エロ年代の想像力 第十五回

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エロ年代の想像力

#15 『 誘 惑 』

アニメルカ出張版




 いよいよ、南澤十八全作品レビューもラストを迎える。南澤名義で最後に発表した作品は、パッケージという単位でいえば前レビュー作『旅館白鷺』第二巻になるが、本シリーズ『誘惑』が、南澤の仕掛けた誘惑で最も遅くに開始されたもの??つまり「新房×シャフトシステム」が運用されはじめるその直前、南澤名義として最後に組まれたプログラムである。ここではまさに、テレビシリーズを前提としたギミックや人材が試用されるだろう。




『誘惑』
(監督:南澤十八、製作:ディスカバリー、全2巻、2003年)





 全二巻のサブタイトルが「始発の章」、「終電の章」となっているように、本作における性行為は、電車の中から走りはじめる。そしてもちろん、南澤名義での始発『アンバランス』がそうであったように、終電である『誘惑』においても、電車とは性欲の暴走する陵辱空間として存在する。作品は幾多のアイキャッチによって各車両のように分断されながら、痴漢行為は連結し続ける。




 しかし『誘惑』における電車は、新房/南澤的というよりは、『serial experiments lain』に近しい印象を受けたかもしれない。メインヒロインの髪型にも面影を感じ取れ、何より時系列も錯綜する。だがここで、近年の新房×シャフトと『lain』との間の奇妙な符号を思い出す必要があるだろう。例えば『魔法少女まどか☆マギカ』のキャラクターデザインは『lain』と同じ岸田隆宏である。もちろん、最後に概念存在化したまどかと偏在する玲音との類似性も頻繁に語られる。アニメ史的に見ても、『lain』を、『まどマギ』が実質的に総括した歴史=深夜アニメの原点として位置づけても誤りではないだろう。『アンバランス』が『化物語』の前身であったように、南澤後期が10年代新房×シャフト作品のプロトタイプとなっていることはもっと指摘されても良い。




 またこのことは、『清純看護学院』の大沼心と同様に、スタッフワークとしても語ることができる。本作の作画監督補佐・原画に名を並べるのは、今期シャフトアニメ『電波女と青春男』で「メインアニメーター」の役職にクレジットされた村山公輔と杉山延寛の二人である。つまり現代アニメ界を牽引する新房×シャフトとは、エロ年代の想像力によって規定されていると言って、露ほども間違いはない。







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誘惑 ?始発の章?




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誘惑 ?終電の章?



 以上0721文字。なお、本論で言及した新房×シャフトと『lain』との関係は、『アニメルカ vol.4』という書籍に詳細な言及があるらしい(対談「アニメルカ白熱教室」石岡良治×反=アニメ批評)。「岡田麿里とアニメの物語論」を謳ったこのアニメ批評誌は、文学フリマでは完売してしまったとはいえ、7月上旬には委託販売が開始されるそうなので、南澤十八/新房昭之と並んでチェックする必要がある。また、夏のコミックマーケットでは、南澤十八/新房昭之試論のまとめも発行される可能性がある。続報を待たれたい。



PROFILE
反=アニメ批評(@ill_critique
アニメ批評同人誌『アニメルカ』責任編集。
思想恥部シリーズ『エロ年代の想像力』責任編集。
『エロ年代の想像力』のほうは現在、ジュンク堂 新宿店、MARUZEN&ジュンク堂書店 渋谷店、COMIC ZIN、タコシェ、および通信販売で好評発売中。
『アニメルカ』オフィシャルサイト
反=アニメ批評