ヒロイン手帖 × 内山亜紀 3

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-言葉の端々から滲み出る現代社会への警告



多忙を極めている最中に、週刊漫画誌の依頼が舞い込んだ。


『あんどろトリオ』ですね。あれが一番過酷でした。1年で終わりましたけど、あれが長く続いていたら死んでたと思います。何より打ち合わせが毎回あるっていうのが大変だった。劇画編集部では漫画を描く前の打ち合わせってなかったから(笑)。だから何も考えないで描いていたんですけど『少年チャンピオン』は、毎回“今度はどういうネタで行きましょう”かと。経験がなかったんでつらかったですね」


とはいえ、これは目指していた念願の少年漫画誌の仕事である。舞い上がるようなことはなかったのか?


「突然だったんですよ。最初、編集長さんから“うちで描いてみませんか”と電話が来て。何の前触れもなく。こっちも気が動転していた部分もあったのかも知れませんけど、劇画の仕事が山ほどあっていっぱいいっぱいだったんで“申し訳ありませんけど週刊は書けません”と断っちゃったんですよ。電話を切ったあとに“もしかして、もったいないことをしたのかも”と思ったんですけど(笑)。そしたら数日後に編集長さんが家まで来たんです。それも突然ですよ。それで断るに断れなくて、試しに読み切りで4週連続で、4本描いてくれと。4本ならまあいいかと、どうにかこうにか書き上げて、載っかってみたら人気投票でベスト3に入ったんです。でも約束なんで4週で終わりかなと思ってたら“とんでもない、終わりませんよ”と。それでずるずると1年くらい描くことになった」


『少年チャンピオン』連載中も、劇画の仕事は続けた。結果、ひたすら漫画を描くという日々。一ヶ月に250ページを描いたこともあった。これまた単純計算で1日8ページ超!


「だから当時のことを思い出してみると、いつ寝ていたんだろうと不思議なんです。とりあえずアパートの前に居酒屋さんがあって、そこが閉店してお客さんが始発で帰るために吐き出されるのを見て、そろそろ寝ようかと、そういう生活リズムがあったのは記憶してますね。だからか、知り合いの女性編集者さんに“先生はかわいそう”と言われたことがあります(笑)。その人の漫画誌で1年ぶりに描いて原稿を取りに来てくれたとき。“先生は何を楽しみに生きているんですか?”と。1年前に来たときと部屋が何も変わっていないって。こんなに仕事してるんだからそれなりにお金ももらったでしょうに、部屋が何も変わってないと。言われてみれば、部屋は六畳一間のままだし、机の横にあるラジカセ1台すら1年前と一緒。新しい電化製品もインテリア品も増えていない(笑)」


思いのまま、好きな漫画を描いてきた。だから今の時代にわき起こっているロリコン問題についてあれこれ聞いてもわからないという。


「もちろんいろいろあるとは知ってますけど、僕にはわからないですよ。だから意見をと言われても、何もないです。小学生がダメなら高校生、高校生がダメなら女子大生……と年齢を上げていけばいいのかなと、突き詰めて考えるとそうなっちゃいますよね」


実社会の少女に対して、何か特別な感情を抱くこともない。


「もしそういう感情がしょっちゅうあったら疲れちゃいますよね。人生に迷っちゃう(笑)。漫画を描いていること自体がどちらかと言うと好きでやってることなんで、それ以上のものでもないし、それ以下でもない。その中だけで充分に自分では楽しめているんでね。現実との接点はないんで」


とはいえテレビやパソコンの中にいる美少女は目に飛び込んでくる。


「好きなアイドル? その時代にもよりますけど、今だったらAKBですかね。ミーハー的にそっち方面に行っちゃいますねー。あと韓国のほうから、新しいアイドルがちょこまか入ってくるんで。そのへんは他の人と一緒だと思いますよ。特に何かを意識してるわけじゃない。見る側だと、読者の皆さんと同じレベルですよ」


激動の昭和から混沌の平成へと時代が流れていくなかで、二次元ロリは生まれ、発展してきた。その正史とも言うべき体験談を語る内山さんは終始にこやかだった。それは「漫画は漫画、現実は現実という単純な違いがどうしてみんな区別できないのだろう」と言っているようにも見えた。

内山亜紀(うちやま・あき)

1983年3月3日生まれ。本名:○○美沙子。東京、板橋区の生まれ。小学生低学年時代は屈折していました。内気で友達がいない子でした。話し相手だったフランス人形「マリー」と、ペットのインコ「アルル」の絵を描いたのが漫画を描くきっかけに。小学校4年を境に、それまで抑えていたパワーが爆発したのか突然いじめっ子に逆転。近所や学校の嫌われ者として数年を過ごす。親の都合で、某お嬢様中学に入れられて再び屈折。同級生の美少女との恋におぼれ、官能世界を初体験しました。好きな作家は太宰治。好きな言葉は「諸行無常」「虚々実々」「夜と朝の間に」※『内山亜紀のホームページ』より。

リンク 内山亜紀のホームページ

このインタビューは2010年うぶモード11月号の転載です。