エロ年代の想像力
#05 揺れる乳房と少女の精神(こころ) ?野火止用太概論
アニメルカ出張版
現在のエロアニメ界において特定の作家名が強調され、ユーザーに重要視されるというケースは極めて少ない。この十年のエロアニメ界で作家性らしきものを広く認知されたエロアニメーターはおそらく鬼畜陵辱界の鬼才、むらかみてるあきくらいだろう。
もちろんむらかみてるあきの他にも数多のヒット作を手がけた雷火剣、一時期需要がバブル状態だったエロゲ原画家のTonyなど、ユーザーに評価され、購買意欲に影響を与える「作家」は少なからず存在する。しかしその固有名の力はシナリオライターや原画家によって購入作品を選択する、「作家買い」が自明のものになっているエロゲなどと比べると、あまりに乏しい。
アニメは宮崎駿や富野由悠季、エロゲは麻枝准や奈須きのこ。ある表現が隆盛したとき、そこには語られるべき作家が同時に存在する。つまり痩せ細ったエロアニメの大地の活性化を、言説を紡ぐ事によって試みるとしたら、それは荒野から「作家」を発見する作業に他ならず、それこそがエロ年代の想像力を語る我々の使命の一つだと言えるだろう。
そこで今回はその「作家」の一人目として、エロアニメ界の新たな才能として俄かに注目を集めている野火止用太を取り上げる。
野火止用太のエロアニメーターとしての歴史は、まだ三年弱と浅い。
その名前は『放課後2 ~紗由理~』(2008年)の絵コンテの担当として始めて登場し、そして次の『とらいあんぐるBLUE』(2009年)で初の監督を務める事になる。この二作はともに恋人が他の男性に寝取られる事によってマゾヒスティックな快感を喚起する??いわゆる「NTR(寝取られ)」と呼ばれるジャンルであり、以降NTRは野火止の代名詞の一つとなる。
『とらいあんぐるBLUE』によって野火止はNTRファンから一定の評価を得る。とはいえこの時点ではエロアニメ界においてもまだマイナーな存在に過ぎなかった。その名を一躍世に知らしめたのは三つ目の監督作品、『鬼父』(2009-10年)である。
『鬼父』の原作(エロゲー)は抜きゲーとしては健闘した部類に入るものの、決して目立った存在ではなかった。しかし野火止はそれを巧みに映像化し、その年を代表するヒット作へと叩き上げる。この成功で野火止は現在エロアニメ界において最大手の一つに数えられるエイ・ワン・シーグループ内で主に鬼畜陵辱系の作品を発表しているレーベル「PoRO」のエース的存在として、確固たる地位を築く事になる。
しかし筆者が野火止を評価し、本稿で取り上げるのは、単に氏が新たなヒットメーカーだからではない。市場に支持されているエロアニメーターは氏の他にも多々存在する。なぜ、野火止用太なのか。そこにはエロアニメの存在論的主題が内包されている。
エロアニメのレゾンデートル??他のアダルトメディアであるエロゲやエロ漫画と比較した際にエロアニメの持つ優位性、ひいては固有性とは何か。それはむろん「動的な性描写」である。90年代のエロアニメ界ではその特性を活かす形で触手ブームが興り、ゼロ年代には上述のむらかみてるあきが「高速ピストン」や「アクメ顔」などの単語に代表される、エロアニメ以外では表現困難なアクロバティックな描写でカルト的支持を得た。
そしてそのような動的な性描写の基本として挙げられるのが、性行為の際の乳房の運動である。エロアニメの性描写の良し悪しの八割はこの乳房の運動で決定すると言っても過言ではない(乳房も満足に描けない人間に優れたセックスなど描ける筈がないのである)。
その点において野火止は秀でた存在だ。氏の作品の乳房は弾力性に富み、瑞々しく、そして鮮やかな軌跡を描く。しかしこれもまだ、野火止の真価の半面に過ぎない。
ここで先ほど記した、野火止がNTRや鬼畜陵辱といったジャンルの作品で頭角を現した作家という話を思い出してほしい。これらのジャンルの醍醐味の一つはヒロインの精神(こころ)の揺らぎにある。望まれぬ形で性行為に及んだヒロインが快感に溺れるその瞬間、彼女たちの乳房は激しく運動する。それはあたかもように揺れ乱れる心のように??そう、野火止の作品において乳房の運動は、精神の運動と連動しているのだ。
その最も顕著な例が上述のヒット作『鬼父』である。我々はそこでツンデレのヒロインがツンからデレへと移行する精神の揺らぎに呼応し、異常な運動を始める乳房を目撃する事になる。
二流エロアニメーターは乳房の運動を平面的に、二次元でしか捉える事ができない。一流はそれを立体として三次元で捉える。そして野火止はその乳房を被写体の精神と連動させる??言わば四次元で捉える。これが「野火止おっぱい」の真髄である。
絶えず更新を続けるエロ年代の想像力を把握するために、我々はエロアニメ界を揺らし続ける野火止おっぱいの動きを注視しなければならない。
鬼父 上巻「小生意気なホットパンツ」
鬼父 下巻「はしたない清楚なレギンス」
以上、1974(イクなよ)字。
野火止用太が現在のエロアニメを語るうえで最も重要な「作家」の一人だという事がある程度は御分かり頂けたと思うが、しかし本稿はまだ序章にすぎない。次回からは野火止用太の監督作品を個別に読み解いてゆく。
PROFILE
杉田u(@sugita_u)
思想恥部シリーズ『エロ年代の想像力』企画協力。またアニメ批評同人誌『アニメルカ vol.1』に四コマ原作アニメ論を、『アニメルカ vol.3』に『けいおん!』論を寄稿。
『エロ年代の想像力』のほうは現在、ジュンク堂 新宿店、MARUZEN&ジュンク堂書店 渋谷店、COMIC ZIN、タコシェ、および通信販売で好評発売中。
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