転換の裏に、いったいなにがあったのだろうか。


おそらくはこの時期、ぴんからさんはニャン2だけでなく、『投稿写真』誌にもイラストを定期的に投稿していたらしく、そのクオリティに驚愕したリリー・フランキー氏が渋谷で会場を借り、『スーパー写真塾』から借り出した作品の展覧会を開催している(『美女と野球』にその顛末が載っているので、興味のある方はぜひご一読を)。


しかし2001年、ぴんから体操氏の作品に色が戻ってくる。それも「ぬるぴょん」とみずからが呼ぶ、ぶよぶよとした不定形のかたまりとなって。その初期のうちはまだ写実的な女体との組み合わせだったが、年を経るに従って作品はどんどん抽象化していき、最終的にはハンス・ヴェルメールの球体人形にも似た、ほとんど肉球のみで構成された作品に昇華していく。それはもはや「エロ・イラスト」の範疇を超えた、シュールレアリスムふうの絵画作品と呼ぶにふさわしいクオリティを持つものだった。


そして2004年から2005年にかけて、またもやぴんからさんは作風を大きく変える。それまでの肉球は完全に消え去り、色鉛筆による淡いタッチで、写実的に女性を描いて(しかしその大半はスカトロジックなのだ)、グロななかにもどこか牧歌的な匂いのする作品群の登場である。


これまでニャン2誌上ではなかなか紹介する機会がなかったが、ぴんから体操氏の作品裏には、ほとんどすべてにテキストが書かれ、ときにはそれが一編の詩のように長かったりもする。そしてときにはそれば、絵をしのぐほどにシュールだったり、ビザールだったりする。今回はその文章も掲載するので(ただし原文は手書き)、絵とワンセットでじっくり味わってほしい。今週から4回、作風の変遷を追いながら、できるだけ多くの作品を紹介していきたい。





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穴の肉星





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穴の肉星6 野外訓練
おまんこにミツをぬられてこのかっこうのままアリにたかられても気味悪い虫がきてもグラスを落してはならぬ もし落したらもっとひどいおしおきがまっているからじゃ





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人に名前をたずねられたら「旅人と」だと!!(ブラックジャックアニメより)

けつのあなのにおいのする ひながたあきこのけつのあなのにおいのするへやで 花のにおいを鼻のあなの奥のうすむささき色のねばねばしたなまぐさい粘液でコーティングされた思い出のあきこにあいたい 肉って  デブでいいじゃないか



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病院で言われた。ちんぼうが骨折しています、ぬははと。 つったったままの看護婦はだらだらして思いつめたよう。いたいよう。ぬははと三年前につぶれた、病院のべっとで、血ぬれて待つだろうか。 もう一度ゆきたい 弟が待っている消えた病院へ。





ぴんから体操の作品をもっと見たい人はこちら!!
↓↓


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編集・都築響一
『妄想芸術劇場001』

恵比寿NADiff a/p/a/r/tにて絶賛先行発売中。
近日、BCCKSサイトより電子版、印刷版ともに発売されます。





都築響一
1956年、東京生まれ。現代美術、建築、写真、デザインなどの分野で執筆活動、書籍編集。93年、東京人のリアルな暮らしを捉えた『TOKYO STYLE』刊行。96年、日本各地の奇妙な新興名所を訪ね歩く『珍日本紀行』の総集編『ROADSIDE JAPAN』により第23回木村伊兵衛賞を受賞。 97年?01年『ストリート・デザイン・ファイル』(全20巻)。インテリア取材集大成『賃貸宇宙』。04年『珍世界紀行ヨーロッパ編』、06年『夜露死苦現代詩』、『バブルの肖像』、07年『巡礼』、08年『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』、10年『天国は水割りの味がする~東京スナック魅酒乱~』など著書多数。現在も日本および世界のロードサイドを巡る取材を続行中。







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